第6話

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 006_『植物操作』の戦い方

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 ミドリさんと共にダンジョンに入った。彼女はいつものようにマントのフードを深々と被って顔を隠している。

 多分、何度か嫌な目に合ったんだと思う。


 僕は『魔眼』を発動させながら、彼女と並んでダンジョンの中を進んだ。残念なことに『魔眼』を発動させていると、彼女も力場の塊にしか見えない。


 最初に遭遇したのはダブルヘッドラビット。

 僕はショートソードを抜いて、一気にダブルヘッドラビットとの距離を詰めた。


 先手は僕が取った。ショートソードはダブルヘッドラビットの胴体を深々と切った。そのおかげでダブルヘッドラビットの動きはかなり悪い。

 ダブルヘッドラビットの攻撃を躱しながらカウンターで攻撃を繰り返すと、もうすぐ息絶えるくらいまで弱った。そこでショートソードを振るタイミングで『結晶』を発動させると、ダブルヘッドラビットは動かなくなった。


「凄いです。全然危なげなかったです!」

「ダブルヘッドラビットとは嫌というほど戦ってきたから、戦いのコツは掴んでいるつもりだよ」


 ダブルヘッドラビットは動きが速いけど、攻撃力はそこまで高くない。だから、動きをしっかり見てカウンターを入れれば、普通に攻撃するよりも大きなダメージが与えられる。

 もっとも、このコツを掴んだのは、つい最近なんだけど(汗)


「今度はミドリさんの戦い方を見せてくれるかな」

「はい。分かりました」


 可愛らしく胸の前で拳を作るミドリさん。そんなミドリさんが戦うことになったのは、ゲッコウフロッグ。

 五〇センチほどの体からは、五メートルほどの舌が伸びてきて人間を拘束してしまう。だから、五メートル以内に入るのは、かなり危険だ。


「僕がゲッコウフロッグを引きつけるから、拘束してくれるかな」

「分かりました」


 僕は長い舌を警戒しつつ、ゲッコウフロッグに近づいて切りつけた。

 これでゲッコウフロッグの敵対心は僕に固定された。ミドリさんが視界に入っても僕を狙う。


 矢が放たれるようにゲッコウフロッグの舌が伸びてきた。それをショートソードで受け流すと絡みつかれてしまうので、回り込んで舌をやり過ごす。

 ゲッコウフロッグを同じ場所に固定するのはなかなか難しかったが、三〇秒程でゲッコウフロッグの下の地面から芽がいくつか生えてきた。その芽はすくすく育ってゲッコウフロッグに絡みついた。

 生えるまでは時間かかるようだけど、生えてしまったらかなり成長が早い。


「口をふさぐようにできるかな」

「やってみます」


 蔦はミドリさんがコントロールできるみたいだ。蔦がゲッコウフロッグの体の自由を奪っていき、口を塞ぐように巻き付いた。


「うわー、これ凄いね。こうなったら、動けないよ」


 ゲッコウフロッグは動こうともがいているが、まったく動けない。そのゲッコウフロッグにショートソードを突き刺して倒すと、ゲッコウフロッグが消えると同時に蔦が枯れ始めた。


「この蔦はかなりの強度があるのかな」

「私の『SFF』に比例して強度は上がります」


 一瞬で命を狩る僕の『結晶』とは相性が悪いけど、魔物を拘束できる『植物操作』の蔦は絶対に使える。

 さらに、今僕が感じたことができれば、ミドリさんは容姿ではなく実力で人気になると思う。


「蔦を生やすのは地面じゃないとできないのかな?」

「どういう意味ですか?」

「たとえば、魔物から蔦を生やすことはできない?」

「……やったことがないのですが、多分できると思います」

「じゃあ、次は魔物から蔦を生やしてくれるかな」

「はい」


 次の魔物はダブルヘッドラビットだった。僕が一気に近づいて前足を切りつける。これで少しは動きが遅くなる。

 ダブルヘッドラビットをその場に固定するのはかなり苦労した。だけど、三〇秒程でダブルヘッドラビットの体から芽が生えてきて、それがどんどん成長して体に巻き付いていく。

 僕はその光景を『魔眼』を通して見ていた。やっぱり僕が考えていた通りだ。

 僕は蔦に拘束されたダブルヘッドラビットから距離を取った。


「とどめを刺さないのですか?」

「このまま見ていて」


 ミドリさんは不思議そうな顔をしていたが、僕には分かる。あの蔦は魔物の生命力を奪っているんだ。

 最初に蔦を見た時、地面の力場が薄くなっていったので、蔦に力が吸い上げられたんだと思った。だから植物が生える対象を地面から魔物に変えれば、魔物の生命力を奪いながら蔦が成長するんじゃないかと思ったんだ。


 魔物がもがけばもがくほど、蔦は引きちぎられないように生命力を吸い上げて強度を増す。

 自分の生命力で育った蔦が自分を拘束するのだから、考えたらメチャクチャ恐ろしい攻撃だ。

 しばらく見ていたら、ダブルヘッドラビットは力尽きて動かなくなった。


「え?」


 ダブルヘッドラビットが消えてなくなると、ミドリさんはとても驚いた。


「蔦は魔物の生命力を吸って育つようだね」

「私、こんなこと考えもしませんでした。リオンさんは賢者です!」

「いや、賢者ではないから」


 さすがに褒めすぎ。


「次は魔物が動いていても蔦が生えるか実験しようか」

「お願いします!」


 実験は成功して、動いている魔物でも蔦は育った。つまり、ミドリさんは最初に『植物操作』を発動さえすれば、あとは時間を稼ぐだけで魔物を倒せるということ。


「芽が生えるまで三〇秒、その後蔦が拘束して魔物が動かなくなるまでに一分。さらに二分で魔物の生命力は尽きる。つまり、三分三〇秒で戦闘は終わるってことだね」


 僕がシーカーになった頃は一時間以上かかった。多分、他の初心者でもソロだと三〇分はかかると思う。それなのに、ミドリさんは三分三〇秒で終わる。


「チートだ。ミドリさん。『植物操作』はチートだよ!」

「チートですか? えーっと、よく分かりませんが、嬉しいです!」


 そこから『植物操作』の戦いに慣れるように、僕はできるだけ手を出さずに魔物を狩った。

 ミドリさんはどんどん魔物を狩って、戦い方を自分のものにしていった。


「もう大丈夫だね。あとはできるだけ体力をつけるようにすれば、いいと思うよ」

「毎日ランニングして、体力をつけます。本当にありがとうございます!」


 シーカー協会で魔石を換金して着替えた僕たちは、近くのフタバに入ってコーヒーを飲みながら、課題を話し合った。


「あの、もし良かったら、私をリオンさんのパーティーメンバーにしてもらえませんか」

「僕とパーティーを?」

「はい。どうでしょうか?」


 この申し出は嬉しいけど、ミドリさんと僕の特殊能力は相性が悪い。それに、僕はしばらく一人でシーカーを続けていこうと思っている。

 今まで誰にも相手にされなかった負け惜しみとかではなく、一人でどこまでやれるのか試してみたいんだ。


「ごめん。行けるところまで一人でチャレンジしたいと思っているんだ」

「そうなのですね……」


 僕も男なのでミドリさんのような可愛い女の子とパーティーを組めたら嬉しい。

 でも、シーカーを続けるためには、ここで妥協してパーティーを組んだらいけないと思ったんだ。

 もっと力をつけた時に誘われたら、ホイホイついていっちゃうかもしれないけど(笑)


 翌日、僕はダンジョンに入った。ミドリさんは一緒ではない。ミドリさんは『植物操作』の使い方をもっと研究するため、僕とは別行動している。


 今日は第二エリアに向かった。他のシーカーが居るとなかなか狩りができないので、あまりシーカーが居ない場所に向かうことにした。


 岩の町に入った僕は地図を片手に人気のない場所を進んだ。

 第一エリアでも見られる魔物を狩りながら進んで、初めて見る魔物を発見した。


 ホワイトモンキーという白い体毛をして、真っ赤な顔とお尻のサルの魔物だ。

 建物の上や中から石を投げつけてくるスナイパーと言われる魔物で、かなり遠いところからも狙われるので危険な魔物だ。


 この清州ダンジョンで活動するシーカーの最初の関門は、一人で魔物を倒すこと。その次の関門が、このスナイパーと言われるホワイトモンキーだ。

 いきなり石で攻撃されて、当たり所が悪くて即死するシーカーも多い。


 でも、僕には『魔眼』がある。遠くの建物の中に居ても、ホワイトモンキーの力場を見ることができる僕への奇襲は簡単に成功しない。

 僕も警戒しながら進まなければいけないけど、警戒すれば危険は少ない魔物なんだ。


 そのホワイトモンキーは、まだ僕のことに気づいていない。『時空操作』でホワイトモンキーの後方に移動して、ショートソードで切りつける。

 いきなり現れた僕に背中を切られたホワイトモンキーは、不快な悲鳴をあげたけどすぐに僕に飛びかかってきた。

 ホワイトモンキーを躱しながら、ショートソードで首を切り裂いた。そこで『結晶』を発動して、命を奪う。


 カウンターを狙っていたけど、上手いこといった。初めて戦ったけど、接近戦はそれほど苦労しないようだ。

 しかし、転移ゲートで後方に出現して攻撃する。なかなか素晴らしい戦術だと、自画自賛だ。この華麗な勝利を、ちょっと前の僕に見せてやりたいよ。


 

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