第24話 剣術の稽古
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024_剣術の稽古
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第五エリアのゴブリンロードからドロップしたゴブリンの支配者の証は、オークションで落札されて僕の口座に二億七〇〇〇万円が振り込まれた。オークションの手数料が一〇パーセントなので、落札価格は三億円だった。
「召喚できるのがゴブリンでも、召喚アイテムは珍しいことから高額になったようです」
職員からそう説明を受けた。さらに、これまでの収入もあるので、税率はマックスになると職員は言っていた。
シーカーは命懸けで公共性が高い仕事なので、他の仕事よりも税率は低くなっているけど、大幅なものではない。
単純にレヴォリューションブックと今回のゴブリンの支配者の証だけで六億三〇〇〇万円を稼いでいる僕は、税率マックスの富豪シーカーの仲間入りをしてしまった。
「武器や防具は経費として落ちますよね?」
「はい。武器、防具、ポーションなどの消費アイテム、野営道具、特殊な環境へ適応するための道具類は、経費として計上することができます」
その他にもこういった収入と支出を管理するためのPCやソフトも経費で買えるらしい。こういうことを調べたり管理したりするのは、僕の性に合わない。面倒なものだね。
そこでアオイさんの言葉を思い出した。僕の資産管理とか税務に関することをやってくれる。本気で考えてしまう。
そういえば、安住教授の会社の役員になる話もあったっけ。そういう時の税金はどうなるのかな……。ヤバい、全然分からない。
お金の管理は僕ではできそうにない。以前は財布の中身、通帳の残高を見ながらカップラーメンを何個買おうとか考えたくらいだからな……。
僕はアオイさんに連絡を取ることにした。ただ、彼女が大学を卒業するのは来年の春なので、次の確定申告に間に合わない気がする。
「最悪はシーカー協会で税理士を紹介してもらおう……」
アオイさんにメッセージを送ってから、枇杷島ダンジョンの第六エリアに入った。第六エリアは火山帯なので、ところどころで蒸気が噴出している。蒸気に当たるだけでもダメージを負うので、気をつけないといけない。
幸いなことに『魔眼』で蒸気の動きも見えるので、そこまで危なくはない。
出てくる魔物はファイアリザード。なんとマグマの中に入っても生きているコモドオオトカゲのような魔物だ。
体長は三メートルほどで、ワニのような鱗がある。その鱗が真っ赤に燃えているように見えることから、ファイアリザードと呼ばれている。
ファイアリザードが火を吹いてきた。火炎放射のような炎が僕を襲うが、空間の壁を出して防ぐ。
赤銀製の剣を鞘から抜いて、地面を蹴る。ファイアリザードとの間合いを詰め、剣を振り下ろした。
まるで鉄を斬ったような衝撃が手に伝わった。右手が痺れる。それなのに、ファイアリザードの体は鱗に傷がついただけで、斬れていない。
「硬いとは聞いていたけど、本当に硬いな」
僕に飛びかかってその牙で噛みつこうとしたファイアリザードを、サイドステップで躱して剣で斬る。今回も鱗に阻まれ、大きなダメージは与えられない。
ゴブリンナイト相手ならなんとかなった僕の剣術は、ファイアリザードのような硬い魔物相手を斬れなかった。情けない。
火を吹こうとして口を開いたファイアリザードを、空間の壁で囲う。空間の壁に火が当たり跳ね返って自分を焼くが、ファイアリザードはマグマの中に入っても平気なので、その火でダメージを負うことはない。
「まさに最強の盾だな」
運が良ければファイアリザードの鱗付きの皮がドロップする。火や熱に強いため色々な用途がある素材だ。
ファイアリザードの命を『結晶』で吸い取り、戦いは終わった。剣でダメージを与えることができなかったことで、僕の非力さを思い知る。
「ちゃんと剣を学んだほうが良いのかな」
ゴブリンナイトに勝てる程度でいい気になっていた自分が恥ずかしい。
第六エリアにはファイアリザードの他に、ロックゴーレムという岩の巨人が現れる。
体長四メートルほどの人型の岩巨人であるロックゴーレムもかなり硬い魔物で、僕の剣は役に立たなかった。
僕が使っている赤銀製の剣は五級シーカーが使うような武器なので、剣が悪いわけではなく僕の腕が悪いのだと痛感される。
自分の未熟さを思い知らされることになった僕は、第六エリアを踏破したのに気分が晴れない。
地上に戻った僕は、シーカー協会で剣術の道場の情報を聞いてみた。シーカー協会には武術道場の情報を持っていて、シーカーの相談を受け付けている。
「剣術とひと言で言いましても、色々あります。日本の刀を使った剣術、西洋の剣術、さらに日本でも西洋でも細かく剣術は別れます。カカミ様はどのような剣術を学びたいと思われていますか」
そんなことを言われても困ってしまう。剣術がそんなに千差万別あるとは思ってもいなかった。
「あの、この剣を使った剣術を」
赤銀製の剣を見せて、ざっくりと相談する。
「日本刀に似ていますね。その剣を使う前提であれば、
日本の古武術を道場主の塚原師範が現代風にアレンジした塚原流剣術を教えている道場だと説明を受けた。
「ただ、塚原師範はかなり厳しい方だと聞いております。弟子入りしても長続きする方は少ないそうです」
「そ、そうなんですか……」
めっちゃ不安だったけど、紹介された塚原道場へ向かった。住宅街の一角にあるその道場は、なんとも古風な門構えで僕を迎えてくれた。
「すみません」
「………」
返事がない。ただの空き家のようだ。
「すみませーーーん」
「なんだ、うるさいな。新聞の勧誘なら、間に合っているぞ」
五〇近い大柄で稽古着を着た男性が出て来た。
「今なら一カ月無料です。どうですか」
「半年無料なら考えるぞ」
「うーん、三カ月では」
「仕方ないな。三カ月無料と洗剤で手を打ってやる」
思わず乗ってしまったけど、どこで終わらせたらいいのか。
「なんだ、新聞屋じゃないのか」
「はい。仮入門希望のシーカーです」
「仮入会は入会金と月謝が半分だ。一カ月後に、本入会する時は入会金の残りを払ってもらう」
シーカー協会で聞いた通りなので、仮の入会金と月謝を払った。
「カカミリオン。変わった名前だな」
「親が変わり者なので」
これでも古い家の家系なんだよ。もっとも、今ではただの農家なんだけどね。
それはヨリミツも同じだけど、家の格はヨリミツのほうがかなり上だ。今ではそういった家の格はあまり意味がないものだけど、お年寄りの中では結構あったりする。
話が逸れてしまったけど、道場に上がらせてもらった。僕と塚原師範以外には、道場着を着た可愛らしい女の子が居るだけ。
「こいつは、一番弟子のフウコだ」
「
フウコさんは表情が抜け落ちたかのような無表情で、名前だけを告げて来た。僕も自己紹介して仮入門すると言うと、興味なさそうに稽古に戻った。
「塚原流は抜刀術の流派だ」
抜刀術は居合術とも言われ、鞘から刀を抜き放つ動作で一撃を加えて二の太刀でとどめを刺すものらしい。でも、塚原流剣術の抜刀術は、一の太刀で敵の息の根を止めるものだと説明を受けた。
実際に手ほどきを受けると、素人の僕にも容赦がない。
木刀を持たされたと思ったら、抜刀の構えのまま一時間動くなと言われた。ちょっとでも動いたりふらつくと、容赦なく叱責が飛んでくる。師範は噂通り厳しい人だった。
中腰で抜刀の構えをしていると、本当にキツイ。足がプルプルしてくる。
「気合でやり遂げろ!」
「はい!」
初日から僕の足は筋肉痛になった。でも、僕の横で同じように一時間も抜刀の構えをしていたフウコさんは、一切動かなかった。足がプルプルすることもなく、無表情で汗ひとつかかずに一時間やってのけた。
「フウコさんは凄いですね。道場に通って長いのですか?」
「……半年」
フウコさんは言葉少なく答えた。
「僕も半年で動かずに構えをやり遂げることができますかね?」
「……さぁ」
分からないらしい。しかも、喋りかけるなというオーラが見える気がする。
どうやら僕は歓迎されていないようだ。
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