第70話 稲沢ダンジョン第一エリア
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070_稲沢ダンジョン第一エリア
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久しぶりに清州支部へ顔を出すと、すぐに支部長室に通された。
「大変だったね」
「ええ、変な人にからまれました(笑)」
「まあ、有名税というところか。それがシーカー協会の重役だったのは笑えんがな」
二人して苦笑する。
「色々動いてくれたそうで、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ悪かった」
二人同時にお茶を啜ってホッと息を吐く。
シーカー協会の人は基本的にいい人が多い。元シーカーが多く、現場の苦労を知っている人ばかりだけど、どこにでもバカな奴はいるということなんだろうね。特に黒田は現場も知らず、コネでシーカー協会に入ったらしいから。
「そうだ。忘れていたんですけど……」
目黒ダンジョンで手に入れた黒いリンゴを出した。色々あって、提出するのを忘れていたものだ。
「おいおい、またかね」
「ええ、またのようです」
頭をガシガシとかいた大水支部長は、すぐに部下を呼んだ。
「説明は要るかな?」
「いえ、前回聞きましたので」
「一応言っておくけど、他言無用だからな」
「はい」
ダンジョンクリエーターこのことは、ミドリさんたちにも言ってない。アオイさんだけは経理を管理しているから、ちゃんと許可を得て話してあるけど。
「ダンジョンには、いつから入るんだね?」
清州支部が管理する中にB級ダンジョン―――通称・稲沢ダンジョンがある。久しぶりにホームで活動だね。
「防具を一新しようと思っていますから、それが終わってからですね」
ファイアボアの革鎧は決して悪い防具ではないけど、背中とはいえあんな三下のダメージが通ってしまった。さすがにB級ダンジョンの魔物相手に、あの防御力では心配になってしまう。
「オークションか。まあ、カカミ君なら大概のものは手に入るだろう。いい防具が手に入ることを祈っているよ」
「はい。ありがとうございます」
ダンジョンクリエーターの処理も終わり、支部長室を辞した。
あれから毎日のようにシックスセンスの稽古をしている。
アイカやアオイさん、ミドリさん、アズサさん、アサミさんたちに時間がある時は、ピンポン球を投げてもらった。
結構がんばっているんだけど、僕にはピンポン球どころか皆の投げる動作さえ感じることはできない。
師範が言っていたように、僕は凡人なのだと痛感するよ。
オークションでは地竜の革鎧を落札することができた。かなり防御力が上がったから、これで稲沢ダンジョンに挑戦できる。
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名称 : 地竜の革鎧
希少性 : 伝説級
効果 : 物理防御力一万二〇〇〇、特殊防御力一万二五〇〇、わずかな損傷なら自動で修復する。
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茶色で無骨な革鎧だが、重量を感じないくらい軽い。動きやすいし、結構気に入っている。
値段はなんと一二億円。ははは……バブルだ。そういえば、バブルっていつの言葉だっけ? どーでもいいか。
今日は稲沢ダンジョンの偵察をしようと思う。情報はタブレットにダウンロードしてあるし頭にも入れてある。それでもやっぱり肌で感じるのとは、違うんだよね。
「それじゃあ僕は半日ほどで出て帰るから。三人も気をつけてね」
「リオンさんも気をつけて」
「いってきまーす」
「グッドラック」
清州支部でミドリさん、アズサさん、アサミさんと別れた。三人はこれからD級ダンジョンの花ノ木ダンジョンに入る予定なんだ。
僕は稲沢ダンジョンをちょっとだけ見て帰る予定だ。しばらくダンジョンに入ってないから、僕はリハビリといった感じかな。
稲沢ダンジョンは塔型で、天空に突き刺さるくらい巨大なダンジョンだ。まさにB級ダンジョンに相応しい威容を誇っている。
入り口を前にして見上げること三分。首が痛くなってきたので止めた。
B級ダンジョンだけあって、シーカーの出入りはない。四級以上じゃないと入れないから、シーカーの数が圧倒的に少ないのが理由だね。
入り口を入って行く。トンネルのようなうす暗い通路を一〇〇メートルほど歩くと、空があった。さらに近代的都市があって、ただトンネルを抜けたような錯覚を覚える。
「東京並みの大都会じゃないか」
高層ビルが立ち並ぶ街並みは、首都を思い起こさせるほどのものだ。ただし人間はまったく存在せず、街中を歩くのは魔物たちだ。
「魔物の濃度が異常に高いんですが」
見渡す限り魔物、魔物、魔物。東京の人間が魔物に置き換わったと思えるほどの数だ。
「こりゃぁ大変だ」
一体一体の強さもあるけど、この数を捌くのは骨が折れそうだ。
空を見上げれば、ワイバーンのような飛行型の魔物までうようよ飛んでいる。上空を行くのも大変そうだね。さすがはB級ダンジョンだ。
素直に地上を進んで様子を見よう。
歩き出した僕は、一番近いビルに入った。
エントランスに魔物が居る。サハギンに似ているけど、サハギンではない。リザードマンだ。
人型のトカゲで尻尾があるリザードマンは、水陸どちらでも戦闘力は変わらない厄介な存在だ。鱗の色が青だと水、赤だと火、緑だと風、茶色だと土の魔法を使ってくることでも有名だ。
エントランスはかなり広く、その中に一五体のリザードマンが居る。一体と戦闘になったら、連鎖して次から次に戦闘になるだろう。
「やっぱり四級ダンジョンは最初からハードモードだね!」
なんだかわくわくしてくる。
昔の僕ならこんな気持ちにならず、瞬時に踵を返して逃げていたことだろう。
先ずは一番手前の青色のリザードマンに『結晶』を発動。僕の特殊能力はこれから始まったからね!
すーっと僕の手の平の中に結晶が現れる。スムーズに結晶化できた。
一体が音もなく消えたから、他のリザードマンは僕に気づいていない。いい感じだ。
次は緑色のリザードマンに空間切断!
こちらも瞬殺だった。
「これならどうかな?」
サハギンシーナイト召喚! × 一〇
「二体で一体のリザードマンを攻撃だ!」
手前にいる五体のリザードマンに、倍のサハギンシーナイトをぶつける。
その戦闘音に他のリザードマンが気づいて集まってくるところに、空間切断!
「おおお!」
僕が召喚したサハギンシーナイトは全部倒されてしまった。
D級の花ノ木ダンジョンに出て来るサハギンシーナイト二体では、リザードマンに敵わないか。さすがはB級ダンジョンの魔物だ。
サハギンシーナイトを倒した五体のリザードマンが魔法を放ってくる。僕は空間の壁でそれを防いで五体を結晶化した。
一五体のリザードマンを倒したけど、落ちていた魔石は全部色付きだ。
「赤(火)、青(水)、緑(風)、黄(土)の四属性の魔石だ。大きさは中サイズだから、最低でも一個百万。ふふふ。美味しい狩場だよね!」
上位のシーカーがどれだけ稼ぐか、この魔石の値段だけで分かるよね。
僕の『結晶』を使うと魔石は残らないけど、リザードマンの結晶は安住製作所に高く売れそうだし、僕自身の『SFF』を強化するのに使ってもいい。
この階にはエントランス以外になく、他に魔物は居なかった。
ビルなのにエスカレーターやエレベーターはなく、僕は階段で二階へ上がる。
ビルの二階に上がっても、ダンジョンのエリアを上がったことにはならないけど、今日はお試しだから入り口に最も近いこのビルを完全探索することにした。
二階は長い廊下があって、いくつものドアがある。壁で仕切られている部屋が多くあるようだ。
廊下には魔物は居ないけど、手前のドアを開けたらリザードマンがうようよ居た。エントランスよりも狭いスペースに、三十体くらい居る。
「空間切断!」
一体を残して全部空間切断で倒した。
残った一体は、剣で戦うことにした。強さは『テキスト』が数値化してくれるから確認できるけど、実際に戦ってみないと肌で感じられないからね。
カラドボルグを抜き、水色のリザードマンと対峙する。
リザードマンの武器は鱗の色に関係なく色々だ。盾と剣、槍、大剣、棍棒などあって、対峙しているのは大剣を持っている。
「シャーッ!」
リザードマンが大剣を振り上げて、ジャンプして僕に迫る。
「はっ!」
その大剣を受け流すとリザードマンは体勢を崩した。その隙を見逃さず、カラドボルグでリザードマン胴体を深々と切り裂いた。
「キシャーッ」
怒ったリザードマンは、大剣を振り回してきた。無造作に見える動きだけど、正確に僕の首を狙ってきた。さすがはB級ダンジョンの魔物だ。
それを半歩引いて躱し、その懐に飛び込んで喉にカラドボルグを突き刺した。そのままカラドボルグを横に引いて、首の半分を切り裂く。
「キ……シャ……」
僕がやったことだけど、首がブラーンとぶら下がった姿は結構引く。
油断なく後方に飛んで次の攻撃に備えたが、リザードマンは消えて魔石を残した。
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