第12話 必殺技
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012_必殺技
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マンションのベランダに出て、『空間操作』の訓練をすることにした。
空間を四角や丸、三角や円錐にすることはそれほど難しくない。難しいのは動かすこと。
一辺が一メートルほどの四角い空間を作って動かす訓練をしているけど動かない。
三時間くらい唸りながら空間を動かそうとしたけど、動く気配がない。まるで何かに押さえ込まれているように動かない。
「押さえ込まれている……そうかっ!」
空間の箱を出した周囲も空間がある。その空間が邪魔をして動かせないんじゃないかと僕は考えた。円錐でも周囲の空間に圧迫されていたら、回転しないのではないかと。
だったら周囲の空間に干渉して、動かせるようにしてあげたらいいのではないか。でも、その空間への干渉をどうやってすればいい? とりあえずやってみよう。
『時空操作』で空間の箱の周囲の空間に干渉してみたら、意外とあっけないほどにできてしまった。
空間の箱の動きに合わせて、進行方向の空間を水のように柔らかくするイメージ。それで空間の箱が動くようになった。
ただ、とても疲れる。空間の箱を一〇メートル動かしたところで、頭痛がしてきてそのまま動かしていると頭痛がどんどん酷くなってきた。
「これヤバい」
頭が酷く痛むため、リビングのソファーに座って休むことにした。
たった一〇メートルの距離を動かしただけで頭痛がするのでは、実戦で使えない。
「訓練すれば頭痛はなくなるのだろうか……」
試すしかないか。
三日間探索を休んで、空間の箱を動かす訓練を続けた。
最初は一〇メートルだったのが、徐々に距離を伸ばして三〇メートルくらいなら動かせるようになった。
次は円錐を回転させられるようにしたいけど、三日も探索を休んでいると体が鈍ってしまう。
僕はダンジョンに入って、魔物を狩った。今回も湖まで行って帰ってきた。ただ、前回のように三〇体のハイコボルトに襲われることはなかった。
シーカー協会で魔石を換金すると、別室に通されてオークションに出していたレヴォリューションブックが落札されたと聞いた。
僕が手にする金額はなんと三億六〇〇〇万円だった。
「来月一五日にカカミ様の口座に入金されます」
レヴォリューションブックをオークションに出すことにした時、金額が大きくなることが予想されたので口座を登録した。
シーカー協会は月末締めの一五日支払いなので、その口座に来月一五日に入金されることになった。
「最近のカカミ様は魔石の換金もそれなりの金額ですから口座へ振り込みもできますが、どうしますか?」
日々の探索で得た魔石の換金も口座振り込みにしたらどうかと勧められた。そのほうが、支払業務の手間が少なくなるのでシーカー協会にもメリットがあると正直に言うところが好感が持てる。
今ではそこまで現金が必要ではないので、口座振り込みの処理をしてもらった。
「また、次の確定申告では、大変な額を申告することになります。必要であれば、シーカー協会から税理士を紹介しますが、どうしますか?」
シーカーは自営業なので、確定申告をしなければならない。
今までは金額が少なかったので、確定申告しても大した税率ではなかった。でも、今年はかなり多くの収入がある。嬉しいことだけど、そういったことを教えてもらったほうがいいかもしれない。
今すぐに返事をしなければいけないことではないので、覚えておいてほしいとのことだった。
ちなみに税率はどのくらいになるのかと聞いたら、なんと所得税だけで四五パーセントも取られるらしい。半分近くも取られるなんて、なんて悲しい現実なんだろうか。
さらに、来年になれば住民税などの税金もかなり上がるはずだと言われた。
今までも税金は大きな負担だったけど、儲ければ儲ける程税率や額が上がる。税金恐るべし。
翌日、シーカー協会指定の訓練場に赴いた僕は、『空間操作』の訓練をする。
動かせる距離は三〇メートルだけど、それだけでは足りない。
将来を見据えるなら、最低でも五〇〇メートルは動かしたい。ドラゴン種のような化け物は、数百メートル先から攻撃してくることもある。
朝から晩まで空間を動かす訓練をして、また三日が過ぎた。なんとか一〇〇メートルくらいは動かせるようになった。
四日目に円錐を作って回転させてみた。最初はかなりゆっくりだけど、回転してくれた。毎分一〇回転くらいのゆっくりな動きだったので、この回転数を増やしていく。
毎分一〇〇回転くらいのところで、また頭痛がするようになった。距離を動かすよりも、回転させるほうが負担が大きいのだろう。
気分を変えるためにダンジョンを探索することにした。今回は第二エリアへ向かおうと思った。
転移ゲートを使って湖まで移動し、そこからエリアボスが居るであろう場所まで進む。途中で何度も魔物に遭遇したが、赤銀製の剣と『結晶』で問題なく対応できた。
エリアボスは居なかったので、第二エリアへ向かった。
第二エリアの草原が広がっている。しかし、この第二エリアに湖はない。あるのはなんと砦である。沼地にサハギンの砦があるのだ。
その砦を見たいと思った僕は、第二エリアを進むことにした。出てくる魔物は第一エリアと変わらないけど、群れの数がかなり多い。
さすがに五〇体のグリーンウルフの群れを見た時は逃げようかと思ったけど、思いとどまって戦うことにした。
と言っても、『空間操作』で空間の壁を自分の周りに展開し、『結晶』で生命力を奪う作業のような戦い方だったけど。
やっとのことで砦が見えるところまで進んだ。
砦の周辺だけではなく、中にもかなり多くのサハギンが居るのが『魔眼』で見える。
「一〇〇体どころの話ではないな……」
僕は戦略的撤退を決断した。
こういった砦だったり要塞、城などは多くのダンジョンに見られる。
そのほとんどがソロでは攻略できないような、魔物の数と強力な魔物が居る。
だから、レイド(複数のパーティーやソロシーカーが集まること)を組織して攻略戦が行われる。
この枇杷島ダンジョンでも毎年二回から三回の頻度で、七級シーカーが集まって砦攻略レイド戦が行われる。
僕もそれに参加したいけど、八級では参加できないんだ。早く七級に昇級して僕もレイドに参加したいと思っている。
地上に戻ってシーカー協会で魔石を換金した僕は、翌日再び訓練場へ向かった。
あのサハギン砦を見て、空間ドリルを完成させると心に誓った。
頭痛がしたら休憩して、また訓練をする。日々訓練と探索を交互に行った。いつしか月が変わっていて、夏真っ盛りになっていた。
夕方だというのに、まったく風がなく暑い。汗を拭いながら待ち合わせの場所に向かう。
「待ったか?」
「いや、今来たところだ。リオン」
居酒屋で待ち合わせした相手はヨリミツ。訓練場で空間ドリルの訓練していたら、いきなり呼び出されたんだ。
スマホを買ったはいいけど、登録してあるのが家族とシーカー協会、ヨリミツ、ミドリさん、アサミさん、アズサさんしかないのは寂しい限り。
「いきなり呼び出して、どうしたんだ?」
ヨリミツは先にビールをやっていた。
「結晶について色々面白いことが分かったから、リオンに教えてやろうと思ってな」
「そういえば、結晶を渡していたな」
ヨリミツは結晶について調べたことを教えてくれた。
最初に魔石と比較したらしく、そのエネルギー量がなんと魔石の七倍以上あったらしい。
さらに、魔石ではありえない『SFF』の増加についてだけど、僕が渡した結晶一個で〇・八ポイントほどが上昇する見込みだと言った。
「へー、〇・八ポイント上昇するって、よく分かったね」
僕は結晶を使ってから『SFF』の上昇値を確認している。どの結晶がどれだけ上昇するか、そうやって把握するしかないんだ。でも、『結晶』の特殊能力を持っていないヨリミツが、どうやって『SFF』の上昇値を知ったのか気になる。
「研究室にはシーカー協会にないような測定器もあるんだ。それに、『結晶』の特殊能力を持っていなくても、『SFF』は解放はできるぞ」
「そんなことができるの?」
なんと高圧をかけると、結晶が解放されるらしい。そんなことで解放するなんて思ってもいなかった。
ただし、解放した結晶から『SFF』の放出を検出できても、それを人体に取り込むことには失敗していると悔しそうに語った。
「『SFF』のことはいい。問題は魔石の七倍ものエネルギー量を内包していることだ」
「ヨリミツはやっぱり研究者なんだな」
「なんだいきなり」
「僕以外で結晶を解放できないと思っていたのに、ヨリミツはそれをやってのけた」
「解放しても取り込めないのでは意味がない。それよりもエネルギー量のことだ」
ヨリミツは興奮したように結晶の有用性を僕に語った。その半分も僕は理解できなかったけど、結晶が高エネルギー体なのは分かった。
「そこで、正式に研究用に結晶を購入したいんだ。違う魔物の結晶をそれぞれ一〇個買うから、用意してくれ」
「もしかして、それが目当てで僕を呼び出したのか?」
「そうだが、それが何か?」
友達に会うためじゃなく、研究のためか。ヨリミツらしいな。
僕はヨリミツの要求を受け入れることにした。ヨリミツが楽しそうにしているのもあるけど、僕も結晶の使い方が他に見つかるかもしれないと思ったからだ。
二日後に数種類の結晶を、大学の研究室へ届けることになった。その代金とは別に、この居酒屋の代金は全部ヨリミツに払ってもらった。
翌日、朝早くから訓練場へ向かった僕は、空間を動かす訓練をした。昨日の訓練でかなりいいところまで行ったので、今日で完成させたい。
長さ三〇センチ、直径一五センチの鋭い円錐を作り、それを回転させる。毎分一〇〇回転、二〇〇回転、三〇〇回転と回転数を上げていく。
ここまでで頭痛はない。順調だ。
さらに回転数を上げて五〇〇回転、七〇〇回転、一〇〇〇回転。まだ頭痛はない。
昨日は毎分五〇〇〇回転くらいで頭痛がした。だけど、最初はそこまで必要ないと思うので、一〇〇〇回転で飛翔させる。
一〇〇〇回転させた円錐を飛翔させるのは、最初に押し出す力が要る。円錐の底辺で空間を膨張させて、一気に解放する。この膨張させるのも、かなり苦労したところだ。
円錐の進行方向の空間に干渉するのは、回転させる最初だけ。
弾丸のように射出された回転円錐が、空間さえも切り裂きながら飛翔するんだ。
一〇〇メートル先にあるコンクリートブロックへと突き刺さる。
それだけでも一メートルほどあるコンクリートブロックの半分ほどまで刺さった。さらに、そこから回転の力でゴリゴリと削ってコンクリートブロックを貫通して、後方にある盛土に穴を開けた。
射出してコンクリートブロックに着弾するまでの時間は、二秒かかるかどうかなので、時速一八〇キロ近くは出ていた。
推進力となる空間の膨張をもっと増やせば、速度はまだ上がると思うので試すことに。
膨張率を先ほどの倍くらいにして、回転円錐を射出する。着弾した瞬間にブロックが爆ぜてしまった。盛土も大きく抉られていて、その中心に穴が開いていた。穴は測定できないほど深いけど、怒られないよね……。
飛翔した時間は一秒もかかっていない。おそらく〇・五秒くらい。膨張を倍にしたら、速度が四倍くらいになった。時速にしたら七二〇キロ。
膨張はまだ増やせそうなので、マッハを越えるかもしれない。でも、これ以上やったら確実に怒られると思うので、ダンジョンの中で試そうと思う。
「なにはともあれ、やっと完成した。せっかくなので名前をつけようと思うけど、何がいいかな」
単純だけど、ドリル弾でいいか。
「必殺技、ドリル弾!」
僕はとうとう完成させた。
このドリル弾は発動に時間がかかるので、使いどころが限られると思う。それでも戦局を左右するだけの攻撃力を誇る。
ふとしたことで思いついたことが、このように実現するととても充実感がある。
「こういった必殺技を考えたり訓練するのって、楽しいよな」
こういうのは使える使えないではなく、男のロマンなんだ。
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