第77話 清州ダンジョン・第一エリア・隠し通路
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077_清州ダンジョン・第一エリア・隠し通路
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「さー、行くぞ!」
「「「おーっ!」」」
アズサさんのかけ声に、ミドリさんとアサミさんとルカが右手を挙げて応える。
一拍置いてフウコさんが手を挙げるけど、声を出したかは分からない。
なんだかピクニックとか遠足のような気軽さだ。
隠し通路は一本道で、最奥に部屋があった。その部屋の中に宝箱が三つ鎮座している。魔物は見えないけど、この部屋に入ると魔物が現れる罠がある。
「部屋に入ったら罠が発動して、魔物が出て来るよ」
「そんなことまで分かるのか?」
ルカが不思議なものを見る目を向けてくる。
「それが僕の特殊能力だからね。で、罠を排除する? それとも魔物を倒す?」
「魔物の強さは?」
「さすがにそこまでは分からないよ」
『魔眼』や『テキスト』では、そこまで分からない。
危険だと思うなら、罠の力場を結晶化して安全に宝箱をゲットするだけだね。
「ここは魔物を倒そう。F級ダンジョンの隠し通路だから、私やリオンが対処できない魔物が出て来るとは思えない」
ルカの言うことは一定の説得力があった。
ミドリさんたちは六級、僕は四級、ルカに至っては二級だけど今は三級相当の力がある。このメンバーで対処できない魔物がF級ダンジョンに出てくるわけがない。
仮に異常に強い魔物が出てきたとしても、僕の転移で逃げればいい。『時空操作・改』になったことで転移ゲートじゃなく転移が使えるようになったんだよ、僕。
「フウコさん。魔物と戦うけどいい?」
コクン。
よし決まった。僕たちは罠を解除しないまま、部屋の中に入っていく。
「さあ、来い! 一〇〇〇体くらい来ていいぞ!」
「怖いよ!」
ルカは脳筋過ぎる。一〇〇〇体も魔物が出て来たら、面倒すぎるよ!
部屋の入り口が塞がり、宝箱の前に魔物が現れた。
この第一エリアのボスの大クモよりも二回りほど大きい巨大クモだ。
「一体しか出て来ないのか。拍子抜けだな」
バトルジャンキーのルカは放置しよう。
フウコさんが前に出る。
「え、フウコさんがやるの?」
コクン。
「でもあれは今までの魔物よりも全然強いよ」
「問題ない」
「やらせてみればいい。危なくなったら、私がしっかりフォローする」
「ルカがしっかりフォローするんだったら……。フウコさん、あれは強いからね」
コクン。
今回も無造作というか自然体というべきか、フウコさんはまったく気負うことなく歩いて行く。
巨大クモが動いた。長く鋭い足を器用に使ってかなりの速さだ。
フウコさんの左に回り込んだ巨大クモの足が、槍のように突き出される。
それを躱すフウコさん。ゆったりとした動きに見えるが、本当はそんなことない。あれは無駄な動きを全て排除した完全な見切りだ。紙一重に見えるその絶妙な距離を完全に支配しているんだ。
「規格外だね、フウコは」
「そうですね」
普通は初心者が巨大クモ相手に戦えるものではない。それなのにフウコさんは稽古の時と同じ自然体の動きをして、巨大クモを追い込んでいく。
巨大クモの足が一本、また一本と斬り落とされていく。
「可愛げのない子だ」
巨大クモを切り刻んだフウコさんが戻ってくるのを、ルカが苦笑して見つめる。
フウコさんは宝箱に目もくれず、無表情のまま終わったとひと言だけ言った。
「宝箱あるよ。罠はないから、開けてみなよ」
「興味ない」
シーカーなら宝箱を前にして興奮するものだけど、フウコさんにとっては戦うことだけが興味を惹くことなのかもしれないね。
しかしフウコさんの剣の腕は神がかっている。僕では到底到達できない高みにいる。
師範が言うように、フウコさんを目指しても無駄だと実感するよ。
「それじゃあ、宝箱はじゃんけんで勝った人が開けるってことでいいかな?」
コクン。フウコさんの同意を得たから、皆がじゃんけんをした。なんでルカまで?
「っしゃー!」
そのルカがじゃんけんに勝って、高らかにチョキした手を挙げた。
僕はちゃんと見てたからね。ルカが後出ししてるのを。皆には見えないほどのわずかな後出しだけど、三級相当の実力を持つルカはその一瞬で皆の手を見てから出していた。ほんの一瞬の差の後出しだから、してないと言い張れるものだ。
皆はそれに気づいていないけど、どうやらじゃんけんに参加してないフウコさんには見えたようで、少し笑ったのを僕は見逃さなかった。こういうことでフウコさんが笑うんだね。
「それじゃー、開けるよー」
「「「はーい」」」
宝は刀だった。
名称 :
希少性 : 伝説級
効果 : 魔物の血を吸うごとに、持ち主と共に成長する。物理攻撃力一〇〇ポイント増加。
所持者 : 上泉楓子
凄くヤバそうな刀だ。
所持者がすでにフウコさんになっている。あの巨大クモを倒した人が所持者になるようだ。
「これはフウコさんのものだね。おめでとう。探索一回目で伝説級のアイテムを手に入れるなんて、凄いね」
小鉄斬を受け取ったフウコさんが、ちょっと嬉しそう。無表情だけど、なんとなく雰囲気で分かる。
鞘から抜くと、刀身は真っ赤だった。まるで血を吸った刀のようだ。妖刀っぽいけど、呪われてはいない。
「カッコイイね!」
アズサさんが小鉄斬を褒めると、フウコさんはコクンと頷く。
皆からおめでとうと言葉を受けると、目尻を下げて短くありがとうと返す。
フウコさんは自己表現が下手だけど、悪い子ではない。それが皆に伝わったようで、受け入れられている。
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「【時空の彼方】の出発を祝って、かんぱーい!」
ルカが乾杯の音頭を取った。
クラン【時空の彼方】を立ち上げて、クランハウスを購入し、ルカとフウコさんが【時空の彼方】に加入した。そのお祝いと歓迎会を兼ねたパーティーをすることになったんだ。
食堂のおばさんが腕に縒りをかけて料理を作ってくれた。ついでだから、食堂のおばさんや受付の女性、警備の人も歓迎会に誘った。警備の人は交代で参加だけど、皆で美味しい料理を食べて楽しく過ごす。
フウコさんもクランハウスに引っ越してくることになった。空き部屋はたくさんあるから、まったく問題ない。
「フウコさんの力なら私たちと一緒に行動しても問題ないと思うから、これからは四人で行動することにしますね。逆に私たちが助けられるかもですが、そうならないようにがんばりますね」
ミドリさんがフウコさんをパーティーに入れて四人パーティーで活動すると言ってくれた。フウコさんの強さは誰もが認めるけど、明らかにコミュニケーション能力が欠如しているから助かる。
「よろしくね。ミドリさん、アズサさん、アサミさん」
「「「はい」」」
「フウコさんは三人からシーカーとしての心構えを学ぶといいよ」
「分かった」
なぜかヨリミツまでいる。
「ミドリさんに連絡をもらった」
「来てくれてありがとうな」
ついでだから例の相談をしてしまおう。
場所を僕の部屋に移動してヨリミツに『結晶・改』になったことと、その効果の説明をした。
「何を迷うことがあるんだ? 魔物の特殊能力を集めて自分や仲間のために使うのが最優先だろ。しかも特殊能力の結晶があれば、誰でもレヴォリューターになれるんだ。結晶を売ることで商売にもなるぞ」
「そうか……誰でもレヴォリューターになれるんだ。考えたら凄いことだよね」
「凄いことだ。そしてリオンは多くの国や組織から狙われることになるだろうな」
「え……。それは嫌だな……」
「お前は一国の戦力を大幅に底上げできる存在だ。間違いなく狙われるな」
「なんとかならないかな?」
「そういった情報は隠してもいつかはバレるものだ。徹底的に隠蔽しても、お前が一流のシーカーになればなるほど洩れてしまうだろう」
「なんか気が重くなってきたよ」
「お前自身はいいが、家族が狙われるだろうな」
「うぅぅ……」
「だから、その力で家族を強化したらいい」
「え?」
「戦う力じゃなく、逃げられる、もしくは逃げ切れる特殊能力を、家族につけさせるべきだ」
「逃げ切れる……特殊能力……」
「一番いいのは、お前が持つ『時空操作』のような特殊能力だろう。一定の戦闘力もあるが、何よりも逃げる力が優秀だ。だがさすがに『時空操作』は簡単に手に入らないだろうから、色々な特殊能力をまずは集めるといいだろう。その中から逃げ切るために必要な特殊能力を家族に取得してもらえばいい。その後は自分や仲間の強化だな」
「そっか……ヨリミツに相談してよかったよ。ありがとう」
「いや、構わん。これはあくまでも保険だ。いつ情報が洩れるか分からんから、それに備えてのものだ。それを家族にしっかり説明しておくといい」
まずは家族用の特殊能力を集めるために、色々な魔物から特殊能力を回収することにした。
そのあとのことは、またヨリミツに相談すればいい。
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