第13話 レッドウルフ戦
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013_レッドウルフ戦
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枇杷島ダンジョンに入って、第三エリアを目指す前にドリル弾の威力を確かめようと、あのサハギンの砦に向かって射出する。
五〇〇メートルくらい離れたところから、膨張マシマシで射出したら砦の壁に数メートルの穴を開けて突き抜けて行った。速度はマッハを越えたと思うけど、正確には分からない。
よく見ると、穴の向こう側が見えたので砦を完全に貫通したようだ。
「凄い威力だ……」
声を失っていると、穴からわらわらとサハギンが出て来た。かなり怒っているみたい。
「これはヤバイな」
多くのサハギンを倒したようだけど、穴からどんどんサハギンが出てくるので、さすがに魔石を拾いに行けない。
魔石は惜しいけど、命には代えられない。僕は転移ゲートを使って逃げた。
「はぁ……びっくりしたなぁ。あんなに怒るとは思っていなかったよ」
砦が遠くに見えるところで腰を下ろしてひと息つき、サハギンたちの憤怒の表情を思い出した。
ドリル弾は射出するのにそれなりの時間が必要になるので、奇襲に使うのはいいけど乱戦では使いづらい。
「とりあえず、ドリル弾がかなり凄い威力なのは分かった」
ちょっと休憩してから第三エリアを目指して探索を再開した。
残念ながらドリル弾を使うような魔物は出てこない。グリーンウルフ、ハイコボルト、サハギンが群れで出て来ても『結晶』で対応できるし、小さな群れなら剣でも対応できる。
そして第三エリアへの通路を発見した。
その前にはエリアボスが鎮座していた。寝ているようだ。
エリアボスのレッドウルフは赤い体毛のオオカミ型の魔物で、体高は一・五メートルもありグリーンウルフよりも大きい。しかも、爪に炎を纏わせて攻撃してくるので、かなり厄介だと言われている。
「他にシーカーは居ないか。それじゃあ、僕が戦うしかないね」
僕は赤銀製の剣を抜き、戦闘態勢を取った。
レッドウルフは僕の気配を感じ、首だけを動かして僕に視線を向けて来た。僕が三〇メートルほどまで近づくと、レッドウルフは立ち上がって伸びをした。
やる気満々の視線が向けられ、その四本の脚の先に炎が立ち上る。
さらに距離が詰まると、お互いに地面を蹴った。
「はっ」
「ガウッ」
交差する僕とレッドウルフ。僕の剣はレッドウルフの爪に阻まれた。
手に残る痺れは、この剣を使い始めて初めての感触だ。
「今の身体能力は互角か……」
いや、レッドウルフはまだ様子見っぽい。僕のほうが少し不利のようだ。
レッドウルフが飛びかかってきた。それを僕は躱そうとしたけど、なんとレッドウルフは空中でさらに加速した。
急に速度が上ったレッドウルフの爪が僕の胸に傷をつけ、僕は吹き飛んだ。
「ぐっ」
革鎧が引き裂かれ、僕の胸の肉が裂かれた。さらに炎が傷口を焼いて追い打ちをかける。
歯を食いしばって痛みに耐え、レッドウルフに視線をむける。胸がジンジンと痛み、肉を焼いた臭いが鼻を刺激した。
「痛い。だけど、これで踏ん切りがついた」
『時空操作』で僕の周囲に空間の壁を展開。そこにレッドウルフが飛びかかってきて壁にぶつかる。
見えない壁があることに怒ったレッドウルフは、爪で壁を攻撃した。爪と炎が壁に衝撃を与えるが、壁はびくともしない。
レッドウルフは見えない壁に護られている僕を憎々しいとばかりに睨みつけてくる。その敵意に満ちた瞳を見ると、なんでこんなに憎まれなければいけないのかと思ってしまう。
「悪いけど、僕はこんなところで死ねないんだ」
シーカーの頂点に立とうとか、何かをしたいという目的があるわけではない。強くなりたいとは思うけど、それだって命をかけてまでしたいと思わない。何よりも、剣の戦いに拘っているわけではない。
『結晶』を発動してレッドウルフの生命力を封印すると、レッドウルフは力なくその場に倒れて消えた。
「いててて……」
胸がズキズキ、ジンジンと痛む。
手の中にあるレッドウルフの結晶を解放すると、胸の痛みが少し引いた。結晶を解放することで、治癒の効果があるんだ。
効果はかなり少ないので、レッドウルフの結晶だけでは完治しないけど、これまでに得た結晶をあと六個解放したら傷は完全に塞がった。
このくらいの傷なら下級ポーション一本で完治するけど、どうせ解放する結晶なので今使って傷を治したほうがいい。
下級ポーションは簡単に手に入らないから、いざと言う時に取っておきたいというのが正直なところだ。
「この革鎧も変え時かな」
ちょっと前に買ったものだけど、初心者用の革鎧なのでもう少し防御力のある防具が欲しいと思った。
レッドウルフの魔石は極小一級の赤色。多分、これ一個で五、六万円になると思う。赤色は需要が多いので、もう少しするかもしれない。
ドロップアイテムはレッドウルフの皮だった。
「これで革鎧を造ろうかな」
できればダンジョン産の防具が欲しいけど、そういったものはとても高価なんだよね。レヴォリューションブックが落札だれたから、お金はあるけど。
―――宝箱でも落ちてないかな。
第三エリアに進んだ。草原の奥に岩山が見える。第四エリアへ向かうには岩山を登らないといけないが、そろそろ夕方なので帰って休もうと思う。
転移ゲートを使ってマンションに直通で帰った。風呂に入ってから食事をして、ヨリミツに渡す結晶を用意した。
グリーンウルフ、ハイコボルト、サハギンの結晶を個別の袋に一〇個ずつ入れる。
ベッドに入ってテレビを見ながら寝入った。
翌日はヨリミツの研究室がある大学へ向かった。研究棟は部外者の立ち入り禁止区域なので、スマホでヨリミツに連絡した。
ヨリミツはすぐにやってきて、入門証を受け取って中へ入った。ID認証と顔認証がある扉を二つ通って研究室へ入ると、そこに壮年の男性が居た。なんかほんわかした雰囲気の男性。
「こちらはこの研究室の責任者の安住教授だ」
「安住です。カカミ君のことはトキ君からよく聞いているよ」
ほんわかな雰囲気の男性が、この研究室の責任者らしい。
「カカミリオンです。よろしくお願いします」
研究室なのでソファーなどはなく、パイプ椅子を出してくれたので座った。
ヨリミツが早く結晶を出せというので、三つの袋を出した。
「この結晶のエネルギーは、魔石の七倍もある。それだけでも画期的なことなんだ」
居酒屋でもそんなことを言っていたと思うが、難しい話は理解できない。
そんな難しい話をヨリミツと安住教授がしている。僕は所在なさげにその話を聞いている。さっぱりだよ。
「なあ、リオン」
「なんだ?」
「コンロの火も封印できると言っていたよな」
「できるよ」
「それって、重力も封印できるのか?」
重力を封印するということは考えもしなかった。だけど、重力も力場のはずなので、多分できると思う。
「やってみないと分からないけど、できるんじゃないかな」
「それは凄い! できれば、やって見せてくれないかね!」
「そうだぞ、リオン! 早くやってくれ!」
二人の食いつきが凄い。目が怖いんだけど。
そんな二人に促され、重力を『魔眼』で確認する。地面から立ち上るような力場があるので、これが重力なんだろう。
重力を認識したので『結晶』を発動した。すると、ヨリミツと安住教授がふわりと浮いて落ちた。
「今のは重力を封印したことで、一瞬だけ無重力になったということか……」
「重力を封印しても、すぐに重力が発生したのか」
二人は目をまん丸にして驚いたようだが、すぐに科学者としての思考に落ちて行った。
「リオン、重力の結晶を」
一〇分くらい待っただろうか、ヨリミツがそう言ったので重力を封印した結晶を渡した。
二人は僕が居ることを忘れて、その結晶を機器に入れて何かをし出した。これ、帰っていいかな……。
二時間くらいしてからヨリミツが僕のことに気づき、まだ居たのかと言った。さすがにそれはないだろうと、僕は憤慨してヨリミツの脛を蹴ってやったら、飛び上がって痛がっていた。
『SFF』が常人よりもはるかに多い僕が力任せに蹴ったら、ヨリミツの脛は折れてしまうのでちゃんと手加減したよ。
「まったく研究者や科学者というのは、どうしてあんなにも人のことを気にしないのかな」
ヨリミツも安住教授も研究バカだ。似た者同士というのかな。
ぶつぶつ言いながら大学の門を出ると、スマホが鳴った。誰かと思ったら、ミドリさんだった。僕はすぐ電話に出た。
「これから? ……うん、大丈夫。……栄の店で合流だね、分かったよ」
ミドリさんは居酒屋系の店が気に入ったようで、よく行っているみたい。ただ、パーティーメンバーのアサミさんとアズサさんはまだ未成年なのでお酒は飲めない。
ミドリさんもお酒が目的ではなく、居酒屋料理が好きらしい。僕も一人で食べる食事よりも、ミドリさんたちと一緒に食べたほうが美味しく思えるので二つ返事でOKした。
栄の居酒屋に到着すると、丁度ミドリさんたちもやってきた。
三人と一緒に店に入って、飲み物を先に頼む。僕はウーロン茶、アサミさんはコーラ、アズサさんはオレンジジュース、ミドリさんは生中を頼んだ。
それから名古屋名物の手羽先を一〇人前頼んで、三人は冷ややっことかサラダなどヘルシーなものを頼んだ。僕はご飯が食べたかったので、おにぎりを二つと串も頼んだ。
そう言えば、結晶の代金をもらってなかった。今はお金に困ってないのでもらわなくてもいいけど、親しき中にも礼儀ありと言うから今度会ったら催促してやろう。
「え、三人とも八級になったの?」
乾杯の後、三人が八級に昇級したと聞かされた。
先に八級に昇級した僕が言うことじゃないけど、結構早い昇級だったので驚いた。
「次からは私たちも枇杷島ダンジョンを探索するつもりなんです。そこでリオンさんに枇杷島ダンジョンで気をつけることを教えてほしいなと思って」
アズサさんが言うように、三人は枇杷島ダンジョンのことが知りたいらしい。
シーカー協会にダンジョンの資料はあるけど、実際に探索している僕の話を聞きたいと言った。
「第一エリアと第二エリアの魔物はそれほど強くないけど、とにかく群れで現れるんだ」
少なければ四体ほどだけど、多いと三〇体を越える数で現れるから覚悟しておくようにと教えた。
「三〇以上か……大変そうだな」
アサミさんが呟いたのが聞こえた。彼女がこのパーティーの守りの要なので、それだけの数をどうやって引きつけて捌くかを考えているようだ。
「他のE級ダンジョンでは魔物が強くなるけど、枇杷島ダンジョンは数で攻めて来る感じかな。第二エリアにはサハギンの砦があって、数百か下手をすれば一〇〇〇を越える数のサハギンが陣取っているよ」
「砦のことは聞いたことがあります。七級になったらレイド戦に参加したいと思っています」
ミドリさんの言葉に、二人も頷いて同意した。
僕もレイド戦に参加したいと思っているので、早く七級に昇級しないとね。彼女たちには負けてられないや。
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