第15話 内閣官房報償費
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015_内閣官房報償費
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トロルを倒した僕は、地上へ戻った。シーカー協会へ行くと何か騒々しい。どうしたのかと、思いながらフィジカル測定器で『SFF』を測定した。
僕の『SFF』は五八〇ポイントになっていて、七級昇級試験を受けられる五〇〇ポイントを越えていた。
七級の昇級試験が受けられると、うきうきしながら受付で昇級試験の申込をした。そのついでに協会内が騒々しい理由も聞いてみた。
「枇杷島ダンジョンでハグレが出没して、シーカーに被害が出ているのです」
なるほど、そういうことか。七級シーカーパーティーでは対処できない
「カカミさんも、枇杷島ダンジョンを探索されていたと思いますが、ハグレの情報を確認してからダンジョンに入るようにしてくださいね」
「そのことですが」
僕は受付の女性の加藤さん(名札に書いてある)に、トロルの討伐を報告した。
「え?」
最初は信じてもらえなかったけど、トロルの魔石を見せると大慌てで他の職員を呼んできた。その職員はアイテム鑑定を持っているようで、僕が出した魔石がトロルの魔石だと断定した。
その後、僕は会議室に通されて、大水支部長まで出て来た。
「ハグレのトロルを倒したとか。状況を確認させてもらいたい」
神妙な顔をした大水支部長がそう言ったので、岩山を登っているときにトロルと遭遇したと説明した。戦いはかなりギリギリだったけど、なんとか倒せたと話した。
その際、ドリル弾のことは秘匿したけど、『時空操作』を使って倒したと説明した。
「『時空操作』か。初めて聞く特殊能力だな。君は知っているか?」
大水支部長に『時空操作』のことを知っているかと聞かれた職員も知らないと答えた。
「君が新しい特殊能力に目覚めた可能性は考えていたが、本当に新しい特殊能力を得たのだな」
僕の特殊能力が『結晶』だというのは、この清州支部では有名な話。その『結晶』が使えない特殊能力だというのも、とても有名だった。なんと言っても二年三カ月も一〇級シーカーをしていたからね。
大水支部長は僕が新しい特殊能力を得た可能性が高いと思っていたらしい。
僕が『時空操作』のことを正直に教えたのは、シーカー協会は特殊能力の情報を開示させる命令を出せるからだ。
僕が秘匿すると言っても、トロルを倒した手段の開示命令を出されてしまうと話さないといけない。だったら、僕から情報を開示して大水支部長の心証をよくしようと思った。
素直に話したら追及されなくなる。ドリル弾のことは秘匿したいから、正直に特殊能力のことを教えた。それに、シーカー協会とはいい関係でいたいという打算があってのことだ。
「特殊能力のことは、他のシーカーには秘密でお願いします」
「もちろんだ。しかし、君は珍しい特殊能力を引き当てる才能があるようだな」
『時空操作』もそうだけど、『結晶』も他に誰かが持っているという話は聞いたことがない。
もっとも、レヴォリューターが全員シーカーになっているわけではないので、全ての特殊能力の情報が世の中に出ているとは限らない。
シーカー協会が命令を出せるのは、相手がシーカーの時だけ。それ以外の人に、シーカー協会はなんの権限も持たないんだ。
「一応、枇杷島ダンジョンに調査隊を送ってハグレについて調査をする。確認できたら、ハグレ討伐の報酬を渡すことになる」
隠し通路の時も調査してから報酬がもらえた。今回もそういうことなんだろう。
「まだ先の話だが、二カ所の隠し通路を発見した功績とハグレを一体討伐した功績があることから、五級昇級の推薦がスムーズになるぞ」
六級までは『SFF』の基準値をクリアすれば、昇級試験を受けることができる。でも、五級への昇級に関しては、『SFF』の他にシーカー歴やこれまでの功績が加味されて昇級試験を受ける推薦がもらえる。
「僕はまだ八級ですから」
「トロルは六級シーカーがパーティーで倒すような魔物だ。それをソロで倒せる君ならすぐに五級へ駆け上るだろう」
そう言ってもらえるのはとても嬉しい。そうなれるようにがんばると返事した。
話がひと段落したので、トロルからドロップしたアイテムを鑑定してもらうように頼んだ。
皮は予想通りのトロルの皮だった。問題はもう一つのほうだ。それは黒いリンゴのようなものだった。赤いリンゴなら食欲も湧くかもしれないけど、黒いリンゴではさすがに無理。
「これはっ!?」
大水支部長と職員が言葉を失っている。なんだろうか?
「鑑定してみないとはっきりしたことは言えないが、これは大変なものだと思うぞ、カカミ君」
鑑定を待つ間、お茶が出てきたので一口飲む。喉が渇いていたのでありがたい。その間、大水支部長は落ち着かないようだった。あの黒いリンゴは、それほど凄いものなのかな?
職員が帰ってきて、大水支部長を見つめながら頷いた。アイコンタクトなの? いったい何なの?
「カカミ君。今から話すことは決して他言しないようにしてほしい。もし、他言した場合は厳しい処分があると思ってくれ」
なんだか大事のようだ。僕は了承して大水支部長の話を聞くことにした。
「これはダンジョンクリエーター、またの名をダンジョンの実と言うアイテムだ」
「ダンジョンクリエーター……?」
「簡単に言うと、ダンジョンを作り出すアイテムなんだよ」
僕はしばらく呆けた。ダンジョンがアイテムからできるなんて聞いたことがなかったからだ。
大水支部長が冗談を言っているようには見えない。それに職員も神妙な顔をしている。本当に黒いリンゴがダンジョンを作るアイテムのようだ。
「驚くのは無理もない。ダンジョンクリエーターが発見された場合、箝口令が出るのが普通なのだ」
「そうなんですか……」
それなら情報が出ていなくても不思議はない。
「このダンジョンクリエーターは、国が買い上げる。オークションも何もない。しかも、税金のかからない内密の取引だ。理由は分かるな」
箝口令が出るほどのアイテムだから、その存在はなかったことにされる。だから取引もなかったし、税金もかからない。頭の中で整理して、頷いた。
「国が購入する金額は、一〇億円」
は? そんな金額が動くのに、内緒なの? いきなりのことなのに、予算はあるの?
「この金額の中には、口止め料も含まれている。拒否権はないが、悪い話ではないはずだ」
口止め料が含まれていることは納得できるけど、お金はどこの省庁が出すの? 僕はその疑問を素直に大水支部長にぶつけた。
「内閣官房報償費から出る」
大水支部長が言うには、内閣官房報償費は領収書が不要で会計検査院による監査も免除されており、原則として使途が公開されることはないお金らしい。
あまり政治には興味がなかったので、そんな便利なお金があるとは知らなかった。
ダンジョンクリエーターの代金一〇億円は、すぐに支払われた。なんと一〇億円が入った貯金通帳をもらった。キャッシュカードまであったのには驚いた。これも国が絡む極秘事項だからだと思う。
僕、大金持ちだよ。レヴォリューションブックのお金もあるし、この一〇億円には税金さえかからない。
嬉しいけど、微妙な感じ。ダンジョンクリエーターのことを話すつもりはないけど、つい喋ってしまったらどうしよう。国を敵に回しちゃうのかな。
七級の昇級試験も受け付けられて、僕はマンションに帰ってトロル戦を振り返った。
なんと言っても、『結晶』でトロルの生命力を奪えなかったこと。初めてのことでかなり動揺してしまった。
多分だけど、僕よりもかなり格が上の魔物だから、『結晶』がレジストされたんだと思う。
ハグレに遭遇するのは珍しいことかもしれないけど、まったく遭遇しないわけではない。その場合、今回のように『結晶』が抵抗される可能性は十分にあるだろう。
その時にドリル弾は切り札になるけど、ドリル弾は発動までに時間がかかる。早くても四秒、威力を高めるには、その数倍が必要になる。この四秒から数十秒が僕の生死を分けると考えると、とても不安になる長さだ。
「即時発動の攻撃手段があったほうがいいか」
空間の壁で防御を固めても、下手をすれば破られる。それに、空間の壁を出しながらドリル弾を発動させることはできない。ドリル弾は周辺の空間にも干渉するので、僕のリソースが全部使われてしまうから。
「新しい攻撃手段を考える必要があるか」
今回、頭に血が昇ってしまって、遅延を使うのを忘れていた。ただ、僕よりも上位の存在には、効果がないという前提のほうがいいだろう。最悪を考えて、行動したほうがいい。
「とはいえ、そんなに簡単に新しい攻撃手段が思いつくわけもなく……」
僕は新しい攻撃手段について考えたが、思いつかなかった。
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