第69話 シックスセンス
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069_シックスセンス
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黒田の悪事が白日の下に曝され、あの三人だけでなく多くの人が摘発された。その中には現役の国会議員もいたけど、そんなこと僕の知ったことではない。
自衛隊とか防衛相とか外務省とか色々な省庁も絡んで、大きな騒ぎになった。
大陸の大国がスマートメタルの情報を得るために、安住製作所の役員で五級シーカーの僕を不当に拘束したためだね。それはもう大変な騒ぎだよ。
外務省はこのことを隠蔽したかったみたい。相手は大陸の大国だから、下手に騒ぎ立てると面倒なことになるからね。
でも国防省は自国で開発した軍事技術を狙った大陸の大国のことが許せないらしい。もっとも指向性重力制御システムの開発に自衛隊や国防省は関わってないみたいだけど。
僕のほうは、今回のことで中途半端になっていた四級昇級試験を無事に合格ということになった。
それに今回の賠償と慰謝料を合わせて三〇億円をもらうことになった。なかなかの額で、驚いてしまったよ。
黒田の資産を全てシーカー協会が回収しても、さすがに三〇億円にはならない。隠し資産も差し押さえても、足らないよね。
シーカーは特措法でその身分が守られていて、シーカー協会にはかなり大きな権限がある。そのシーカー協会の重役が犯罪を犯したことで、シーカー協会の顔を潰したことになった。おかげでかなり厳しい対応をしたらしい。
詳しくは聞けなかったけど、黒田の親族の資産も没収されたみたい。そんなことができるのかと驚いたけど、できるらしい。
僕を襲った三人も厳しい処罰になるだろう。映像はシーカー協会に提出する前にアオイさんにバックアップをとってもらっていた。提出したのはそのコピーのほうだから、証拠になんの問題もない。
僕の『テキスト』ならそれくらい見られるから、事前の対策をして当然だよね。
僕の背中を刺した人の父親が国会議員で、そっちは息子の犯罪を何度も隠蔽してきたこともあって、所属政党から除籍になって国会議員の辞職勧告を受け、さらに僕への賠償のために巨額の借金を背負ったらしい。
シーカーに対する犯罪は、犯罪者本人でなくてもかなり広い範囲に効力が及ぶんだね。法律が整備されていると知ってはいたけど、さすがにここまでのものとは思っていなかったよ。
僕も気をつけないといけないね。
あと僕たちのクランの話だなんだけど、人数が一人足りてなかったので保留していたんだ。でも今回のことで特別にクランの設立が認められた。
クランを設立したらそのメンバーが年度内に得た所得の全てを、クランの所得にできる。クランは税率がかなり優遇されているから、個人のシーカーよりもはるかに支払う税金が少なくなるのでありがたい。
僕の今年度の所得は一〇〇億円を軽く超えているから、個人だと最大税率の三五パーセントになるはずだった。
シーカーは元々税率が優遇されているけど、それでも三五パーセントはかなりの率だ。
それがクランを設立したおかげで、たった八パーセントで済む。かなりの節税になるよね。
クランにはランクがあって、僕たちは最下位のFランククランになる。ランクが上がると税率の他にも優遇処置があるからどんどんランクを上げたいけど、所属人数や功績などクリアしなければならないことが多いんだよね。
「それでは、クラン【時空の彼方】の設立を祝し、またクランリーダーのリオンさんの四級昇級と出所を祝って、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
いや、出所って。僕は不当に拘束されていただけだからね。
音頭をとったアズサさんに抗議するべきか。いや冗談に目くじらを立てても場の空気が悪くなるから、今回はスルーしよう。
「お兄ちゃんにクランリーダーなんて務まるの? こんなに頼りないよ?」
「アイカの考えはしっかりと受け取った。これからは小遣いなしな」
「わー、お兄ちゃんすごいっ! クランリーダーはお兄ちゃんのためにあるような役職だよ! 立派だなーっ!」
まったくアイカは……。
今回はミドリさん、アオイさん、アズサさん、アサミさんのクランメンバーだけじゃなく、妹のアイカ、親友のヨリミツも参加してくれた。
「何はともあれ、無事でなによりだ。それに四級なんだってな。すごいじゃないか」
「いつか必ず一級になってみせるよ」
「ほう、リオンが言うようになったな」
研究バカのヨリミツが楽しそうに笑う。
教授になって、さらに安住製作所でスマートメタルの開発も手掛けているから、とても忙しいのにわざわざ出席してくれた。
僕が拘束されている間、国防省や自衛隊などに働きかけてくれていたらしい。本当にヨリミツには感謝しかないよ。
解放された後に結晶を大量生産させられたのも、少しだけ許してあげるよ。四日も缶詰にしやがって!
「ちゅーもーく!」
宴もたけなわの頃、アオイさんが手を叩いた。
「私たちのクランハウスですけど、地下鉄伏見駅から歩いて二分のところにある、ビルを買い取りました!」
「「「おおおっ!」」」
経費で落ちるからと、ビルを丸ごと一棟買い取ってしまった。
僕が百数十億円稼いでいるから、税金が安くなっても一〇億円以上取られる。それだったら経費にできるクランハウスを立派なものにしようと、アオイさんが提案してビルを買うことになったんだ。
ビルは改装費も入れると五〇億円くらいだったけど、現金一括払いですよ。それでも賠償金もあったから、あまり資産は減ってないんだ。
アオイさんはもっと使って税金対策するとか言っていた。何をするのかな……?
「改装工事に一カ月ほどかかるけど、皆の部屋もあるからね」
「「いえーいっ!」」
喜んでいるのはアズサさんとアサミさんだ。二人とも実家暮らしなので、一人暮らしがしたかったらしい。一人暮らしは親が許してくれなかったけど、クランで共同生活を送るならと許してもらったんだとか。
「ルールはこれから決めますが、自室は各自で綺麗に使ってくださいね」
「「はーい!」」
楽しく宴会は進んだ。僕はお酒が飲めないけど、アイカは水のように飲んでいる。おかしいな、同じ血を引いているのに、なんでこうも違うのかな……。
「リオンさん。本当に良かったです。あのまま出て来られなかったら、どうしようかと思ってました」
「ミドリさんにも心配をかけたね。ごめん。でも、こうして無事に出て来られた。これも皆のおかげだよ」
僕が拘束されている間に、アオイさんは映像をネットに上げて拡散させてくれた。
僕を襲った三人の主張が嘘だというのが、誰の目にも明らかになった。ミドリさん、アズサさん、アサミさんも清州支部の大水支部長を通して動いてくれた。本当に感謝している。
宴会の翌日。僕は久しぶりに師範の道場に足を踏み入れた。
「楓子さん。お久しぶりですね」
「久しぶり」
相変わらず素っ気無いけど、これが彼女の普通なんだよね。
早速胴着に着替えて稽古しようと思ったら師範が入ってきた。午前中に姿を出すなんて珍しいね。
「おはようございます。師範」
「おう、リオンか。本当に久しぶりだな。稽古をサボって何をしていたんだ」
「サボっていたわけでは……」
師範に黒田のことを説明すると、がはははと笑われた。
「背中を斬られたのか。ボーっとしているからだぞ」
「ボーっとしていたわけじゃ……」
「おい楓子。目隠ししろ」
「はい」
いきなり何? 楓子さんが白い鉢巻で目を覆った。
「よーく見ておけ」
師範がピンポン球を投げると、楓子さんがそれを木刀で打ち落とした。
「えっ!?」
鉢巻で目隠ししているのに、なんで木刀で打ち落とせるの?
師範は間髪入れずにピンポン球を投げ続ける。その全てを楓子さんが打ち落とす。
「いいか五感を研ぎ澄ますと、六番目の感覚が目覚める。これがそのシックスセンスに目覚めた奴の力だ」
「シックスセンス……」
凄すぎるよ、楓子さん。
「僕にもシックスセンスを身につけることができますか?」
「さあな。何せお前は凡人だからな」
「うっ……」
楓子さんのような武術の才能はまったくないけど、そう面と向かって言われると傷つきますよ。
「まあ、一〇回のうち一、二回くらいは打ち落とせるくらいにはなるかな」
「本当ですか!?」
「全部、お前次第だ」
「僕にもシックスセンスを教えてください!」
僕も目隠しをした。
「先ずは五感を研ぎ澄ませ。その先にシックスセンスはある」
「はい」
返事と同時に額にピンポン球が当たった。
「もう始まっているぞ」
「は、はい!」
百球以上ピンポン球を投げてもらったけど、僕には何も感じられなかった。
「凡人のお前が一日目で打ち落とせるわけないだろ。そんなにがっかりするな」
「それ、慰めてます?」
「おう、慰めてやっているんだ。いいか、お前は楓子のようにはなれん。楓子は天才だからな、追いかけても意味はないぞ。自分にできることを、できるようになればいいんだ」
師範は僕の肩をぽんぽんと叩いて、道場を出て行った。
ピンポン球を片づけながら、いつかかならず打ち落としてやると心の中で誓った。
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