第74話 報酬
■■■■■■■■■■
074_報酬
■■■■■■■■■■
僕は稲沢ダンジョンを出て、清州支部に入った。
すぐに大水支部長に面会を求め、支部長室へ入る許可を得た。
「は?」
僕の後ろから支部長室に入ったルカの顔を見た大水支部長が呆けた。
「お、お前、イッシキ・ルカじゃないか!? なんでここにいるんだ!? シーカーを辞めるのか!?」
矢継ぎ早に質問する大水支部長のテンパりようが、とても愉快だ。
「呪いは解けた。鑑定を頼む」
「は?」
「鑑定だ」
「お、おう……カカミ君が何かしたんだな……分かった……」
大水支部長は職員を呼び、ルカはその職員と共に部屋を出て行った。
支部長室に残った僕は、ルカがサインした物資の受領書を大水支部長に差し出した。
「依頼完了です」
「まさかそれで済ます気はないよな?」
「もちろんですよ。ルカから預かった木箱を出しますよ」
「違うっ!」
ですよね~。
「僕の『結晶』の効果です。『結晶』は力場を結晶化させるものですから、呪いの力場を結晶にしたのです」
「そんなことが……それもそうか……あいつらの特殊能力もカカミ君だからな……」
大水支部長はブツブツと呟きながら百面相をした。
「教えてほしいんだが……」
「なんでしょうか?」
「カカミ君は特殊能力も結晶化できる。たとえばだが、レヴォリューターから特殊能力を奪うことができると考えていいのかな?」
いつかはそのことに触れられると思っていたから覚悟はしていた。
「秘密にしてもらえますか?」
こう言っているのが答えになっていると思うけど、念は押しておかないとね。
「副協会長にだけ報告させてもらえないだろうか。あの人は信用できるから安心してほしい」
シーカー協会の副協会長は僕でも知っている伝説的な人だ。
元特級シーカー、
この国の人なら、誰もが知っている名前だ。
「分かりました。副協会長だけですよ」
「ああ、約束する」
「レヴォリューターの特殊能力を封印することは、できます」
「そうか……。しつこいようだが、このことは副協会長以外には洩らさない。安心してくれ」
大水支部長が真面目な顔で再度約束してくれた。
僕は大水支部長を信じていますよ。
それから場所を倉庫に移し、ルカから預かった木箱を納品した。
チェックが行われていいるその際中にルカがやって来た。
鑑定で呪いが解けたことが証明され、『SFF』の低下による倦怠感もないと、僕の手を握って報告した。
「これでダンジョン暮らしともおさらば! 本当にありがとう!」
「良かったですね」
ルカはプレハブの家で二年暮らしていたそうだ。ダンジョン内で二年も過ごすなんて、どんな苦行なのか。僕なら気が狂ってしまいそうだ。
その二年の間に魔石をエネルギー源にした発電機とか、水の浄化装置とか色々持ち込んで生活環境を整えたルカのバイタリティに脱帽だよ。
「今、ルカがダンジョンの中で集めた魔石とアイテムの納品をしていたところだよ」
「それよりも報酬の話をしよう!」
「報酬?」
「私の呪いを解いてくれたんだから、報酬を渡すのは当然だ」
「いや、僕の好奇心でやっただけだから」
「そうはいかない!」
ルカが凄い剣幕で言うものだから、僕は頷くしかなかった。
「支部長。魔石とアイテムの鑑定結果が出ました」
職員の方が大水支部長に鑑定結果が記載された紙を渡した。
「イッシキ君。今回の納品の査定だ。確認してくれるかな」
いつもはそのままルカの口座に入金されるらしいけど、今回は本人が目の前にいるからね。
「はい」
ルカはその明細に目を通さず僕に差し出してきた。思わず受け取ってしまったけど、これどうすればいいの?
「えーっと?」
「報酬としてもらって」
「いや、僕は本当に―――」
「シーカーとしての人生が終わるかどうかの瀬戸際だった。それでも足りない。もっと渡す」
「いやいやいや、もう十分ですから!」
「恩は絶対に返す。一生をかけて返す」
重っ!
「支部長。そういうことで」
「お、おう……分かった」
支部長もいきなりのことで面食らっているようだ。
「まあ、いいんじゃないか。特にレヴォリューションブックはカカミ君に必要なものだろ」
「え?」
「明細を見てみな」
「………」
大水支部長に促されて明細に目を向ける。
「っ!?」
「うちで買い取ってもいいが、面倒だからそのまま持ち帰るといい」
僕はそこに記載されているレヴォリューションブックが強化する特殊能力に目が釘付けになった。
「どういうこと?」
「悪いが、カカミ君のことをイッシキ君に教えられない。知りたければ本人に聞いてくれ。ちなみに今ので所有権はカカミ君のものだと俺が認めるから、返せと言うなよ」
「そんなことは言わない!」
これ、本当にもらっていいのだろうか?
「あの、ルカ。これはもらえないよ」
「支部長も言った。所有権はリオンにある」
「その通りだ。それはカカミ君のものだ。これからもシーカーとして活躍を願っているぞ」
本当にそれでいいの!?
「リオンも男。潔くもらえ」
「そこ、男とか関係ないんですけど!」
「ははは。カカミ君、ここは諦めて受け取るんだな」
「大水支部長まで……」
明細は魔石だけで二億円近い。
しかも収納カバンの容量は一〇〇〇平方メートルで、時間経過が五分の一になるものだ。協会の買い取り額は一億五〇〇〇万円だけど、オークションに出せばもっと高値がつくと注意書きがある。
さてレヴォリューションブックだけど、対象の特殊能力は『結晶』。そう、僕の『結晶』が強化できるものだ。
まさかこんな形でお目にかかるとは思ってもいなかった。
ちなみに『結晶』のレヴォリューションブックの査定額は、一〇〇万円だった。『結晶』を持っているレヴォリューターが、今のところ僕しかいないから高額にならない。
僕としては一〇億でも二〇億でも出して購入したいものだけど僕以外に需要がないのと、こういったものは対応した特殊能力を持ったレヴォリューターにしか売れないことになっているからだね。
「分かりました。これはありがたくいただいておきます。ルカ。本当にありがとう」
ルカは絶対に引かないと思うから、僕が折れることにした。
それにこのレヴォリューションブックは喉から手が出るほど欲しいものだ。
今後ルカが困ったことがあれば、できる限りのことをしよう。
「魔石は買い取りでいいな?」
「はい。魔石は全部買い取ってください。収納カバンとレヴォリューションブックは持って帰ります」
「了解だ」
大水支部長に魔石だけの買い取りをお願いし、収納カバンとレヴォリューションブックを受け取る。
『時空操作』の時も手が震えたけど、『結晶』は僕をレヴォリューターにしてくれた特殊能力だ。感慨深い以外の言葉が浮かばない。
・
・
・
今日は非常に面白い日だった。
クランハウスの自室のソファーに背中を預けて、今日のことを振り返る。
ルカの呪いは結晶化できたし、ルカがはダンジョンから出られることができた。『結晶』で呪いを解除というか回収できたのは大きい。もしクランメンバーが呪いを受けても、『結晶』で対処できる。
さらに僕の『結晶』用のレヴォリューションブックまで手に入れた。まさかルカが手に入れたレヴォリューションブックが『結晶』用だとは思わなかったよ。
協会への貢献度が上がったなんて目じゃない。このレヴォリューションブックが今日一番の収穫だ!
「ずいぶんと嬉しそうだな」
「……なんでルカがいるのかな?」
いや、僕が部屋に入れたんだけどさ……。
「これから世話になるのだ。皆に挨拶しておかないとな」
そう、ルカは僕たちのクランに入ると言っている。
僕への恩返しをすると言って、クランに入るらしい。
「まさかあのイッシキ・ルカさんが、このクランに入るとは……」
アオイさんがとても嬉しそうだ。
ルカはシーカー史上最速で二級になった才女だから、とても有名人なんだよね。
「これでクラン【時空の彼方】も、一般的なクランと同じように規定の人員に到達しましたね!」
それが嬉しいのか!?
「皆の意見を聞かないと、なんとも言えないけどね」
「何を言っているのですか。クランリーダーのリオンさんがいいと言えば、いいのです!」
「暴君!?」
「いえいえ。暴君ではなく、皆がリオンさんを信頼しているのです」
アオイさんのスマホが鳴り、席を立って部屋の隅でスマホに出た。
「お姉ちゃんたちが帰ってきました。ここへ来るように言いましたので」
すぐにミドリさんたちが入ってきた。
なんだか嬉しそうだ。いいことでもあったのかな?
「来客でしたか」
ミドリさんがルカを見て立ち止まった。
「こちらはイッシキ・ルカさんです。今日から【時空の彼方】に加入することになったの」
アオイさんがすかさず紹介する。
「イッシキ・ルカだ。二級シーカーだが、今は三級程度の力しかない。よろしく」
「「「えっ!?」」」
ミドリさん、アズサさん、アサミさんが固まった。
「リオンさんがナンパしてきました」
「ちょ、アオイさん!」
「ナンパされてついてきた」
「ルカまで!」
冗談はよしてよね。勘違いされることはないと思うけどさ。
「イッシキさんって、あのイッシキさんですか!?」
アサミが珍しく興奮している。
「どのイッシキかは知らないが、イッシキだ」
「史上最短で二級シーカーになったイッシキさんですよね!?」
「そんなこともあったか」
アサミさんがルカに握手を求める。それが切欠になって、皆が握手。僕もしてもらおうかな……。
三人もルカの名前を知っていたようで、クランへの加入に異論はなかった。
明日はフウコさんも加入する(可能性がある)けど、人が少しずつでも増えていくのはクランとしていいことだ。
+・+・+・+・+・+・+・+・+・+
フォローよろしくです!
応援💛もください。
★で称えてほしいです!
+・+・+・+・+・+・+・+・+・+
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます