第72話 依頼期

 ■■■■■■■■■■

 072_依頼期

 ■■■■■■■■■■



 大水支部長に依頼があると呼ばれてやって来た。

 いったいどんな依頼なのか、ちょっとドキドキするね。


「稲沢ダンジョンの探索はどうかな?」


 まずは世間話からなね! OK、僕も社会人だから、そういうのが少しは分かってきている年頃さ。


「一度だけ入りました。第一エリアを探索してみましたが、魔物が多いですね。空にも魔物がいるので全方向にきを配りながら進むのは骨が折れます」


 シックスセンスは全然ものにできてない。僕のセンスでは、何年、何十年か、はたまた一生ものにできないものだ。


「さすがのカカミ君も苦戦しているようだな」

「戦い自体は今のところ苦戦してないのです」

「ほう、B級ダンジョンの魔物相手でも苦戦しないか。ははは。さすがはカカミ君だ」

「まだ第一エリアの入り口付近ですから」

「ははは。それでも頼もしいよ。そんなカカミ君を見込んで一つ依頼がある。報酬はあまり多くないが、代わりに貢献度のポイントは多目に入るぞ」

「聞きましょう」


 世間話が終わり、本題に入るようだ。

 大水支部長から聞いた依頼の内容を簡単にまとめると、なんと稲沢ダンジョンで暮らす人に食料などの物資を届けてほしいというものだった。


「えーっと……稲沢ダンジョンに人が住んでいるのですか?」

「住んでいるよ。第一エリアにね」


 どんな変人?

 さすがに僕でもダンジョンの中で暮らそうとは思わないんですけど。


「その人物はある理由があって、ダンジョンから滅多に出て来ないんだ。幸いなことにダンジョンの中に水場があって水は確保できるし、水浴びしたり汚れた服なども洗濯できるが、食料だけはそうはいかないのさ」


 あのダンジョンの中に水場があることにも驚きだけど、そこに人が住みついていることのほうが衝撃的な事実ですよ。


「なんでダンジョンの中で暮らしているのか、その理由を教えてもらうことはできますか?」

「依頼を受けてくれたら教えることは可能だ。ただし一度依頼を受けたら毎月一回、半年間は継続して物資の運搬を頼むことになる。もちろん、聞いた内容は他言無用だからね」

「毎月一回、六カ月の継続依頼ですか」

「その通りだ。依頼は至って簡単で、その人物が一カ月暮らせるだけの食料と生活物資を運び、さらにその人物がダンジョンの中で得た魔石やアイテムをここへ届けてもらうというものだ」


 なんとも奇妙な依頼だけど、どうせ第一エリアを探索するつもりだし、一度行った場所なら転移できる。しかも物資の運搬は僕にとってまったく負担にならない。


「分かりました。その依頼を受けさせてもらいます」

「良かった。さすがにB級ダンジョンの稲沢ダンジョンに入れる四級以上のシーカーは数が限られているからね。しかも今ウチに所属する四級以上というと、カカミ君とダンジョンの中で暮らす彼女だけだからね」


 彼女というと女性なんだ。なんでダンジョンの中で暮らしているんだろうか? 異常すぎて凄く興味が湧くよ。


「それで理由を教えてもらえますか?」

「いいとも。彼女の名前は一色瑠香イッシキ・ルカという」

「えっ、イッシキ・ルカさんっ!?」

「ああ、イッシキ・ルカだ」


 イッシキ・ルカさんと言えば、数年前によく聞いた名前でよく覚えている。

 三バカトリオの事件の際、パーティーを組んだメリッサさんを上回る天才で、彼女ならすぐに特級シーカーになると専らの噂だった。

 そういえば最近は名前を聞かなかったけど、なんでダンジョンの中で暮らしているの? 仙人にでもなっちゃった?


「今、彼女はある理由でダンジョンを出ることができないのだ」

「それは……」

「呪いだ。彼女はA級ダンジョンを探索していた際に、罠にかかって呪われてしまったんだ」


 呪いは極悪な罠の一つだ。呪いの種類は千差万別あり、体中に激痛が走って数カ月後に死に至る呪いもある。

 解呪するポーションもあるらしいけど、滅多に出ない。でも二級シーカーのイッシキ・ルカさんなら、解呪ポーションを購入できるくらいの財力はあるはずなんだけど? それになんで呪われてダンジョンで暮らすの?


「彼女がかかった呪いは、ダンジョンの外に出ると急激に『SFF』が下がるというものだ。しかも下がった『SFF』は増えない。維持はできるが、それもかなりの頻度で魔物を倒さないといけないものだ」


 思わず喉が鳴った。

 その呪いはレヴォリューター(シーカー)殺しじゃないか。

『SFF』がゼロになっても生きていられるが、二級シーカーにまでなったイッシキ・ルカさんがそれを受け入れられるかは別の話だ。

 受け入れられずに、ダンジョンの中で暮らしている。寂しくないだろうか。いや、それ以前に周囲は魔物しかいないのだから、僕なら気が狂うかもしれない。


「解呪ポーションは飲まないのですか?」

「飲んださ。だが、効かなかった。かなり強い呪いのようで、まったく効果がなかったよ」


 解呪ポーションが効かない呪いなんて、最悪すぎる。万事休すじゃないか。


「二日後に届けてもらいたいが、大丈夫かね」

「ええ、大丈夫です。物資はもう用意されているのですか?」

「ああ、倉庫にある。持って行くか?」

「そうですね。受け取っておきます」


 依頼の受領と、イッシキ・ルカさんが住む場所の地図を僕のタブレットにダウンロードして、倉庫に移動。

 物資は一メートル四方の木箱が二つ。主に食料だけど、生活雑貨や石鹸などの消耗品も入っている。


「帰りは同じ木箱に入った魔石とアイテムを回収するのを忘れずに頼むぞ」

「了解しました」


 木箱は封印されていて、カギもついていた。

 こんな大きな木箱を二つも運ぶのは大変じゃないかと思ったんだけど、四級シーカーともなると収納袋の一つや二つは持っていると大水支部長に言われた。

 そういえば、僕も収納袋がドロップしたことあるね。その一つはミドリさんたちが使っている。


「それじゃあ、二日後の明後日には納品してくれ」

「はい。了解しました」


 説明を聞く限り、イッシキ・ルカさんが住む場所は第一エリアのセーフティゾーンに住みついているらしい。

 セーフティゾーンを中心に毎日魔物を狩って、『SFF』の低下を抑え込んでいるらしい。





 翌日の僕は、お爺ちゃんの誕生日プレゼント旅行の代金を振り込んでから、師範の道場を訪れた。

 なんか僕に頼みがあるのだとか。

 昨日の大水支部長といい、師範といい、依頼のモテ期でしょうか?


「来春で大学を卒業するフウコがシーカーになると言うから、リオンに面倒を見てもらおうと思ってな」

「え、フウコさんが? レヴォリューターだったのですか?」


 師範の横に正座しているフウコさんがコクンと頷いた。

 フウコさんがレヴォリューターだったことに驚き、大学生だったことにもっと驚いた。

 僕が道場に来る時はいつも居たとはずだから、大学生だとはさすがに思っていなかった。僕はてっきりニートか何かかと……。


「リオンも知っての通り、こいつは剣に関しては天才だが、コミュ障だ」


 はい。知ってます。


「だが、リオンなら話せるらしい。よろしく頼むぞ」


 僕が面倒を見ること決定なんですね。


「よろしく」

「……分かりました。ウチのクランに所属ということでいいですね」


 コクンと頷く。


「パーティーメンバーのあては……ないですよね~」

「あるわけないだろ(笑)」


 師範が高らかに笑う。


「まあ、お前んところのアズサとアサミは、俺んところに来てるからな。一応は顔見知りだ」


 そうするとミドリさんとアオイさん姉妹との顔合わせをしておいたほうがいいかな。


「ダンジョンに入ったことはありますか?」


 フルフルと顔を横に振る。ないということだね。

 コミュ障はともかく、フウコさんの剣の腕は僕なんか足元にも及ばない達人だ。だからといって魔物と戦えるとは限らないが、フウコさんなら大丈夫だと思う。

 フウコさんが魔物相手に気圧されるとか逃げ出す光景は想像できない。それどころか無表情で斬り捨てている光景しか思い浮かばないんだよね。


「明日は協会からの依頼がありますから、明後日クランハウスに来てもらえるかな。うちのメンバーに紹介するよ」


 コクン。

 意思疎通がジェスチャーになりがちだよね。うん。分かってた。


「一応、フウコさんが魔物相手にちゃんと戦えるか確認することになるから、その後にでもダンジョンに入ってみようか。だから明日、シーカー協会に登録しておいてくれるかな。それと戦える準備をしてきてね」


 コクン。


 さて、せっかく道場に来たのだから、稽古をつけてもらう。

 師範! シックスセンスを教えてください!



 +・+・+・+・+・+・+・+・+・+

 フォローよろしくです!

 応援💛もください。

 ★で称えてほしいです!

 +・+・+・+・+・+・+・+・+・+

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る