第5話 ミドリの特殊能力
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005_ミドリの特殊能力
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昇級試験を申請する前に、『魔眼』の世界に慣れておこうと思ってダンジョンの第一エリアを歩き回った。
シーカーの反応、ダブルヘッドラビットの反応、ゲッコウフロッグの反応、足長クモの反応、それぞれが特徴的で判別は難しくない。
そして、シーカーや魔物が動いた後には、力場の残滓というべき跡が残る。それを辿れば、シーカーや魔物へ行きつけるのは大きい。
さて、特殊能力を使わない僕の戦闘力はというと、確実に上がっている。
ショートソードということもあるけど、短剣よりも深い傷が与えられる。それは僕の『SFF』が三倍に上がったことが大きいと思う。
ショートソードは短剣よりも魔物に深い傷をつけた。おかげで、これまで三〇分くらいかかっていた戦闘が、一〇分もかからなかったのだ。
ショートソードの戦いに慣れれば、時間はもう少し短くなると思う。でも、魔物とショートソードで戦うと、『結晶』を使う場面が少なくなるなと思った。かなり迷った末、最初はショートソードで戦って倒せそうなタイミングで『結晶』を使おうと思った。
最初は魔物の弱り具合が分からずにショートソードで倒してしまうことが多かったけど、よく見ると魔物の動きが徐々に精彩を欠くものになっていくのが分かった。
ギリギリ死ぬ寸前のタイミングを見計らって『結晶』を発動させれば、ショートソードの戦いにも慣れて結晶も集まる。一石二鳥だ。
そういった戦いを繰り返したので、魔石は二五個しか集まらなかった。
戦闘に時間がかかったのが原因だけど、力場残滓を追って魔物を見つけるので索敵は時間が短縮されたと思う。
考えたらこれまで魔物の動きを予測したり、動きの精彩さを観察することはなかった。
今まではとにかく我武者羅に短剣を振っていたけど、そういったところが成長しなかった原因なのかもしれないと反省。
魔物の動きが予測できると、その動きに合わせてカウンターを入れられる。そうすると、大きなダメージを与えられるのが分かった。
タイミングの取りかたがまだまだだけど、経験を積めば僕でもなんとか剣を使えそうだ。
シーカー協会で魔石を換金し、今日は五万円になった。これまで日給一万円がやっとだったのに、最近はその数倍を得られる。
シーカーは自営業なので、年金や健康保険、ダンジョンに通うための交通費など支払いが大変なんだ。でも、この調子ならそういったことに頭を悩ませることはなくなると思う。
帰ろうと外に出たらミドリさんとばったり出会った。
ミドリさんはマントのフードを深々と被っていたので誰だか分からなかったけど、声をかけてくれたのでミドリさんだと分かった。
「今、お帰りですか?」
「はい。今、魔石を換金してきたので、これから帰るところです」
「私も今から換金するところなのです。もしよかったらこの後に、食事でもどうですか?」
ミドリさんのような可愛い子に誘われて、ノーと言う人は居るのかな?
少なくとも僕はイエスです。そう答えて、彼女の換金と着替えを待っていると、何気なく空を見上げた。
最近、空を見上げることなんてなかった。いつも下を見ていた気がする。少しは自分に自信が持てたのかもしれない。
「お待たせしました」
ぼーっと空を見上げていたら、ミドリさんがやってきた。
今日のミドリさんはシックな服装で、なんだか大人っぽく見えた。彼女のように可愛いと、何を着ても似合うんだね。
「何を食べます?」
「えーっと、ミドリさんは何がいいですか?」
「私ですか? 私はリオンさんが食べたい物がいいです」
そんなこと言われても、僕はあまり外食しなかったから分からないよ。
外食するとお金がかかるので、家で自炊したほうが安いんだよね。
「僕、あまり外食しないから、よく分からないんだ。ミドリさんが決めてもらえるかな」
「そうなのですか? うーん……それなら、居酒屋に行ってみたいです。私、居酒屋に入ったことないので」
僕はお酒を飲まないので、居酒屋は入ったことがない。でも、彼女が行きたいと言うのなら、一度は行ってみてもいいかな。
「あ、リオンさんはお酒を飲まないのでしたね。ごめんなさい」
「いいよ。お酒を飲まなくても焼き鳥とかはあるから」
居酒屋と言っても僕ではどこが美味しいとか分からないので、駅前にある居酒屋に入ることにした。
掘り炬燵のように足を下に入れられるようなテーブルに、向き合って座る。
改めて見ると、本当に可愛い。
「へー、こんなに色々なものがあるんだね」
焼き鳥でも塩とタレがあるし、部位によって色々ある。
店員さんが最初に飲み物を聞いてきたので、彼女はチューハイで僕はウーロン茶を頼んだ。
「居酒屋ってこんな感じなんですね。初めて来たので新鮮な感じです」
「僕もだよ」
会話が続かない。どうしたらいいのかな?
そう思っていると、店員さんが飲み物を持ってきてくれたので、串のセットとサラダを頼んだ。
「乾杯しようか」
「何に乾杯します?」
何に乾杯しようかな……。そうだ!
「僕とミドリさんの出逢いに乾杯しようか」
「はい!」
グラスをカチンと合わせ、乾杯した。
しかし、こんな可愛い子と出逢えたし、『結晶』も使えるようになった。最近はいいことばかりで、どこかに落とし穴がないか勘ぐってしまうよ。
「チューハイってこんな感じなんですね」
どんな感じか分からないけど、ミドリさんの笑みを見る限りでは不味いということはなさそうで良かった。
ミドリさんがなんでシーカーのような危険な仕事をしているのか聞いてみた。
「誰かのためになるかなと思って、私はシーカーになりました」
「誰かのため?」
僕は就職浪人になるなら、シーカーをしようという考えでこの世界に入った。とにかく、日々の生活でアップアップだったので、誰かのためとか考えたことはなかった。
「誰かのためと言うなら、別にシーカーでなくても良かったんじゃないかな?」
「私もそう思わないわけではありません。でも、二〇年前のあの惨事を知ってしまったら、シーカーになるしかないと思ったのです」
二〇年前の惨事というのは、魔物がダンジョンから出てきて地上で暴れまわった事件のことだろう。
僕がまだ幼い頃の話なので歴史の授業やテレビでしか知らないその事件は、『百鬼夜行』と言われるものだ。
外国では『スタンピード』と言われている『百鬼夜行』が、二〇年前に発生した。その被害は大変なもので、二万人もの人が魔物に殺されてしまったんだ。
他の国でも発生しているので地球規模で考えれば、毎年の頻度で発生していると専門家たちは言っている。
僕は他人事だと気にもしていないことを、ミドリさんは気にしてシーカーになったのか。凄いな。僕ではマネできないよ。
「凄いね。僕ではそんな高尚なことを考えもしなかったよ」
「高尚だなんて、大げさです。それに、考え方は人それぞれですから、私の考えを誰かに押しつけるつもりもありません」
ミドリさんの考えは素晴らしい。でも、ミドリさんの戦闘力はどうなのか?
先日の怪我のことがあるので、あまり危ないことはしてほしくない。
「立ち入ったことを聞うんだけど……」
「なんでしょうか?」
「ミドリさんの『SFF』と特殊能力のことを聞いてもいいかな? あ、答えたくなければ、答えなくてもいいんだけど」
シーカー同士でも『SFF』と特殊能力のことを聞くのは、暗黙のルールで禁止されている。
ただし、パーティーを組む前提になると話は別。『SFF』と特殊能力のことを知らずにパーティーは組めないからね。
「いえ、大丈夫です。シーカー登録した時の私の『SFF』は四〇でした。今は少し多くなっているかもしれません」
『SFF』の初期値が四〇ポイントは優秀な部類だと思う。僕なんて一三ポイントで三分の一くらいだったんだ。
「特殊能力は『植物操作』です」
『植物操作』というのは初めて聞く特殊能力だ。どういったものだんろうか?
「『植物操作』はそのままの意味で、植物を操る特殊能力なんです」
「その説明だと、戦闘より農業のほうが向いているような気がするんだけど……」
ミドリさんは影のある笑みを浮かべた。
「その通りなんです。でも、魔物にも有効なんですよ」
「たとえば?」
「植物の蔦を魔物に絡ませて、動きを封じることができます」
「へー、それはいいね。他にもあるの?」
「えーっと……今はそれくらいしか……」
それだけでも魔物の動きを封じることができれば、それは大きなアドバンテージになると思う。それに『SFF』も四〇ポイントあるんだったら、剣の攻撃もそこそこ強いはずだから、効率よく魔物を狩れると思う。
店員さんが頼んだものを持って来てくれた。
「美味しそうですね」
僕は塩の焼き鳥、ミドリさんはタレの焼き鳥を取った。
二人で同時に食べた。サッパリしていて、香ばしくて美味しい。ミドリさんも美味しいようで、頬を緩ませている。
「しかし、植物で魔物の動きを封じて攻撃すれば、かなり安全に狩りができるね」
「そうでもないのです」
「どうして?」
「蔦を生やすのに、三〇秒くらいかかるのです。ですから、それ以前に攻撃されると」
ミドリさんは苦笑して、チューハイを飲んだ。
「でも、『SFF』が四〇ポイントもあれば、第一エリアの魔物くらいなら普通に戦えるよ。それに、パーティーを組めば、『植物操作』の真価を発揮すると思うよ」
「私もパーティーを組んでと思ったのですが」
言い淀むにはそれなりの理由があると思う。
シーカーは危険な職業なので、女性の比率が低いんだ。そうすると、どうしても男性とパーティーを組まざるを得ない。そうなると、どうしてもついて回る問題が、男女関係なんだよね。
男性シーカーは女性シーカーと、あわよくばと思うわけ。女性シーカーの中にも、強かったり将来有望な男性シーカーを狙う人は居るけどね。
ミドリさんくらい可愛い子なら、男性シーカーたちが放っておかないよね。
「リオンさんはソロですよね? パーティーは組まないのですか?」
「僕? 僕は以前パーティーを組んでいたけど、役に立たないから追放されたからね」
「でも、リオンさんは強いじゃないですか」
「二年以上一〇級シーカーをしている僕が強いとは、誰も思わないよ」
「二年も?」
ミドリさんの顔に、困惑の色が見える。
「最近、やっと『SFF』が九級の昇級試験の基準を越えたんだ」
「そうなんですね」
どう言えばいいか分からないと言った感じだ。
「あの、今度一緒にダンジョンに入って、狩のしかたを教えてもらえませんか?」
「僕が? 万年一〇級シーカーに学ぶことなんてないと思うよ」
ミドリさんはそれでもと言うので、明後日一緒にダンジョンに入ることにした。
しかし、僕の戦い方は独特だから、参考にはならないと思うけど。
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