第16話 オーク城の主
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016_オーク城の主
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昇級試験に合格して七級に昇級した僕は、ダンジョン探索の日々を送っている。
トロル戦から一カ月以上経過したけど、新しい攻撃手段は浮かんでいない。
枇杷島ダンジョンの第四エリアは巨大な城になっている。とても巨大な城で、出てくる魔物はオークばかり。だから、オーク城と呼ばれている。
オーク城は五階層からなる城だけど、その四階層に第五エリアに通じる通路がある。
金棒を持ったオーク、鎧と剣を装備したオークナイト、その上位種のオークジェネラルがこの城には陣取っている。
中でもオークジェネラルの強さはD級ダンジョンのエリアボス級なので、簡単に戦える相手ではない。
でも安心してください。戦わなくてもいいんです。次のエリアへの通路を守るのはオークナイト。エリアボスはオークナイトなんだ。
でも、オーク城の最上階には、上位種のオークジェネラルが陣取っている。このオークジェネラルは僕たちシーカーが最上階に立ち入らない限り動かない。しかも、オークジェネラルを倒しても、アイテムのドロップはほとんどない。戦うだけ無駄なので、物好きなシーカーくらいしか戦わない。
そんなオーク城で、僕はあれを発見してしまった。そう、隠し通路だ。当然ながら僕は隠し通路を隠している壁の力場を奪った。
隠し通路を進んで宝箱を発見。一個しかなかったけど金の宝箱だ。その宝箱を『魔眼』で見ると、罠がありそう。嫌な感じの力場だ。
宝箱の後方へ回り、距離を取る。空間の壁を利用して宝箱の蓋を開けると、ボンッ。宝箱の中から爆発が起こった。
爆発は前方へ噴き出す感じだったので、後方で距離を取っていた僕は無事だった。矢が飛び出す罠よりも力場が強そうに見えたので、念のため離れていて良かった。
爆発したのに、宝箱には傷一つない。中を見てみると、手甲があったので収納して先に進む。そしたら、謁見の間のような場所に出た。
その謁見の間に一体のオークが居た。でも、ただのオークではなく、王冠を被っている。玉座にも座っている。
「オーク……キング?」
いやいやいや、おかしいよね。オークジェネラルがいる五階層の奥に居るならともかく、なんで一階層にオークキングがいるの? いくら隠し通路だからってあり得ないでしょ。
謁見の間に入れば、ほぼ間違いなく入り口が塞がって強制戦闘になる。
さて、どうする? エリアボスのオークナイトよりもはるかに強いオークジェネラルをさらに上回る化け物と戦う?
オークジェネラルはアイテムをほとんどドロップしないけど、あのオークキングはどうだろうか? 過去二回の隠し通路の魔物は、良いアイテムを落としてくれた。おそらく、オークキングも良いアイテムを落としてくれるだろう。
「やってみるか……」
君子危うきに近寄らずと言うが、僕の好奇心はその言葉を凌駕した。
あと一歩前に進んだら謁見の間という場所。そこで立ち止まった僕は、ドリル弾を発動させた。
空間膨張を繰り返し、数十秒。このドリル弾はマッハを越える速度と、圧倒的な破壊力を振りまく殺戮者になった。
謁見の間に一歩入ると、扉が閉まった。その瞬間、圧倒的な殺気が僕に向けられた。オークキングが僕を認識した瞬間だ。
背筋が凍りつくかと思うほどの殺気に曝され、自然と体が震えているのに気づく。逃げたいが、すでに僕は踏み入ってしまった。だから、真っすぐ前を見て進もう。
「しっかりしろ。どうせ逃げることはできないんだから、あいつを倒して進むしかないんだ」
言葉に出すと、体の震えはなくなった。
こちらを睨めつけるように見てくるオークキングを、僕も睨めつけ笑ってやる。こっちはすでに戦闘準備を完了しているんだ、お前の命はあと数秒で終わると。
命のやり取りはすでに始まっている。引きつった笑みかもしれないけど、僕が生き残るのだと自身に言い聞かせるための笑みでもある。
「一撃必殺。ドリル弾を受けてみろ」
高圧縮された空間が解放される。音も振動もないが、ドリル弾は一気に加速してマッハを越えた。
オークキングまで一〇〇メートルほどの距離があったけど、ドリル弾は石の床をその衝撃波で破壊しながら進み、一瞬でオークキングへと到達してその上半身を消し飛ばした。
オークキングは何が起きたかも分からずに、消えてなくなったのだ。
「やっぱりドリル弾は強いな」
オークキングには気の毒な最後だったと思うけど、僕だって命がかかっているので手加減をするつもりはない。
オークキングが座っていた玉座の背もたれは消失していて、後方の壁に直系一メートルほどの穴が数十メートルに渡って空いていた。その穴は不気味なほど真っ黒だった。
「ダンジョンの壁の向こうはどうなっているのかな……?」
そんな疑問が浮かんできたが、穴の奥から何かが這い出してきそうな不気味さがあったのでオークキングの魔石とドロップアイテムを回収して謁見の間から出た。
四階層へ行き、第五エリアへの通路を進んだ。エリアボスのオークナイトは居なかったので、スムーズに進めた。
第五エリアも建物の中だった。シーカー協会の資料によれば、この建物もオーク城と同じように城タイプなんだけど出てくるのはオークではない。
僕は地上に戻って、オーク城の一階層に隠し通路を発見したことを報告した。
大水支部長が出て来て、喜んでいる。隠し通路を発見すると、宝箱からアイテムが持ち帰られる。シーカーが自分で使うアイテムもあるけど、多くはオークションに出される。オークションで落札されると、シーカー協会に手数料が入って来るから大水支部長の実績になる。いいこと尽くしだ。
「隠し通路を発見できるのも、『時空操作』があるためか?」
隠し通路を見つけているのは『魔眼』。『時空操作』でも隠し通路を見つけられると思うけど、使い勝手が『魔眼』のほうがいい。
「どうでしょうか」
僕は微笑んで誤魔化した。
「まあいい。この調子でもっと隠し通路を見つけてくれ」
今後、調査隊が送られて隠し通路が確認されると、僕の実績になる。
枇杷島ダンジョンのように隅々まで調査されて地図が作られているダンジョンで隠し通路を発見するのは、とても珍しい。
お金も欲しいけど、今はシーカー協会への貢献度が溜まるのが嬉しい。貢献度が増えていけば、僕が昇級していく時に有利になるからね。
「ところで、あのことは聞いたか?」
あれというのは、第二エリアのサハギン砦攻略レイド戦のことだと思う。
「サハギン砦攻略レイド戦のことですか?」
「そうだ。参加するんだろ?」
僕は肯定した。シーカーにとってこういうお祭りのようなことは、外してはいけないイベントだからね。
万年一〇級の僕が、まさかお祭りに参加できるとは思ってもいなかったよ。
「一〇日後に始まる。レイド戦には協会からも人を出して、支援する」
エリア全体が城になっている第四エリアでは魔物が数百体もまとまって襲ってくることはない。だけど、サハギン砦の場合は、数百体から一〇〇〇体以上のサハギンが襲いかかってくる。
「規模はどれほどになりますか?」
「今のところは七級シーカーのパーティーが一八チームと、ソロが君も含めて数人というところだ。三日後に七級の昇級試験があるので多少増えるかもしれないが、前回の規模とそれほど変わらないだろう」
レイド戦は発見されたお宝は換金して参加者全員で均等に分けられる場合と、速い者勝ちで総取りできる場合がある。
サハギン砦の場合は後者の方法を取っていて、パーティーやソロ単位で速い者勝ちでお宝を得ることになる。そのため、参加者が多いとお宝を得るチャンスが減ってしまうのだけど、参加者が少ないとお宝まで辿り着けないというジレンマがある。
「まあ、怪我をしないようにがんばるんだな」
「そのつもりです」
オークキングの魔石は、中一級だった。それだけで五〇〇万円で換金できた。
宝箱から得た手甲は『軽減の手甲』というもので、右手用と左手用に武器か盾を一つずつ収納できるものだった。しかも、その武器と盾の重量は一〇分の一に軽減されるという優れものだ。
オークキングからドロップしたアイテムは、収納袋だった。容量は小規模の三メートル×三メートル×三メートルで時間経過は普通のものだけど、売れば一〇〇〇万くらいにはなるらしい。
収納袋は強い魔物だとそこそこ落とすけど、便利なのでそれなりに高額で取引されている。小規模でも一〇〇〇万円になるので、貴重なものであることに変わりはないのが分かるだろう。
ただし、『時空操作』では容量無制限で時間も止めることができる僕にとっては微妙なアイテム。もっとも、収納袋を持っていれば、僕の『時空操作』を誤魔化せるというメリットはありそうだね。
大水支部長との話が終わって、協会一階のロビーに出るとミドリさんたちの姿が見えた。
僕が手を振ろうとしたら、視界を遮られた。
「おい、無能。まだシーカーをしていたのかよ」
そう言ったのは、僕にトレインを擦りつけた三人組のリーダー格だった。
名前は憶えていないけど、いちいち僕に突っかかってくるので顔は覚えている。
「俺たちはな、三日後の七級昇級試験を受けて、七級になるんだ。どうだ、羨ましいだろ!」
「万年一〇級の役立たずに、そんなこと言ってやるなよ。泣いちゃうぞ」
三人してバカ笑いした。僕が七級だと言ったら、どう思うかな?
バカにしている僕が先に七級になっていたと知った時の顔が見てみたいけど、黙っていよう。もっと昇級してから、三人に教えてやったほうが面白そうだからね。
散々僕をバカにして、三人は立ち去った。僕が一言も反論しなかったことに満足したような顔だったけど、僕は心の中で笑っていた。
以前はあれほど悔しかったけど、昇級すると余裕ができてあの三人から何を言われても平気だった。ただし、あの三人から受けた仕打ちは忘れるつもりはない。
三人がバカ騒ぎしたので、周囲の目が僕に向いていた。こういう視線には慣れているから構わない。そこにミドリさんたちがやって来た。
「リオンさん。なぜ言い返さなかったのですか?」
ミドリさんが悲しそうな目をして聞いてきた。
「言い返したところで三人は納得しないでしょ。僕はあの三人に認めてほしいからシーカーをしているわけではないから、構わないよ」
もっと他の場面で僕が昇級したことを教えてあげたいからね。
「リオンさんは甘い。シーカーは舐められたらダメ」
アサミさんが鋭い視線だ。たしかに彼女の言うように、シーカーは舐められたらいけないような風潮がある。
「リオンさんがいいと言うんだから、いいじゃないの。実力で示せばいいんだし。それに、リオンさんが七級なのに八級が偉そうに言うのを見ていると、笑えるじゃない」
アズサさんは僕と同じ考え方のようだ。それに、タイミングを計って僕の級を教えて、彼らの驚愕する顔が見てみたい。彼らに対しては、これくらいの意趣返しをしても許されるはずだ。
「そうだ、リオンさんは七級ですよね。今度のサハギン砦のレイド戦に参加するのですか?」
「うん。参加するよ。今から楽しみだよ」
「いいなぁ、私たちも早く七級に昇級したいです」
アズサさんたちの『SFF』は三〇〇代後半で、昇級試験が受けられる五〇〇ポイントには程遠い。それでも、かなりの速さで成長していると思う。
通常、八級から七級に昇級するのに、二年くらいかかると言われている。ミドリさんたちは、一年もかからずに昇級するペースのはずだ。
来年の今頃は三人も七級に昇級していると思うので、すぐにレイド戦だよと慰めておいた。
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