第76話 清州ダンジョン・第一エリア

 ■■■■■■■■■■

 076_清州ダンジョン・第一エリア

 ■■■■■■■■■■



 フウコさんがクランハウスにやって来た。

 アサミさんとアズサさんは顔見知りで、ミドリさんとアオイさんとは初顔合わせだ。もちろんルカもね。

 フウコさんはコミュ障だからどうなるかと思ったけど、なんかいい感じで和気藹藹。僕が心配することはなかったようだ。


 フウコさんの特殊能力は『斬』。一文字で「ザン」とか、めっちゃカッコイイ。剣の天才にはカッコイイ特殊能力が発現するんだね!

 特殊能力『斬』の効果は、全てを斬る。だった。いや、マジでどんだけカッコイイのか! この『斬』は昇級試験で僕を襲った金髪が持っていた『切り裂く』の上位互換かな。チョー危険な特殊能力だ。


 下位の『切り裂く』でも僕の空間壁を破壊したから、上位の『斬』の威力がうかがい知れるというものだ。フウコさんには逆らいません!


「それじゃあ、ダンジョンに行こうか」


 コクン。

 フウコさんが魔物と戦えるかの確認と、どの程度の力があるかの確認をするためにダンジョンへ向かう。

 彼女の『SFF』は五五ポイント。一般的なシーカーの初期『SFF』が三〇ポイント前後、僕がシーカーになった時の『SFF』は九ポイントだった。これが格差社会っというものなのか!?


 一般的に『SFF』が五〇ポイントあると九級シーカーになれる。フウコさんはすでにその基準をクリアしているんだよね。


「私たちも一緒に行っていいですか?」

「いいけど、F級の清州ダンジョンだからミドリさんたちにとっては面白くないと思うよ」

「いいんです。フウコさんの力を見てみたいだけですから」


 新しい仲間の実力が気になるのかな。


「私も行こう」

「なんでルカまで?」

「リハビリだ」


 長くダンジョンで暮らしていたから、一般社会の中でリハビリをしたいらしい。僕たちはダンジョンに行くんだけど?


 結局アオイさん以外の全員で清州ダンジョンに向かうことになった。

 電車でもいいけど、僕が車を出した。あまり使う機会がないけど、こういう時に大きな車を買っておいて良かったと思う。

 夏の強い日差しももうすぐ終わる晩夏、僕たちは清州へと向かった。


 受付を済ませて六人でダンジョンの中へ。

 フウコさんはいつもの稽古着に、刀といういで立ちだ。足はなんと草鞋わらじです! 足袋は履いているけど、草鞋ってどうなの? 文明開化以前の人?


 しかし伊豆に遠征した時も女性陣のおかげで花があったけど、今日はフウコさんとルカも増えて僕にとってはハーレム状態だ。男性シーカー睨まれるのは、そのせいだと思う。


 そんな女性陣の中でフウコさんは一番小柄だ。二日前に会った際はセミロングだった黒髪が、今はボーイッシュなショートになっている。シーカーになったことで気合を入れてるんだね!


「フウコさんの髪、短いね」

「暑いから切った」


 あ、うん。季節は夏だもんね……。


「私も切ろうかな」


 ルカがフウコさん触発されたようだ。この中ではアズサさんに次いで背が二番目に高いルカがショートヘアにすると、その容姿もあってモデルに見えてしまうかも。

 ちなみにうちのクランの背の高さはフウコさんが一番低く、アオイさん、ミドリさん、アズサさん、ルカ、アサミさんの順に高くなる。アサミさんに至っては一七〇センチを超えている。

 僕はなんとかアサミさんよりも高いけど、少し高いだけだ。


「勿体ないですよ、せっかくそこまで伸ばしたのに」

「ダンジョンの中では美容室がなかったから伸ばしていただけ」


 悲しい過去だね!


「美容室もないのに、とても綺麗な髪じゃないですか。私にその綺麗な髪をください!」


 アズサさんが茶色く染めた髪を弄びながら、本気とも冗談ともつかない口調だ。彼女もポニーテールにしているから、ルカの髪が気になるのかな。


 ダンジョンに入って女性陣がキャピキャピ歩いていると、ダブルヘッドラビットが現れた。


「無理なら言ってくれていいからね」

「大丈夫」


 フウコさんは無造作にダブルヘッドラビットに近づいてい行く。

 ダブルヘッドラビットが姿勢を低くして警戒し、三メートルほどまで近づくと飛びかかって来た。

 フウコさんは慌てる様子もなく歩いて、ダブルヘッドラビットと交差した。

 ダブルヘッドラビットが地面に着地すると同時に、二つある頭が地面に落ちた。


「え? 何をしたのか、まったく見えなかったのですけど?」


 ミドリさんが驚愕。


「私も見えなかった……」


 アサミさんが悔しそうに唇を噛む。


「あの一瞬で刀を抜いて、斬って、納刀した……」


 アズサさんは見えていたようだ。


「リオンは見えた?」


 ルカが聞いてくる。


「うん。なんとかね。刀を抜いて二回振ったよね」

「末恐ろしい子だね」


 本当に末恐ろしい。

 なんとなく見えたというか、そうじゃないかなーって感じ。しっかり見えたわけじゃないんだ。

 四級シーカーの僕でもそんな感じにしか見えないっておかしいよね? もう、異次元の天才ぶりなんですけど!


「で、どうする? 魔物に物怖じしない子みたいだよ」

「とりあえずこのまま第一エリアを歩いてみますか」


 一体だけでは偶然ということもある。ないと思うけどね。


「フウコさん、気分が悪いとか体調が悪いとかない?」

「大丈夫」


 次はゲッコウフロッグが現れた。カエル型の魔物だから、女性だと嫌がる子もいる。

 今回もフウコさんは無造作に近づいて行く。


 ゲッコウフロッグの口が開き、長い舌が飛び出してくる。

 舌がフウコさんを突き抜ける。残像!?


 ゲッコウフロッグがもう一度舌で攻撃するけど、それも残像を残して回避するフウコさん。

 そして最後にはゲッコウフロッグの頭が斬り落とされ、戦いは一方的に終わった。


「本物だね」

「ええ、本物ですね……」


 ルカの耳打ちに頷く。

 嫉妬したくてもできないくらいの才能だ。


 足長クモも瞬殺したフウコさん。

 フウコさんは第一エリアで現れる三種類の魔物を瞬殺した。これなら九級の昇級試験を受けても合格するだろう。

 師範~。僕が面倒見ることないんですけど~。


 だから社会人としてフウコさんを導いていけたらと思う。

 コミュ障は性格だから、無理に直すことはないと思うけど。


 次の魔物を探して歩いていると、フウコさんが止まった。


「どうしたの?」


 ミドリさんが気にかけてくれる。

 やっぱり魔物との戦いで精神的に疲弊したかな?


「ここ」


 フウコさんが壁を見つめる。

 何だろうかと、『魔眼』を発動。


「………」


 これ、もしかして……。


「ねえ、リオンさん。この壁って、もしかしてあれじゃない?」

「うん。あれだね」


 僕とアズサさんは息を合わせた。


「「隠し通路」」


 これ、『魔眼』でも見落とすくらい、巧妙に隠されているんですけど!

 なんでフウコさんにこの隠し通路のことが分かったの?


「なんとなく」

「なんとなくって……僕、自信なくすよ……」

「私も隠し通路はいくつも発見してきたが、この隠し通路はまったく見分けがつかなかった。自信を無くすのは、私のほうだぞ。リオン」


 ルカもかなり落ち込んでいる。

 今は『SFF』が下がって三級シーカーくらいの力になっていても、史上最速で二級シーカーになった才女が落ち込むなんて……。


「さて、この隠し通路。どうする?」

「行く」


 フウコさんは即答だった。


「そこに隠し通路があるなら、探索するのがシーカーってもの!」


 アズサさんが気合入れている。


「この隠し通路の解除、僕に任せてもらっていいかな」

「どうぞ」


 手をワキワキさせているアズサさんに許可をもらった。

 こういう時は断っておかないと、後から何を言われるか分からないもんね。


 ―――『結晶・改』発動。

 隠し通路を隠すための壁の力が結晶化していく。

 よし、結晶化が完了した。


 ―――『隠蔽』。

 これが隠し通路を守っていた壁の力。

 これまでに八カ所の隠し通路の壁の力を結晶にしてきたけど、全部『隠す』だった。

 この隠し通路が発見されなかったのは、『隠蔽』が『隠す』よりも上の隠蔽能力を持っているからだろう。


 これを使えば新しい力を得られるはず。ヨリミツに相談するまでもなく、この力は僕に新しい世界を見せてくれると思うんだ!



 +・+・+・+・+・+・+・+・+・+

 フォローよろしくです!

 応援💛もください。

 ★で称えてほしいです!

 +・+・+・+・+・+・+・+・+・+

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る