第41話 新年なのに
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041_新年なのに
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某歌合戦を見てから近くのお寺で除夜の鐘をついた。以前は毎年こうやって年を越していた。
「明けましておめでとう」
「「「「「明けましておめでとうございます」」」」」
家族全員が、お爺ちゃんに新年の挨拶する。こういうところは、昔ながらの家なんだと思う。
明後日、いやもう明日か。になると、親戚が一堂に会して大宴会がある。最近の僕は不参加だったけど、今回は参加する。あの大宴会、僕は苦手なんだよね。親戚のおじさんたちは、すぐにお酒を勧めてくるんだ。僕が飲めないと言っても、酔っぱらっているから何度も同じやり取りになる。
「お兄ちゃん、はい」
挨拶が終わって寝ようかと思ったら、妹の
「握手か?」
「可愛い妹に、お年玉」
可愛い妹は、お年玉を催促しないと思うんだけどね。
だけど、それくらい分かっているからちゃんと用意してある。
「三年分ね」
そう言われて、ポケットからポチ袋を出そうとしていた手が止まった。三年分は考えていなかった。
「手持ちがなかったら、後からでも受けつけるからね」
可愛らしい笑みを浮かべる悪魔が居る。
僕は震える手で、ポチ袋を悪魔の手の平の上に置いた。
悪魔がポチ袋の中身を確認して、僕を見る。
「お兄ちゃん、どうしちゃったの? なんか悪いことでもした?」
「酷い言いがかりだな!」
「だって、五枚よ。お兄ちゃんにそんな大金が出せるとは思えないよ」
そのイメージはもう捨ててくれていいんだからね。僕は躍進したんだ。
「お母さぁぁぁん。お兄ちゃんが悪事に手を染めちゃったよぉぉぉ」
「おい、アイカ! 返せ、お前にはもうあげない!」
「お母さぁぁぁん、お兄ちゃんがカツアゲするよぉぉぉ」
「二人ともうるさい! 今、何時だと思ってるのよ!」
「「はい!」」
そう言うお母さんの声が一番大きかった。
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久しぶりに親族に会って一週間の休暇を終えた僕は、一月六日にマンションに帰った。大宴会は相変わらずだった。特に今年は三年ぶりということもあって、ウザ絡みが酷かった。
まあ、それはいいんだ。終わったことだから……。
「……で、なんで母さんとアイカが居るのかな?」
「息子が住んでいるところを確認するのは、親として常識よ。意外と綺麗にしているようね」
はいはい。どうぞ、好きに見てください。
「お兄ちゃん、なんでこんないいところに住んでるの?」
「これでもそこそこ稼いでいるんだぞ」
「それじゃあ、大学卒業したら私にもマンション買ってよ」
「いや、これ賃貸だし」
「じゃあ、私にも借りてよ」
「それ以前に、父さんを説得できるのか? 一人暮らしなんか、絶対に許さないだろ」
「お父さんは過保護なのよ。今どき、一人暮らしなんて珍しくもないんだから」
アイカが一人暮らしをしたいと言っているけど、父さんは反対している。僕の時は特に何も言わなかったけど、娘は別ということなんだって。
「そうだ! 私もここに住めばいいのよ! それなら、お父さんも許してくれるわよ」
「いや、僕が嫌だから」
「なんでよ!? こんなに可愛い妹が一緒に住んでくれるんだよ」
だって、うるさいじゃん。僕の静かな生活が騒々しくなるのは、勘弁してほしい。などと言えないので、父さんが寂しがると理由をつけておく。
「あれ、これ女物のカップじゃない?」
「あ、本当だ。お兄ちゃんが女の人を連れ込んでいいる!? 嘘だー」
二人は色々と物色して、アオイさん用のカップを見つけた。
「それは僕の秘書のカップだよ」
「「秘書!?」」
そんなに驚かなくてもいいのに。
「なんでお兄ちゃんに秘書なんか居るの? おかしいじゃない」
「そうね、シーカーで儲けているとしても、秘書というのはおかしいわね」
二人が僕に詰め寄ってきた。「吐け」と言う。
「いや、本当だって。これでもシーカー以外に、会社の役員をしているんだから」
「「はぁ?」」
安住製作所のことを二人に話して、社員証を見せた。
「これ、執行役とか書いてあるんだけど」
「見間違えじゃないかしら?」
アイカとお母さんが何度も目を擦っている。そういうのいいから。
騒々しい二人は、名古屋で買い物して帰ると言って出て行った。僕はやっと落ちつけると、ソファーに背を預けた。
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大水支部長から呼び出しがあった。明日からC級の知多ダンジョンへ行こうと思っていたので、その処理をするためにもシーカー協会清州支部に向かった。
久しぶりのシーカー協会は、なんだかお通夜のように静まり返っていた。まだお正月気分なら分かるけど、お通夜ってどういうこと? 僕を呼んだことと何か関係があるのだろうか?
二階の受付に向かい、新年の挨拶をして大水支部長に呼ばれたと言う。職員の案内で支部長室へ向かった。
支部長室に入るとソファーに促され、大水支部長と向き合って座る。職員が出してくれたコーヒーを一口飲んだ。
「わざわざすまなかったな、カカミ君」
「いえ、それでお話とは?」
大水支部長の表情は硬い。いつもとは何かが違うのだと、思った。
「カカミ君は隠し通路の発見率が高い。それは君の特殊能力故だろう」
こういう話の入りは、何を意味しているのだろうか? 僕の特殊能力のことが知りたいのか、それとも能力を使って何かをさせたいのか。この二つ以外に何かあるかな?
「たまたまですよ」
大水支部長が何を言いたいのかが分からないので、こう返事するしかない。
「実は、ダンジョンでシーカーが行方不明になっているんだ」
「?」
ダンジョン内でシーカーが行方不明になるのは、珍しい話ではない。それをわざわざ言うってことは、多くのシーカーが行方不明になっているということなのかな?
「枇杷島ダンジョンで四〇人近いシーカーが、この一カ月半の間に行方不明なんだ」
「一カ月半に四〇人も……多いですね」
「ああ、多い。多すぎる。だから、四級シーカーのパーティーを調査のために送ったが、そのパーティーも帰って来ない」
「四級パーティーがですか? E級の枇杷島ダンジョンで四級パーティーが行方不明になるなて、考えられないと思うのですが?」
仮にハグレが出たとしても、倒せないまでも撤退することはできるはずだ。
「その通りだ。そんな異常なことが、枇杷島ダンジョンで起きている」
「それで……僕にどうしろと?」
四級パーティーで対応できないことを、五級の僕に言うわけないよね?
「本部から三級シーカーが派遣されてくるが、その案内役を頼みたい。カカミ君は枇杷島ダンジョンのことをよく知っているだろ」
四級では対処できないから、三級を呼んだ。そこで枇杷島ダンジョンのことを良く知っているであろう僕を、案内役にと言うのは理解できる。
「三級ならこの清州支部にも居ると思いますが、なんで本部が三級シーカーを派遣するのですか」
「四級シーカーが行方不明になったと報告したら、本部からの派遣が決まった。こっちで対処すると言ったんだが、何か考えがあるようだ」
本部の考えか。一体なんだろう?
「受けてくれたらカカミ君の実績になる。どうだろうか?」
「正直なところを教えてほしいのですが」
「何かな?」
「その行方不明の原因は、何だと考えていますか?」
大水支部長は苦々しい表情で口を開いた。
「考えられることは、多くない。ダンジョン内で何かしらの異常が発生しているか……人的な要因だ」
「人的……ですか?」
「シーカーがシーカーを襲っている。ということだ」
大変な話になってしまったな……。枇杷島ダンジョンに限らず、ダンジョンの中は隠れるところが多い。
それを利用した犯罪が行われる可能性は皆無どころか、多いかもしれない。僕だって、ダンジョンの中で殺されかけたことがある。運が良かったから生きているけど、死んでいてもおかしくないことだった。
大水支部長はあくまでも可能性があると言って話を続けた。その話を聞けば聞くほどシーカーの仕業のような気がした。先入観を持ってはいけないけど、警戒しておかなければいけない。
尚、こういったシーカー協会からの依頼には、報酬が出る。
隠し通路を発見して報告しても報酬は出ない。隠し通路の発見はシーカー協会が依頼したことじゃないからだ。
そういったルールなのだから、受け入れてしまえば得に不満はない。嫌なら、報告しなければいい。でも、昇級したいなら実績になるから、報告するべきだ。
六級と五級、そして五級と四級、年収は数倍違ってくる。
宝箱を発見できても、いつも良いアイテムが手に入るとは限らない。呪われたアイテムだってある。そういったことを考えれば、実績を作っておくのはシーカーとして当然のことだ。
「それでは、第四エリアから第五エリアが怪しいのですね」
「行方不明になったシーカーたちが納品した魔石の実績を調査したが、第四エリアから第五エリアで活動していたシーカーが多いと分かったんだ」
第四エリアはオーク城、第五エリアはゴブリン城。オーク城には僕が発見した隠し通路もある。あそこにはオークキングが居たと思う。
共に僕には馴染みのあるエリアだ。
「分かりました。その依頼をお受けします」
「助かる。本部から派遣されてくる三級シーカーは、明日到着する。明日顔合わせして、明後日から調査開始だ。頼んだぞ」
「はい」
新年早々、大変な話になってしまった。でも、本当にシーカーが犯罪に手を染めているのなら、許せないことだ。
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