第45話

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 045_三バカの特殊能力

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 三バカを捕縛してシーカー協会に引き渡した。


「クソォォォォォォォッ!」

「覚えてろよぉぉぉぉぉぉっ!」

「俺たちは最強なんだぁぁぁぁぁっ」


 三バカが持っていた特殊能力は、それぞれ三つ。全部結晶にした。今の三人は特殊能力を一つも持っていない。

 特殊能力を持っていないということは、『SFF』はゼロになっているはずだ。

 今更だけど、『結晶』って凄く恐ろしい特殊能力だ。シーカーの希望を奪うことができるこの『結晶』は、簡単に人に使うものではないと思う。


 ミドリさんたちは全員無事だった。念のため病院に搬送されたけど、自分の足で歩いていたから大丈夫だと思う。

 心配なのは体ではなく、心のほうだ。三人ともとても憔悴していた。

 しばらくは休養し、今後もシーカーをするか考えると良いだろう。無理にシーカーをしなければいけないわけではないのだから。


「リオン君。ありがとう」


 ミドリさんたちのことを考えていたら、唐突にナナミさんから感謝された。


「僕は案内をしただけですから」

「私たちの動きが止まったのは、あのミツオの特殊能力だったはずだ。あれはとても厄介だった。だが、それを解除してくれたのは、君だろ?」

「……僕の特殊能力が、ミツオの特殊能力と相性が良かったようです」

「私たちはこれ以上詮索しないが、シーカー協会は君の特殊能力のことを詳しく聞くだろう」

「そうですか……そのつもりでいます」


 アテナの剣の六人から、何度も感謝の言葉を聞いた。六人は今回のことであのような特殊能力があるのだと再認識し、今後の糧にすると言っていた。


「あいつ、もっとボコってやりたかった」


 メリッサさんが拳をギリギリッと握る。

 下着を見られたのが、許せないようだ。


「あんたは見られただけなんだから、いいじゃない。私なんか舐められたのよ! あの舌を引き抜いてやりたいわ」


 アキナさんも血管をピクピクさせながら怒っている。


「舐められたくらいどうでもいい。私の絶対領域を見たやつのほうが許せない」

「舐められたくらいって、何よ!」

「舐められても何も減らない」

「あんたの白パンツだって、見られても減らないじゃない!」

「私のアイドルパラメーターが減る」

「わけの分からないこと言ってんじゃないわよ!」


 平坦な声のメリッサさんと、激情したアキナさんの言い合い。

 僕は止めなくていいのかと、小声でナナミさんに聞いた。


「いつもの事だから放っておいていいわ。特に今回のようなストレスの溜まった時は、ガス抜きが必要だから。それよりも支部長が来たわ」


 筋肉質の大水支部長がのっそのっそとやって来た。


「パーティーリーダーのナナミ君に代表して話を聞きたい。俺の部屋まで来てくれるか」

「いいけど、今回は私よりもリオン君に話を聞くほうがいいわよ」

「ほう、カカミ君か。分かった。君も一緒に来てくれ」


 僕は了承して、二人と一緒に支部長室へ向かった。

 僕の特殊能力の話になり、ナナミさんと大水支部長に『結晶』のことを話した。


「それでは、カカミ君の『結晶』はモンスターの命を封じることができ、さらには特殊能力まで封じることができると言うのかね」

「はい。強いモンスターの場合は命を封じるのにかなり苦労しますが、Dランクのモンスターなら一瞬で命を封じることができます。また能力だけを封じることもできます」

「もしかして、あのミツオの特殊能力もリオン君が『結晶』で封じたの?」

「その通りです。三人が持つ特殊能力は全て封じました。これがその結晶です」


 テーブルの上に九個の結晶を並べた。


「カカミ君。あの三人に特殊能力を戻すことは出来るのかな?」

「いいえ、それは出来ません。僕の『結晶』は力を封じることはできても、戻すことはできないのです」

「他の人に特殊能力を与えることが出来たら凄いことだったのにね。残念だわ」

「そこまで万能ではないですよ、ナナミさん」


 あの三バカはもうレヴォリューターではなくなった。

 これから自分たちがやったことを悔やみ、罪を償ってほしいと思う。


「何はともあれ、今回の件はこれで解決だな。ナナミ君、カカミ君。感謝するよ」


 大水支部長が頭を深々と下げた。


「今回は私たちもリオン君に助けられたから、胸を張れないわね。支部長。私たちの功績はいいから、リオン君の功績を多めにつけてあげてね」

「分かった。できるだけ多めにつけるよ」

「ありがとうございます」


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 シーカー協会を出た僕は、ミドリさんたちが搬送された病院に向かった。

 検査のために数日入院するらしい。

 四人部屋が空いていたらしく、三人は同じ部屋だった。

 ノックをして病室に入っていくと、三人の家族と思われる人たちが居た。


「リオンさん!」


 アオイさんが僕の胸に飛び込んで来た。


「お姉ちゃんたちを助けてくれて、ありがとうございます」

「三人が助かって、本当に良かったよ」


 アオイさんが小刻みに震えている。ミドリさんが死んでしまったらと思って不安だったんだと思う。


「カカミさん。今回は本当にありがとう。あなたには、言葉では言い表せないほど感謝をしています」

「ミドリは二回も命を助けてもらった。カカミさんは、ミドリだけでなく私の恩人だ。本当にありがとう」


 ミドリさんの両親のユキエさんとタカオさんが、深々と頭を下げてきた。

 僕は慌てて頭を上げてほしいと言った。


 アサミさんとアズサさんの家族からも、感謝の言葉があった。何度も感謝されるものだから、僕は困ってしまった。

 お見舞いのフルーツを置いて、三人と少し言葉を交わして今日は帰ることにした。


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 三バカを捕縛した日から二日後。僕は大水支部長に呼び出され、シーカー協会を訪れた。


「わざわざすまないな」

「いえ、今日はどうしたのですか?」

「大したことではないんだ。あの三人のことをカカミ君に伝えておこうと思ってな」


 三バカは自分たちの特殊能力がなくなったことに気づき、かなり落ち込んでいるらしい。

 あの特殊能力があったら、逃げ出すことも可能かもしれないから取り上げておいて良かったと思っている。

 無闇矢鱈に『結晶』をレヴォリューターに使うつもりはないけど、三バカに使ったことは後悔していない。


 あの三バカの特殊能力は、カズアキが『身体強化』『破壊』『SFF吸収』、サダジが『防壁』『ダメージ吸収』『身代わり』、ミツオが『気配隠蔽』『弱点看破』『拠点支配』だと大水支部長が教えてくれた。


 僕が聞いたことがない特殊能力は、『SFF吸収』と『拠点支配』。

『SFF吸収』は人間やモンスターを倒した時の『SFF』の吸収率が高くなるというものだった。しかも、仲間にもその恩恵があるというシーカーにとっては喉から手がでるほど欲しいものだった。

『拠点支配』は一定の範囲内に存在する全てを支配下に置くというもの。この『拠点支配』によってアテナの剣の皆は動けなくなったらしい。

 この二つの特殊能力はとても相性が良くて、『拠点支配』で動けなくした人間やモンスターをカズアキが殺すと『SFF吸収』によって多くの『SFF』を得ることができるというものだ。

 しかもサダジが防御特化だから、何か不測の事態が起きてもなんとかなる。


「あの三人はどうなりますか?」

「裁判にかけられて……まあ、死刑だろうな。あいつらは殺し過ぎている」


 裁判で無罪を勝ち取らない限り、死刑は免れないらしい。

 殺した人数が多すぎて、情状酌量はないだろう。だから無罪にならない限り、死刑だと大水支部長は言う。


「まあ、俺がここで何を語っても、決めるのは判事だからな」


 シーカーがその特殊能力を使って犯罪を犯した場合、普通の人よりも刑が重くなる。シーカーの犯罪抑止のためらしい。

 僕もあの三人と同じ轍を踏まないように、自分を律しようと思った。


「あの三人の特殊能力の相性は悪くなかったのに、バカをやらかしてしまった。昇級試験というのは、頭が悪い奴が上に行けないようにするストッパーの役目もあるんだ」

「え? そうなんですか?」

「レヴォリューターになった時点で、一般人よりも有利なのは知っている通りだ」

「はい」

「だが、レヴォリューターにも頭の悪い奴は居る。神様ってのは、そういった奴に力を与えて放置する存在らしい」


 大水支部長は頭を振って、お茶で喉を潤した。


「E級ダンジョンよりもD級ダンジョンのモンスターのほうが、『SFF』は多く得られる。そういったことから五級以上はシーカー協会が認める功績を積まないと昇級試験さえ受けられないようにしている。それでも完全じゃない」


 大水支部長は心底残念そうに語った。

 三バカは元々持っていた特殊能力が悪いわけではなかった。頭を使えば、七級の昇級試験だって一回で合格できただろう。

 自分たちは特別なんだと努力を怠り、力だけに頼った三人はなるべくして犯罪者になってしまったのかもしれない。


 

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