第39話

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 039_君の色

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 ワイバーン相手に、何度も飛ぶ力の検証をした。あの力を封印することで、ワイバーンは確実に飛ぶ能力が低下する。翼をばたつかせ、速度が遅くなるのだ。

 僕は魔物にも特殊能力があるのだと考えた。僕の『結晶』のような特殊能力が魔物にもあると仮定すれば、辻褄は合う。


 ワイバーンの飛ぶ力を封印した結晶は、これまでの結晶と変わりない。僕の『SFF』を少しだけ上げてくれるけど、飛ぶ力は与えてくれなかった。

 そういった特殊能力を封印したら、特殊能力が得られると思ったのだけど、違ったようだ。残念。


 でも、部分的に力を封印することができるようになったのは、大きな進歩だと思う。俗に言う、弱体効果を与えることができる。強敵相手なら、そういった搦め手が有効になることもあるだろう。


 検証を終えた僕は、第九エリアのエリアボスと戦うことにした。

 エリアボスはスネークワイバーン。名前でもわかるように、ヘビにワイバーンの翼をくっつけただけの魔物。頭から尻尾までヘビで、そこに翼がある感じ。どこからどこが頭で、胴体がどこで、尻尾がどこなのかはさっぱり分からないけど、全長は一〇メートルくらい。胴体の太さは一メートルくらいかな。翼はすごく長くて胴体とほぼ同じくらいの一〇メートル級。

 このスネークワイバーン、なんと、ブレスを吐く。そのブレスに触ると、腐ってしまうという恐ろしい腐食ブレス。

 D級ダンジョンに居ていいボスではないと思う。これもこの第九エリアが不人気の一因。


 体をくねらせて飛ぶスネークワイバーンが近づいてくる。顔が本当にヘビだ。なんというか、こんなの飛ばしたらダメだと思う。

 スネークワイバーンはいきなり口を大きく開き、ブレスを吐いてきた。禍々しい紫と黒の混ざったブレスが僕に襲い掛かってくる。

 僕は空間の壁を出して自分を守った。幸い、空間の壁はブレスを通さなかった。体当たりを受けてもびくともしない。安定の防御力だ。


「この空間の壁を破壊できる魔物は居るのだろうか?」


 そんなことを言っていると、そういった化け物と出遭うことになるかもと、反省。


「もう君の色は分かったよ」


 ある程度見れば、色ムラについて把握ができる。ただ、精神集中が必要なので、いきなりはできない。しかし空間の壁があれば、対処はできる。


「君の色は紫。そして、とても濃い紫、黒に近い紫を封印する」


 全体ではなく一部分の封印は、すぐにできた。僕の手の中に結晶が現れる。


「さあ、ブレスを吐いてみなよ」


 僕の言葉が理解できたのか、スネークワイバーンは大きな口を開いた。


「………」


 口を開いたけど、何も起こらない。やっぱりあの濃い紫はブレスという力だった。


「次はやや薄い紫を封印だ」


 僕の手の中に結晶が現れると同時に、スネークワイバーンは落下を始めた。どうやら、薄めの紫は飛ぶ力だったようだ。

 同じ飛ぶ力でも、魔物によっては色が違うのか。これは発見だ。


 スネークワイバーンの翼は完全に飾りのようで、ワイバーンのように翼を動かして飛ぶことはできなかった。

 水に落ちたスネークワイバーンは、その体をくねらせて泳いでいる。そのほうが似合っているよ。


「じゃあ、もう終わりね」


 残った生命力を封印すると、スネークワイバーンは消えた。

 僕は水に飛び込んで魔石を回収した。サハギンメイルのおかげで水の中は自由自在だ。


 第一〇エリア。そこは流氷漂う冬の海エリア。冬の北風のような肌を刺すような風がとても寒い。

 防寒具を身につけて、転移ゲートを抜けて上空へ移動。空間の壁に降り立ち、だだっ広い第一〇エリアを俯瞰する。


「本当に見渡す限りの海と流氷だ」


 第九エリアもそうだけど、もしかしたら隠し通路があるかもしれない。だけど、今は踏破を目指す。

 踏破を目指すだけなら、難しいことはない。僕には転移ゲートがあるので、見える範囲なら一瞬で移動できる。そして、一度訪れた場所にも一瞬で移動できる。


 僕の目当てはエリアボス。第九エリアと第一〇エリアは人気がないから、エリアボスがほぼ間違いなく居る。エリアボスは普通の魔物よりもアイテムを落とす可能性が高い。いいアイテムが手に入れば、それだけで大金持ちになれる。

 それに、エリアボスの結晶からは、普通の魔物以上の『SFF』がもらえる。これを放置する気はない。


 第一〇エリアのエリアボスは、海の中に居る。流氷漂う極寒の海の中に入って行くのは、かなり勇気が要る。サハギンメイルを信じて海へ。

 サハギンメイルは水の中にいる限り、その寒さを感じない効果がある。それは、今まで使っていて確認済み。海に飛び込む前に感じていた寒さは、感じなくなった。不思議なものだ。


 エリアボスはケルピー。前部が馬で後部が魚の魔物。泳ぐのが得意で、その速度は時速一〇〇キロにもなるらしい。

 僕を見つけたケルピーは、一気に加速した。たしかに速い。

 あの速度は危険だと思った僕は、ケルピーの進行方向に空間の壁を出した。


「なっ!?」


 ケルピーは空間の壁に当たる直前に、その前足で空間の壁を蹴って方向転換した。速度だけでなく、反応も良い。

 水中を自由自在に動きまくり、その速度ゆえに止められない。これまでこのケルピーに苦戦して撤退したシーカーは多いらしい。ほとんど討伐例がないのだ。

 ここまで来るシーカーが少ないのもあるけど、討伐したという話は本当に少ないらしい。


「これならどうだ!」


 ケルピーの周囲に空間の壁を出して囲ってしまえばいいと思ったけど、危険を察知したのか方向転換をして躱されてしまった。


「マジか……」


 まさかと思うけど、未来予知みたいな能力があるのだろうか。

 どうしたものかと、考えた。そして発想を変えることにした。


「ケルピーを囲えないなら、僕を囲えばいいよね」


 空間の壁は絶対の防壁。それで僕自身を囲めば、少なくともケルピーの攻撃は届かないはず。

 僕自身を空間の壁で囲むと、ケルピーは近づいては離れて挑発を繰り返した。

 時間が稼げた僕は、ケルピーをしっかりと観察させてもらった。ケルピーの力の色は茶色。その茶色の中に焦げ茶色を見つけた僕は、それを結晶に封印した。

 速度は落ちない。それなら、未来予知のような能力はどうだろうか?

 ケルピーの目の前に空間の壁を出したら、ぶち当たった。焦げ茶色の力は未来予知のような力のようだ。


 ただ速いだけなら、もう怖くはない。一気に空間の壁で囲い、生命力を奪った。エリアボスなだけあって抵抗はあったけど、空間の壁に閉じ込められているので何もできず、時間の経過と共に生命力を失っていった。

 最後はあっけないほど簡単に終わってしまった。


「何はともあれ、僕はこの花ノ木ダンジョンを踏破した」


 ケルピーからアイテムはドロップしなかった。残念だけど、アイテムが出ないほうが確立が高いのだからと諦める。

 と思ったら、なんと宝箱があった。宝箱は金だ。罠はなさそう。それでも、いつものように後方から開ける。何も起きない。罠はなかった。


「これは……?」


 宝箱の中には剣があった。また呪われた剣かと身構えてしまう。

 シーカー協会で鑑定してもらおう。

 転移ゲートを繋げて一瞬で地上へと帰還した僕は、すぐに剣を鑑定してもらうことにした。

 五級以上のシーカーが使える、二階の受付へ行く。ここに来ると、五級になったと実感する。

 さっそく剣の鑑定を頼み、コーヒーを飲みながら二〇分程待った。僕の名前が呼ばれたので、受付へ。


「お待たせしました。この剣はカラドボルグです」

「カラドボルグ?」


 聞いたことのない剣の銘だ。


「効果とかありますか?」


 詳細は鑑定書をもらうが、簡単に説明を頼んだ。


「光の加護を帯びた剣になっています。位階は伝説級です」

「で、伝説級……」


 素直に嬉しいと思った。今後の戦いに、この剣は使える。

 嬉しくて頬ずりしそうだよ。


「しかし、花ノ木ダンジョンの第一〇エリアに、こんなお宝があったのですね」

「僕はてっきり呪われた剣かと思ってしまいましたよ」

「呪われた剣も解呪すると使えるのですが、解呪するためのアイテムが滅多に出ませんからね」


 どんな呪いでも解呪できるアイテムがある。だけど、解呪アイテムは滅多にドロップしない。呪いのアイテムがA級ダンジョンで出たものなら、解呪アイテムを使っていいかもしれない。それくらい珍しいため、滅多に解呪は行われないのが現状だ。


 

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