第8話 九級昇級試験
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008_九級昇級試験
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清州ダンジョンの第二エリアで発見された隠し通路。その調査についてシーカー協会から話を聞いた。
隠しエリアの宝箱は僕が中身を回収したので、消えてなくなっていた。これは一般的に知られていることなので、簡単な報告だけあった。
そしてドーム状の部屋については、僕がホブゴブリンを倒してから二四時間後にリポップしたことから、エリアボスと同等の魔物だと判明した。
通常の魔物のリポップは一時間から二時間程度のサイクルで、エリアボスは二四時間が通常なんだ。
「リポップしたホブゴブリンを倒しましたら、下級ポーションがドロップしました。ホブゴブリンを三回倒しましたが、三回とも下級ポーションでした。ブーツは初回特典のようなものだと思われます。また、ドロップ率は一〇〇パーセントでしたので、下級ポーションが欲しいシーカーたちで順番待ちができるものと思われます」
ポーションは下級でも五万円とそれなりに高額なので、一〇〇パーセントドロップだと討伐の順番待ちができてもおかしくはない。
別の魔物からだけど、一度だけ下級ポーションがドロップしたので僕も一つ持っている。お守りのようなもので、大怪我をしない限り使うつもりはないけど。
職員から隠し通路の説明を受けた後、九級昇級試験の日程とその内容を聞いた。
九級の昇級試験は試験官と共にダンジョンに入って魔物を倒すというもの。九級昇級試験は個人の能力を見るものなので、パーティーを組んでいても一人で戦闘をすることになる。
試験対象の魔物は第二エリアにいるゴブリン。一人で戦って一〇分以内に倒せれば合格という至ってシンプルなもの。
特殊能力は使い放題で、武器は爆発を伴う武器以外ならなんでも使っていい。
今回、九級試験を受けるのは、僕の他に七人。四人と三人のパーティーだと自己紹介の時に聞いた。
その三人の中にはミドリさんも居た。女の子だけの三人パーティーを組めたようで、ひと安心だ。
ミドリさんのパーティーのメンバーは、剣と盾を持った気の強そうなアサミさん、短剣二刀流のアズサさん。二人は高卒でシーカーになったそうでミドリさんが一番年上なんだけど、パーティーリーダーはアズサさんらしい。
アズサさんは活発系美少女で、二人を引っ張っていくリーダーシップがあるらしい。
「リオンさん。第二エリアに隠し通路が見つかったらしいですよ。聞きました?」
「知っているよ。ミドリさんはもう行ったの?」
「見学に行ったのですが、下級ポーションがドロップするのでたくさんのシーカーが順番待ちをしてましたよ」
二四時間リポップなので、僕は並ばない。だって、並んだ順番が一〇番目なら、一〇日も待たないといけないということだよね。
一〇日もその場から離れられないなんてあり得ない。食事もそうだけど、入れるより出すほうが困る。
あの後、僕は第二エリアの穴場を探して探索したけど、隠しエリアが発見されたことで普通なら人が寄り付かないような場所にもシーカーたちが居た。
だから、休養と防具の新調をして、今回の九級昇級試験に臨んだ。
「あれはさすがに並べないよね、リオンさん」
「僕も一度見にいったけど、たくさん並んでいてアズサさんのいうように、並ぶ気にはならなかったよ」
アズサさんはかなり人懐っこい。その容姿もあって、若いシーカーに人気があるようだ。
「ポーションを使わない戦い方をすればいい」
アサミさんは少しぶっきらぼうな感じの喋り方をする。目つきも鋭くクールな風貌なので、喋り方に違和感がない。
下級ポーションは第一エリアのエリアボスである大クモからドロップするけど、大クモのドロップアイテムは確定ではなくランダムなんだ。
ただの鉄の塊の時もあれば、銅の塊の時もある。その中で大当たりが下級ポーションなので、そのドロップ率はかなり低い。だから、下級ポーションが確定ドロップの、隠し通路のホブゴブリンが人気になるのも分かる。
僕とミドリさんたちが和気あいあいと喋りながら進んでいると、大きな爆発音がした。
男子パーティーの一人が『爆破』系の特殊能力を持っているようだ。爆弾の爆発は威力がかなり抑えられてしまうけど、特殊能力の爆発はそうではないのでかなり強力な特殊能力だ。でも……。
「あんなに派手に音を立てると、魔物が寄ってくるかな」
僕がそう言ったそばから、魔物が足長クモが二体現れた。その二体に派手な攻撃をする。次から次へと魔物が近寄ってくる。負の連鎖だ(汗)
特殊能力による爆発は、ダンジョンの中でも地上でも威力に変わりはない。だけど、地上では圧倒的な破壊力や攻撃力のある火薬や燃焼剤は、ダンジョンの中では爆発力がかなり小さくなる。
どうしてと聞かれてもダンジョン内ではそうなるとしか説明できない。ダイナマイトやTNT爆薬、自動車などの内燃機関といった爆発を伴う現象は使いづらくなっているのがダンジョンの現状なんだ。
だから、拳銃のようなものは使用しないのがシーカーの常識になっている。
「私たちも手伝ったほうがいいでしょうか?」
「うーん、どうだろう……?」
男子パーティーが道中の魔物を倒してくれるおかげで、僕とミドリさんのパーティーはすることがなかった。
多分だけど、彼らは女の子三人に良いところを見せようと張り切って魔物を倒しているんだと思う。僕と喋っている三人を見て気を引こうと、派手な演出をしていると思うんだ。
僕は今年二五歳(まだ二四歳!)だけど、彼らのような頃もあったと妙に懐かしく思ってしまう。ただ、がんばってアピールするのはいいけど、昇級試験の前に疲れ果てないようにしてね。
僕が手伝おうかと聞いたら、赤毛の少年が不要だと言った。彼は四人のリーダー格の少年で、『爆破』系の特殊能力を持っている。
その彼が派手に特殊能力を使いまくったおかげで、わんさかと魔物がやってきた。
一二体の魔物と連戦した男子たちが肩で息をしている。思いっきり疲れているよ。
そんなことがあったけど、僕たちは無事に第二エリアに入ってゴブリンゾーンにやってきた。
「おい、オッサン」
まさかと思ったけど、「オッサン」というのは僕のことだった。僕はまだ二四歳の青年です!
僕をオッサンと呼んだのは男子パーティーの一人で、全く似合わない赤毛の少年だ。『爆破』系の特殊能力を使って魔物をおびき寄せる、痛い少年である。
「あんたのこと知ってるぞ。万年一〇級の冴えないオッサンだろ」
「万年一〇級は否定しないけど、オッサンと言うのは止めてほしいかな。まだ二四なんで」
「オッサンにオッサンと言って、何が悪いんだよ」
赤毛の少年は良い言い方をすれば四人の中のリーダー格、悪い言い方をすれば鼻つまみ者。その彼は年上の僕にも歯に衣着せぬ物言いをした。
「オッサン。昇級できんのか? 怪我する前に家に帰ったらどうだ」
なんでそんなことを言うのかと思ったが、考えてみたら彼らにとって僕は邪魔者なんだ。ミドリさんたちと親しくお喋りする僕は、彼らにとって天敵にも等しいのかもしれない。
「
「チッ」
僕が居たって、女性陣にアピールはできると思う。そのアピールの仕方が悪いんだよね。
彼女いない歴イコール年齢の僕が、他人のことをとやかく言うのも烏滸がましいんだけどね。
試験は一対一の戦いなので、最初は誰が戦うかと試験官に問われた。僕がやろうと思ったけど、男子たちがやると言うので手を挙げなかった。
最初はあの赤毛の少年が戦うことになった。彼の特殊能力はかなり強力なので大丈夫だと思うけど、それでも連戦の疲れが顔に現れている。
ゴブリンを発見したので、赤毛の少年の戦いが始まる。
派手に『爆破』系の特殊能力を発動させたけど、命中精度が悪い。いつもは仲間が魔物の位置を固定してくれていたんだろう、彼は動く相手に『爆破』系特殊能力を命中させるのに苦労していた。
魔物だって火の球が飛んで来たら避けるよね。それを考えもせずフェイントも何もなしに『爆破』系特殊能力を放っても、当たらないのは当然だろう。
幸いここは大きな音を立てても、他の魔物を呼び寄せない感じの場所のようで、これだけ騒々しいのに他の魔物は近づいてこない。多分、そういう場所を試験官が選んでいるんだと思う。
「一〇分経過した。不合格だ」
試験官がそう告げると、見えない刃がゴブリンの首を飛ばした。多分、試験官は『風』使いなんだと思う。
「俺はまだできる!」
「試験時間は一〇分だ。お前は自分の戦い方を考え直すべきだな」
「くっ」
かなり不貞腐れた表情だけど、試験というのは厳正に判定されるべきものだ。
彼の『爆破』系特殊能力の威力は強力かもしれないけど、動く魔物に当たらなければ宝の持ち腐れだと理解するべきだろう。
その後、赤毛の少年のパーティーメンバーも試験を受けた。二人が合格して一人が不合格。でもメンバーの半分以上が九級なら、九級パーティーとして扱われる。
「あの赤毛君が暴走しなければいいんだけど……」
「どういうことですか?」
ミドリさんが僕の独り言を拾ってしまったようだ。
「彼のようなシーカーはプライドが高いんだ。今までパーティーの中心にいたと思うけど、その彼よりも上のメンバーが二人も居る。彼がそのことを我慢できるといいんだけど」
ミドリさんたちは僕の言葉に納得したように頷いた。
次はアサミさんが試験を受けることになった。
アサミさんはゴブリンの剣を盾でいなして危なげなく戦いを進めて勝った。時間も八分かからなかったので、合格だ。
アズサさんは二本の短剣を器用に使って、攻守にそつがない。彼女も八分かからずゴブリンを倒したので合格した。
ミドリさんはの戦いは、以前見た時よりもかなり上達していた。
発芽までの時間が短くなっていたし、魔物の生命を吸う速度も速くなった。三分を少し越えた時間でゴブリンは消えたので、合格だ。
「九級昇級、おめでとう」
僕がそう言うと、ミドリさんは優しい笑みを浮かべて、僕のおかげだと言った。僕はそんなことないと否定したけど、彼女は僕のちょっとしたアドバイスに今でも感謝をしてくれているらしい。
最後は僕の番だ。ショートソードを抜いてゴブリンと対峙する。
息遣いを読み、ゴブリンが駆け出したのと同時に僕も動く。
剣を上段に振り上げたゴブリンが飛び掛かってくるのを、僕はショートソードを振り上げて弾いた。
剣を弾かれて体勢を崩したゴブリンの首に向かって、ショートソードを横薙いだ。
ゴブリンが切られたことに気づかずに動こうとしたが、その首がぐらりとズレて地面に落ちる。その場に倒れたゴブリンが消え去った。
溜まった結晶を解放して僕の『SFF』に変換したことで、僕の身体能力が上った。それによって、ここまでのことができたんだと思う。
結晶を解放した後にダンジョンに入っていなかったので、ここまで圧倒的な結果になるとは思ってもいなかった。
「合格だ。おめでとう」
「ありがとうございます」
試験官も驚いていた。僕が合格するとは思ってもいなかったようだ。でも、素直におめでとうと言ってくれたことが嬉しい。
「リオンさん、おめでとうございます!」
「おめでとう、リオンさん」
「おめでとう」
ミドリさん、アズサさん、アサミさんが駆け寄ってきた。
「皆、ありがとう」
これで万年一〇級とバカにされることはなくなるだろう。だけど、そんなことよりも、自分でも強くなれると思うと嬉しい。
「一瞬でゴブリンの首を切り落とすなんて、凄いです」
ミドリさんが興奮している。僕もここまで上手くいくとは思ってもいなかったから、自然と笑顔になる。
「けっ、まぐれだ。万年一〇級がゴブリンを倒せるわけないだろ!」
いい気分だったのに、赤毛君が水を差してきた。ここは大人の対応しようと思う。
「君も万年一〇級にならないように、向上心を持ってね」
うん、とても大人の対応だ。
「クソジジイが偉そうに言うな!」
あれ、なんで怒ってるの?
危うく殴りかかられそうになったけど、試験官が止めてくれた。よかった。
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