第9話 引っ越しがしたいので頑張るよ

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 009_引っ越しがしたいので頑張るよ

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 第二エリアのエリアボスはブルーリトルデーモン。普通のリトルデーモンは火炎放射で攻撃するけど、このブルーリトルデーモンは放水で攻撃する。剣のように鋭い放水でシーカーたちを傷つけ、射程距離も長い。


 僕が近づいていくとブルーリトルデーモンがトライデントの先を僕に向けて放水してきた。

 僕は転移ゲートを出してその放水をブルーリトルデーモンの後頭部に向けた。

 自分の放水が後頭部に命中して吹き飛んだブルーリトルデーモンに、僕は赤銀製の剣を振った。

 この赤銀製の剣は第二エリアの隠し通路の宝箱から発見したもので、刃渡り九〇センチほどのやや長めの日本刀に近い片刃の剣だ。


 赤銀はダンジョン内でしか手に入らない金属なので、この剣の価値はかなり高い。

 シーカー協会で鑑定してもらった後、オークション履歴を確認したら二〇〇〇万円から三〇〇〇万円くらいの価値だったので驚いたのを覚えている。


 赤銀製の武器は五級や四級くらいのシーカーがよく使うグレードなので九級の僕が使うような剣ではない。しかし、使わざるを得なかったんだ。


 今日、ダンジョンを進んでいたら、ゴブリンとの戦闘で鉄製のショートソードが折れてしまった。『SFF』が高くなった僕の力に、ショートソードが耐えられなかったんだと思う。


 そんな赤銀製の剣を振ったら、手応えもなくブルーリトルデーモンの首が地面に落下した。

 自分の攻撃で後頭部にダメージを受けた時点で瀕死だったので、倒すのは難しくなかった。


 ドロップアイテムは黄銅の塊だった。金色だったので金塊か! と一瞬思ったけど、ブルーリトルデーモンから金塊はドロップしないので、黄銅だと判断した。


 これが迷宮金属ダンジョンマテリアルと言われる迷宮黄銅や迷宮鉄などの特殊な金属なら数百万円になるけど、ただの黄銅では数千円から数万円にしかならないのが悲しいところ。

 ブルーリトルデーモンはエリアボスでも下級の魔物なので、こんなものだね。


 僕が探索している清州ダンジョンは、第五エリアまである初心者用のF級ダンジョン。

 地獄の門の下にはA級ダンジョンでも出てこないような魔物が存在していたけど、そのことは誰も知らないと思う。


 普通は八級昇級と共にE級ダンジョンへ活動の場を移すので、清州ダンジョンでは見習いと言われる一〇級と九級シーカーが活動している。


 第三エリアに入った僕は、第二エリアと同じようにあまりシーカーが居ない場所を選んで探索した。

 この第三エリアは第一や第二エリアに較べると、かなり薄暗い。だけど僕には『魔眼』があるので暗さは問題にならない。最近は『魔眼』を発動させたままダンジョン内を進むことが普通になっている。だから、明るさは関係ないんだ。


 第二エリアで隠し通路が発見されたことで、第三エリアでも隠し通路があるかもしれないとシーカーたちが広範囲で活動しているみたいで、あちらこちらにシーカーの姿がある。


 第三エリアで最初に遭遇した魔物は、ブラックフラワーという花の魔物。

 黒い花ビラを飛ばしてきてシーカーを切り裂いたり、花粉でシーカーを麻痺させたりする嫌らしい戦い方をする魔物。

 極めつけは細い根をシーカーに刺して生命力を奪うというミドリさんの『植物操作』に似た攻撃をしてくる。


 ブラックフラワーには近づかないのが一番。僕は『結晶』でブラックフラワーの力場を奪った。

 魔石を拾おうとしたら、魔石のそばにアイテムが落ちていた。エリアボスでもない魔物がアイテムを落とすのはかなり珍しいことだけど、まったくないわけではない。


「花の指輪……?」


 黒い花があしらわれていて、その真ん中に黒い石がハメられている。どういうものか鑑定してもらわないといけないけど、良い効果があっても男の僕では花の指輪はハメづらい。


 第三エリアを適度に探索して地上に戻った僕は、シーカー協会で魔石を換金した。今回は二三万円を越え、毎回過去最高額を更新していくので嬉しい限りだ。

 換金が終わると花の指輪を鑑定してもらった。


「こちらは麻痺耐性の指輪になります」


 この麻痺耐性もそこまで高い効果ではないみたいだけど、麻痺耐性の指輪は需要があるのでオークションに出せば一〇〇〇万円以上になるだろうとのことだった。

 こういう効果のあるアイテムは効果が低くても一〇〇〇万円以上するため、ドロップするとかなり嬉しい。

 本当は僕が使いたいけど、デザインがちょっとあれなので判断を保留することにした。


 アパートに帰ってから近くのスーパー銭湯に向かう。稼げるようになったので風呂のある物件に引っ越ししようかと思ったけど、清州ダンジョンを踏破してから引っ越そうと思いとどまる。


 広い湯船に浸かると「あぁぁっ」と声が出る。

 夏だと水で体を流すだけで済ますことが多いけど、やっぱり風呂はいい。

 これから夏本番になると、スーパー銭湯で風呂に浸かっても帰るまでに汗が出るから早めに風呂付きの物件に引っ越せるように、清州ダンジョンを踏破しようと決心する。


 翌日もダンジョンに入った。第三エリアではブラックフラワーの他に、サイレントバットが現れる。

 このサイレントバットは音もなく近づいてくるコウモリ型の魔物で、気づいたら攻撃されていたなんてことが多いらしい。

 サイレントバットは飛んでいるので、剣では対応が難しい。しかも、サイレントバットは風を操って攻撃してくるので、遠隔攻撃も得意だ。


 僕はサイレントバットに攻撃するのに、『時空操作』を試してみた。サイレントバットの進行方向に網のような空間の歪みを出してやると、そこに絡み取られたサイレントバットが空中でもがいているところに転移ゲートから剣を突き入れてとどめを刺した。

 意外とできるものだと、自分でも感心した。


 第三エリアには大モグラという体高一メートルほどのモグラの魔物が出てくる。ほとんど出てこない魔物だけど、地面の下を掘って空洞を作る魔物なので体重が重いシーカーなどは、地面が崩れて空洞に落ちることがある。

 この空洞に落ちると、振動を感じて大モグラが近づいてきてシーカーを襲うんだ。


 空洞は狭く穴の中の戦いは大モグラに有利なので、穴に落ちないようにスキーのような板をつけて進んでいるシーカーも居る。

 僕は幸いにもそこまで体重が重くないので落ちてない。仮に落ちても転移ゲートがあるので、そこまで悲観はしていない。


 地面の下に居る大モグラも『魔眼』で発見できるので、『結晶』で生命力を奪って、空洞内に落ちている魔石は転移ゲートを繋げて拾っている。

 そうやって進んだ僕は、第三エリアから第四エリアへと入った。第三ボスのエリアボスは他のシーカーに倒されていて、居なかった。


 第四エリアは洞窟がかなり広い。将棋盤のように四角の空間が並んでいて、それを繋ぐ通路は一メートルくらい。

 シーカーの居ないルートを選んで進んだ僕は、誰も居ないところで転移ゲートをアパートに繋げて帰った。


 清洲ダンジョンを第五エリアまで探索すると一泊二日が最短ルートになる。しっかりと探索するには、四日や五日は篭ることになる。

 僕は踏破を急いでいるけど、探索も忘れていない。本来はダンジョンの中で野営するのだけど、僕には『時空操作』があるのでアパートというセーフティゾーンで休むことにした。

 他のシーカーがこのことを知ったら非難してきそうだけど、これが僕の特殊能力なので文句を言われる筋合いはない。


 濡らしたタオルで体を拭いて、カップラーメンでお腹を満たした僕は布団に入った。

 ゆっくり寝ることができた。おかげで疲れは残っていない。寝袋ではこうはいかないから、本当に助かる。


 朝食を食べてしっかりと準備した僕は、第四エリアに戻った。

 転移ゲートを出ると、一五メートルほど先にコボルトが見えた。そのコボルトはいきなり現れた僕に、かなり驚いているようだ。


 コボルトは二足歩行する犬で、かなり動きが速い。でも、今の僕にとってはそこまで危険な速さではない。

 鋭い爪で引っ掻こうとしたコボルトの攻撃を避け、カウンターでその腕を切り飛ばすとコボルトは痛みでのたうち回る。僕は構わず『結晶』を発動した。


 すぐにホブゴブリンを発見し、これも倒した。得た結晶を解放して取り込んでいるおかげで、日々『SFF』が増えていく。それが身体能力になって僕を前に進ませる。

 以前はほとんど増えなかった『SFF』だけど、今では急速に増えていく。それに魔物を倒したことで自然と増える『SFF』もあるはず。

 この清洲ダンジョンを踏破した後に、『SFF』計る時が楽しみだ。


 第四エリアをくまなく歩き回った。それだけで一日かかったけど、これで第五エリアへ向かうことができる。

 第四エリアのエリアボスも居なかった。運が良いのか悪いのか。僕は第五エリアへ足を踏み入れた。

 第五エリアはかなり明るい。明るすぎるほど明るい。岩が光りを発しているように、あちこちから光が来る。なんだか気持ち悪いエリアだ。

 でも、『魔眼』を発動していれば、眩しさは関係ない。


 ゴブリンライダーはオオカミにゴブリンが乗っている魔物だ。その速さはコボルトを上回るのでちょっと苦労したけど、それでも苦戦するほどではなかった。

 情報は持っていたけど、初見なのでその速さに少し驚いただけだと思う。


 ゴブリンライダーはゴブリンを殺しただけなのに、オオカミまで消え去ってしまう。逆にオオカミを殺した場合でも、ゴブリンまで消えてしまう。一心同体のようだ。


 さらに探索を進めると、丸い何かが空中に浮いていた。『魔眼』で見てなかったら、気づかなかったと思うほど裸眼では何も見えない。


「あれがこの第五エリア最大の厄介者か」


 エネルギーボールと呼ばれるその魔物は、この眩しさに紛れて姿を隠している光の球だ。

 攻撃力はほとんどないけど、見えないのをいいことに体当たりしてくる。当たりどころが悪いと脳震盪を起こしたりする。それに、目などに当たれば、かなりマズいことになる。

 でも、一番厄介なところは、他の魔物と闘っているところにエネルギーボールが乱入してくることだ。見えないので気づいたら、脳震盪を起こしていたとかあるらしい。それで全滅するシーカーパーティーもあると聞いたことがある。

 エネルギーボールに『結晶』を発動して倒す。『魔眼』があれば、油断しない限り怖くない魔物だ。


「あ……」


 探索を進めていたら、また壁の力場を見つけてしまった。第四エリアへの通路からも、エリアボスの居る場所からもかなり離れている場所だ。



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