第23話 暇じゃないんだぞ
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023_暇じゃないんだぞ
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「よう、暇か?」
「………」
急にそういうことを言われると、ムカつく。
こんなことを言うのは、ヨリミツ以外に居ない。
「暇じゃないぞ」
見て分かるだろ。僕は寝ていたんだ。ずかずかとマンションに上がり込むヨリミツに寝癖頭を見せてやったけど、無視された。
「これからスマートメタルの試験を行う。武装試験だ」
「……お前なぁ、今日のことを今言うの?」
今、何時か知っているか? 世間では朝の七時と言うんだぞ。少なくとも僕は寝ている時間なんだよ。
「行くぞ」
僕の予定とか都合は聞かないんだな。まあ、ヨリミツがそういう奴なのは以前から知っていたけど。
「すぐに着替えろ」
着替える時間はくれるんだ。ありがたいことだ。
髪を濡らして寝癖を直すと、よれよれのTシャツとパンツ姿からさっそうと服を着替えた。
暦の上では秋なんだけど、マンションを出るとやや暑い。もう一〇月も終わろうというのに、日中は秋にはあるまじき気温になる。残暑という言葉で片づけていけない気候だ。
自動車に乗って移動していると、高速道路に入った。僕がどこに行くのかと聞いても、ヨリミツは行けば分かると言う。
自動車は高速道路の上り車線を進み、途中のサービスエリアで休憩をとった。そこでもどこへ行くかは教えてもらえない。
さらに高速道路を進んで富士山が見えてきた。これ、日帰りでいいんだよね?
「……ここ、自衛隊……?」
富士山の裾野にある演習場。僕はどこに連れて行かれるんだろうか?
「そうだ。今日の稼働試験は、自衛隊の協力を得てやるんだ」
いつの間に自衛隊を抱き込んだんだろうか?
待っていた自衛官とヨリミツが言葉を交わして、入門証をもらう時に僕も自己紹介した。
自衛官は航空自衛隊の牛島三佐と他一名。リアル敬礼って、初めて見たかも。
ジープに乗り換える。自衛官が運転するジープで、牛島三佐、ヨリミツ、僕、学生が演習場へと入っていく。舗装されていない土の地面をジープ走るとか、本当に自衛隊なんだと思ってしまった。
いくつかのテントが張られている。どれも地味な緑色のテントで、自衛隊感が半端ない。
「今日は武装の試験だ。下手なところではできないということで、ここになった」
「そういうことは先に言ってくれるかな。自衛隊の演習場に初めて入るから、めっちゃ緊張してるんだけど」
自衛隊の演習場ってだけでも緊張するのに、牛島三佐は幹部だよね? シーカー協会の大水支部長はなんというか、マッチョなおじさんなんだけど、牛島三佐はお偉いさんといった雰囲気を醸し出している。
もっと上の人はいくらでも居ると思うけど、小心者の僕にとっては心臓ドキドキだ。
「やあ、カカミ君。久しぶり」
「お久しぶりです。教授」
安住教授は大水支部長とも違う近所のおっちゃんて感じ。比較的喋りやすい。
「こっちはオカザキ自動車の三橋主任だ」
「三橋と言います。よろしくお願いします」
名刺を差し出してきたので、受け取り自己紹介する。これがサラリーマンというやつなんだ。
大学を卒業したら、サラリーマンになるつもりだった。その頃の僕が持っていた特殊能力は『結晶』だけだった。だから、シーカーになる予定ではなかった。
それなのに、僕はシーカーになった。サラリーマンになれなかったからだ。こういう名刺のやりとりに憧れてしまう。
それは置いておくとして、なんでオカザキ自動車なんだろうか?
日本最大で世界でも有数の自動車メーカーのオカザキ自動車が、ロボットの開発に関係しているのにちょっと違和感。まあ、オカザキ自動車がロボット分野に手を出していけないわけではないんだけど。僕は素直にそのことを質問した。
「純粋な好奇心なんですけど、なんでオカザキ自動車のような自動車メーカーが開発に関わっているのですか?」
「自動車メーカーのオカザキ自動車の協力を得て、新しい試験機を作ったんだ。ほら、自動車って精密機器から金型の技術など色々なテクノロジーの塊だからね」
教授の話はなんとなく納得できた。たしかに、自動車ってテクノロジーの塊だもんね。
三橋主任は機体の整備に戻った。前回見た機体がベースなのかもしれないけど、色々ごてごてついている。武装がどうこうって言っていたけど、こういうことなんだね。
学生の他に見慣れない大人たちも整備をしている。三橋さんもそこに入ったので、あの大人たちはオカザキ自動車の技術者だと思う。
そういえば、ヨリミツが論文を発表したんだった。博士号間違いなしと、安住教授は言っていた。
あの論文があったから、自衛隊とオカザキ自動車がスポンサーというか協力関係になったのかな。
しかし、自衛隊は国だし、オカザキ自動車は超一流の自動車メーカーなのに、よく協力してくれたものだ。それほどこのスマートメタルが素晴らしいものということなんだろう。
そこで気づいたけど、指向性重力制御システムは僕が重力結晶を支給しないと動かない。これって、仮に僕が死んだらどうなるのかな……。他に『結晶』の特殊能力を得たレヴォリューターが現れるのだろうか? それとも、ヨリミツたちが重力結晶まで作り出してしまうのだろうか?
いやいや、縁起が悪いことを考えるのは止めておこう。
それに、毎日一〇個以上の重力結晶を作っているから、在庫はそこそこあるはずだからしばらくは大丈夫だと思う。
整備が終わったようで、試験機をテントの外に出した。地面を踏む音がなんともロボットらしい。
前回は流線形で近未来的な(?)ボディだったけど、今回はかなりごつい。ごってごってな武装があるからだと思う。
今回、機体に乗り込んだのは、自衛官だった。
前回の試験と違って今回は武装を試すため、テストパイロットを学生に任せるわけにはいかないらしい。
試験機に乗り込んだ自衛官は、陸上自衛隊の人で五〇近い。名前と階級は倉橋一尉。あと、サブパイロット(予備員)としてもう一人居て、三〇代の大場三尉。
試験機の中にはカメラがセットされていて、倉橋一尉の顔がモニターに映っている。顔と言ってもフルフェイスのヘルメット越しなので、表情は分かりにくい。
テントの中では、色々な方向からスマートメタルを映し出すモニターがある。計器などもあるし、通信機器もある。
メインパイロットの倉橋一尉は、計器に異常がないことを報告し、試験に移ると言った。なんとも凛々しい声で、自衛隊らしいと思ってしまう。勝手なイメージだけどね。
相変わらず駆動音が少ないスマートメタルは、土の地面を踏みしめて所定の位置へと移動。
武装は片手で持てるくらいの棍棒、いや、金棒かな。スマートメタルが二メートルほどなので、そこまで大きくはない。左手には盾も装備している。
金棒が剣なら機械の騎士だけど、その両肩には砲門がついている。この砲門があるのに金棒を振り回せるのかな? 邪魔にならないのかな? 僕が心配することではないか。
シーカーとして剣を使っている僕は、そんなことを思いながら双眼鏡越しにスマートメタルを見つめた。
スピーカーから倉橋一尉の声が聞こえてきて、これから金棒の威力確認を行うと言った。
標的はコンクリートブロック。シーカー協会の訓練場にあるものに似ている。一メートル四方のものだ。
数百メートル先で行われる物理攻撃。ガツンッという音が聞こえてきそうだけど、さすがに聞こえない。
良い感じでコンクリートブロックが破壊されていく。あれを粉々に壊せるということは、かなりの威力だ。
次は両肩にある砲門の攻撃らしい。
スマートメタルは「レヴォリューターでなくても魔物と戦える」というのがコンセプトだと聞いたことがある。つまり、ダンジョン内での運用が考えられている。
ダンジョン内では爆発の威力が減衰することは有名だ。レヴォリューターの特殊能力以外の爆発は、あまり役に立たない。
だから、内燃機関のエンジンや爆発力を利用した兵器は使いづらい。あの両肩の砲門は、そういった爆発力を使った武器ではないらしい。
自衛隊のほうでそういった武器は色々考えられているらしい。ただ、どうしても小型化がネックになる。そこでスマートメタルのような兵器があれば、兵器の小型化にある程度目を瞑れるわけだ。
砲門から射出されたのは、金属の弾。散弾のように数十の金属弾だ。遠く離れていても少しは聞こえてきそうなものだけど、射出音がない。
「あれは空気を圧縮して、射出しているんだ」
ヨリミツにそのことを聞いたら、こう返ってきた。爆発が減衰するダンジョン内の運用が基本だから、爆発を伴う武器はないらしい。
その後も実験は続いた。かなり激しい動きをしている。戦闘を想定したものだから、当然かもしれない。
一時間ほどの実験が行われ、戻って機体を技術者たちが解体していく。特に異常はないらしい。
前回の時に駆動部や可動部に発熱が見られたけど、それも改善されているらしい。
僕、ヨリミツ、安住教授、牛島三佐、倉橋一尉、大場三尉、三橋主任ら技術者が会議室に入った。
安住教授から今回の試験は成功だと話があって、次に倉橋一尉が操縦性などの話をした。
稼働時間も一時間を超えるものなので、要求をクリアしている。今後は自衛隊が採用の検討に入るらしい。
「自動車と共有できる部品は、できるだけ共有してもらいたい。メンテナンス性も重要な採用要件です」
牛島三佐の要求は僕にも理解ができるものだ。でも、僕がここに居る意味が分からない。結晶を供給はするけど、このような話を聞く立場にないと思うんだけど。
「今度は戦闘に特化した試作機を製造してもらいたい」
「現状、予算の面において、まったくの新型を製造するのは困難です」
安住教授の説明に、牛島三佐は自信ありげに予算は取ると言った。そんなに簡単に予算がつくものなのか、僕には分からない。でも、予算を取ると言うのだから、動くことになるんだろう。
今回の試作機は、あくまでも稼働試験用のもの。戦闘を想定したものではない。改善点は多いと思うけどその試験機が良いものであれば、本格的に量産化の話になっていくらしい。
「当方の希望はパイロットの安全性が最優先になります。攻撃を受けた時の安全性についても、検証しなければならないでしょう」
そのためには、いくつものボディを作らないといけない。それこそ膨大な研究費が必要になると三橋主任が主張した。装甲の材料は自動車産業のものを流用できないだろうとも。
装甲と武装によって重量が増える。これは避けられないが、稼働時間は最低でも一時間をキープしなければいけないらしい。
そんな感じで話が進んで自衛隊は予算を確保し、安住教授のチームは指向性重力制御システムの小型化と稼働時間の確保、オカザキ自動車はパイロットの安全性と武器を装備できる機体の開発。
そして、僕はポツーン。あ、声がかかった。
「スマートメタルを開発・製造する会社を立ち上げるので、カカミ君には役員待遇で参加してほしいんだ。どうかな?」
「へ?」
安住教授は何を言っているのかな?
「大学側とも相談したんだけど、さすがに大学で兵器開発をするのはマズいという話になったんだよ。それで、スマートメタルの開発と生産を手掛ける会社を興すことになったんだ」
「話の内容は理解しますが、なんで僕が役員なんですか?」
安住教授の話では、僕が居てこそ高エネルギーの結晶を得られる。エネルギー量はかなり下がるが、生命結晶は魔石で代用ができる。でも、重力結晶は僕しか作れない。だから、僕を好待遇で囲っておきたいと、ぶっちゃけた。
「そんなにぶっちゃけなくても……」
「私は政治家でも経営者でもない。今のうちに本音を知っておいて欲しくてね」
技術的には実用段階に移りつつあるので、一番のネックは重力結晶の供給らしい。そこで僕が役員になれば重力結晶の供給が安定するし、指向性重力制御システムなどの重要な部分の開発に関する障害がなくなるということらしい。
僕に拒否権はあるけど、できれば役員として会社の立ち上げに関わってほしいと頭を下げられてしまった。どうしたものかな。
「カカミ君に社長をしろとは言わない。今まで通り、シーカーをしてもらって構わない。我々が望むのは、週に一、二度出社して重力結晶と生命結晶を供給してほしんだ」
安住教授は大学を辞めてその会社の社長になると言う。
今回ぶっちゃけたのは、これから経営者になるので今後は本音を言えなくなるからだと言う。
安住教授の後釜は、異例中の異例でヨリミツが教授になるらしい。
僕と同じ年のヨリミツが教授になれるのかと思ったけど、指向性重力制御システムの論文が認められて博士号を得られるので、教授になれるらしい。
この国の教育機関は、外圧を受けてかなり規制緩和されているらしい。
まあ、そこら辺は僕がとやかく言うことじゃないのでいいんだけど、問題は僕が会社の役員になるかどうかというところ。
僕がこの話を断ると、会社設立の話もなかったことになる。そうなるとヨリミツが教授になる話もなくなるわけで、断りにくい条件をつけられてしまった。
「僕に経営なんてできませんからね」
「構わない。経営はこちらで人材を用意するから」
「本当に重力結晶と生命結晶の供給だけですよ」
「そうか、引き受けてくれるか! 助かるよ」
大学教授のほうが権威とかあると思うんだけど、なんで安住教授は大学を辞めるのかな? まさかヨリミツにその座を奪われた? うーん、ヨリミツは研究バカだから教授とかには興味ないと思ったんだけどな……。
すぐに会社を登記するらしい。その時は、オカザキ自動車から三橋主任が、出向という形で開発担当の役員になると聞いた。
この時の僕は、オカザキ自動車の子会社のようなものだと思っていた。それが違うのだと知るのは、会社ができて役員になってからのこと。
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