第44話

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 044_探索隊(三)

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 三バカとアテナの剣の戦闘が始まろうとしている。

 アテナの剣の面々が三バカににじり寄って行く。

 この違和感はなんだろうか? なんで三バカはあんなにも余裕なんだろうか?

 そう言えば、これまでに四級シーカーパーティーも行方不明になっているんだった。

 あの三バカが四級シーカーパーティーを倒せるのか? 調査だから、四級シーカーパーティーも油断してなかったはずだ。

 なのに、帰って来なかった。どうしてなんだろうか……?


 戦闘が始まる。

 ナナミさんがカズアキ、アキナさんがサダジ、そしてメリッサさんがミツオに躍りかかった。

 三人は三バカを押している。三バカは徐々に後退して行く。

 胸に湧くこのモヤモヤはなんだろうか? 何か嫌な予感がする。


 アテナの剣が手加減をしているようには見えない。それなのに三バカはアテナの剣の攻撃に対応している。

 あの三バカにこれだけの力があるとは思えない。だけど、目の前では三バカが三級シーカーの攻撃を受けているのに、多少押されている程度で済んでいる。どういうこと?


「なかなかやるな、オバサンよ」

「誰がオバサンだ!?」

「お前だよ、オバサン」

「小僧が!」


 厳しい表情をしているカズアキだが、言動にはまだ余裕がある。サダジとミツオに関しても同じだ。

 七級にもなれない三バカが、これだけの動きができる理由が分からない。


 僕の心配とは裏腹にアテナの剣は三バカを押している。

 後衛のアイコさんがミドリさんたちのところまでた辿りつき、倒れている三人の様子を窺った。


「まだ生きてるわ」


 ポーションを取り出して、倒れている三人に飲ませていく。ああ、良かった。これで三人は大丈夫だ。

 あとは三バカを無力化できればいいと思っていた時だった。カズアキが歪な笑みを浮かべた。


「ミツオ、やれっ!」

「応!」


 その瞬間、ナナミさんたちの動きが止まった。

 まるで時間が止まったように、ナナミさんたちがアクションの途中で止まっている。


「ギャハハハッ。おい、どうしたよ、オ・バ・サ・ン」

「キャハハハ。まるでマネキンだな、大剣のお姉さんよ」

「このコスプレイヤーなんて、蹴りの途中で止めた・・・からスカートの中が見えてるぜ。白だぜ、白! コスプレイヤーなのに白だぜ!」


 何が起きているの? なんで皆の動きが止まっているの? 三バカは何をしたの?

 何が起きているか分からず、僕はただ見守ることしかできなかった。


「おい、まだ雑魚が残ってるぞ」


 サダジが僕を指差した。


「ああ、あいつか。五級シーカーのリオン様だったよな。ギャハハハハッ」

「おいおい、あんなのが五級かよ。シーカー協会にどんなコネがあるんだ? ギャハハハッ」


 カズアキとミツオが僕を揶揄い、下品な笑い声が耳に響く。


「な、何をしたんだ?」


 僕がそう問うと、カズアキがナナミさんの肩に肘を置いた。


「何をしたか知りたかったら、こっちに来いよ」


 クイクイと人差し指で僕を誘う。


「この女、美人だな。こいつは俺がもらったぞ」


 サダジがアキナさんの頬をべろりと舐める。


「俺はその剣とあっちの弓がいいぞ」


 ミツオはメリッサさんの太ももをペチペチと叩いた。


 何をしたか分からないのに、近づくわけにはいかない。

 僕はこんな時こそ冷静になれと自分に言い聞かせる。


「ふー……」


『魔眼』を発動させる。

 それで分かったけど、隠し通路の先に変な力場がある。これは、何かの結界なのか?

 この結界内では、あの三バカ以外に動けないのか?

 そう言えば、カズアキがミツオに何か指示したとたんに、皆の動きが止まった。この結界はミツオが発生させているということなのか?


 しかも、あの三バカの生命力がとても大きい。

 生命力≒『SFF』になると考えていい。それなのに、三バカはナナミさんたちに近い生命力を持っていた。

 七級程度の『SFF』なら分けるけど、一体三バカはどうしてしまったんだろうか?


「おい、どうしたよ。早くこっちに来いよ。さもないと、こいつの首にこの剣を突き立てるぞ」


 カズアキががナナミさんの剣を奪って、首に当てる。


「おいおい。その女は俺がもらうんだから、他の奴にしろよ」

「ミツオの熟女好きが出たよ。こんなババァのどこがいいんだか?」

「バーカ、熟女の熟れた体がいいんだよ。ションベン臭いガキのどこがいいんだか」

「「そう思ってるのは、お前だけだ」」


 試しにこの結界に『結晶』を発動させる。


「「「「「「っ……」」」」」」


 結界はなくなった。

 その瞬間、アテナの剣の皆が動き出した。

 アテナの剣の皆は急に動けるようになって驚いているけど、さすがは三級シーカーパーティーだ。

 ナナミさんは剣を奪い返してカズアキの腹を蹴り飛ばし、アキナさんは大剣をサダジに叩き込んで吹き飛ばし、メリッサさんはミツオの顔面を蹴り飛ばした。


「「「ギャァァァッ!?」」」


 三バカは壁にぶち当たり、ズルズルと床に尻をつけた。


「「「なんで動けるんだよ!?」」」


 三バカが間抜けな顔で、アテナの剣の面々を見る。

 アテナの剣の皆も動けたことが不思議なようで、手をグー、パーと握ったり開いたりしている。


「いきなり動けたけど、どうなっているのかな?」

「こいつ私の頬を舐めたのよ、気持ち悪い」

「こいつ。パンツ見た。ぶち殺す」


 ナナミさんがカズアキに剣を向け、アキナさんが大剣をサダジの鼻先に当て、メリッサさんが拳をガシガシと当ててミツオを睨めつける。


「おい、ミツオ! 何やってんだよ!?」

「そうだぞ、ミツオ!」

「分かんねぇけど、いきなり消えたんだよ」


 消えたのはミツオの特殊能力で発生させた結界で間違いないようだ。

 その効果の全てが明らかになったわけではないけど、少なくとも三バカ以外の動きを封じることができるもの。

 こんなのがあったら、四級でも三級でも関係ない。ただ殺されるのを待つだけになる。

 救いはあまり広範囲に結界を張れないことかな。もし広範囲で結界が張れたら、僕も含めた範囲にしていいるはず。……あの三バカは僕の能力を低いと思い込んでいるから、油断しただけかな?

 いや、違う。アテナの剣があの隠し通路に入ったのを確認してから、結界を張った。あの結界は広範囲に張れないと思っていいはずだ。


 僕の『魔眼』が、三バカは特殊能力を三つも持っていると教えてくれた。

 以前、カズアキは『身体強化』、サダジは『防壁』、ミツオは『気配隠蔽』を持っていると、僕に自慢していた。

 シーカーは自分の特殊能力を他人に話さないものだ。あの時に三つの特殊能力を持っていたら全部話していたはずだ。それほど三バカは僕に優越感を持っていた。

 いつの間に特殊能力が三つになったのだろうか。もしかしたら特殊能力が三つになったことが、今回の事件に関係しているのだろうか?


「さて、こいつらを縛り上げるよ」

「面倒だから両腕を切り落とそう」

「顔の形が変わるくらい構わない」


 ナナミさんが捕縛を指示すると、アキナさんとメリッサさんが不穏なこと言った。


「「ふざけるな!」」

「止まれ!」


 結界が張られた。

 僕はすぐにその結界を『結晶』で封印した。


「今、またなんかやったわね」


 ナナミさんの目に殺気がこもる。


「「ミツオ!」」


 カズアキとサダジが悲鳴のような声をあげ、ミツオの名を呼んだ。


「発動したんだよ! なのに、すぐになくなるんだよ!」


 あれは危険だ。僕はミツオのその特殊能力自体を封印することにした。


 

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