第28話 安住製作所

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 028_安住製作所

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 花ノ木ダンジョンの第一エリアの湖底に、隠し通路が発見されたことで三級シーカーパーティーが派遣された。

 そこにはナーガが三〇体以上居て、三級シーカーパーティーによって殲滅されたと聞いた。

 ナーガを殲滅すると宝箱が出た。僕の時と同じだ。三級シーカーたちの時は金の宝箱だったらしい。手に入れたアイテムは、ゴルアディスの剣。


 効果がある武器や防具には位階があって、下から覇王級、伝説級、精霊級、神級の順で良いものになる。

 ゴルアディスの剣は伝説級の武器。D級ダンジョンで手に入れられるような武器ではない。

 そのことはあっという間に世間に広まり、四級以上のシーカーたちが隠し通路を目指した。


「カカミ君のおかげで、伝説級の武器が出たよ。おかげで高ランクシーカーが競うように隠し通路を目指して、この清洲支部はいつも以上に活気に溢れている」


 大水支部長から感謝の言葉をもらった。


「カカミ君の『SFF』はいくつかな?」

「隠し通路を発見した直後に、一六〇〇を超えました。それ以降は測っていません」

「『SFF』が二〇〇〇になったらすぐに教えてほしい。すぐに五級に推薦するから」

「ありがとうございます」


 五級への推薦も確約してくれた。あとは、頑張って『SFF』を二〇〇〇以上にするだけだ。


 その翌日、ある場所に向かった。アオイさんと一緒に向かったその場所は、最寄り駅から徒歩五分という立地。


「安住製作所……ここだ」


 大きな門があり、その横にでかでかと看板がある。守衛まで居て、かなり大きな建屋がある工場だ。


「やあ、カカミ君。久しぶりだね」

「半月ぶりですか、教授」

「今は教授じゃないよ。この安住製作所の社長さ」

「そうでしたね」

「こちらのお嬢さんが根岸さんかな」

「ネギシアオイと申します。よろしくお願いします、安住社長」

「はい、よろしくね」


 今日は安住元教授が立ち上げた会社で、僕が役員になる手続きをする日。

 契約のことはよく分からないから、アオイさんにも同席してもらうことにしたんだ。


「根岸さんも安住製作所うちの社員ということでいいかな?」

「本当に私までよろしいのですか?」

「どの道、カカミ君の秘書は必要だったんだ。構わないよ」

「ありがとうございます」


 アオイさんは僕の秘書として、この会社からお給料をもらうことになった。まだ大学を卒業してないけど、そんなことはどうでもいいらしい。

 もちろん、大学はちゃんと卒業してもらう。その余った時間で僕の面倒を見てもらうということになっている。

 ちなみに、アオイさんはお父さんの会社に入社するのを止めて、僕の秘書になってくれる。お父さんもシーカーになるよりは全然良いと許している。


「うちは、オカザキ自動車と国の資本も入っている。分かっていると思うけど、極秘事項も多いので言動にはくれぐれも気を使ってほしい」

「「はい」」


 極秘事項の守秘義務や契約内容について細かい話を聞いて、雇用契約書など必要な書類に署名捺印した。社員証をもらい、首からぶら下げる。


「これでカカミ君はウチの役員だ。オフィスに案内するよ」

「社長自ら案内してくれるのですか」

「私の秘書や他の重役など、まだ決まってないんだよ。もうね、バタバタなんだよ。ははは」


 社長さんよりも先に秘書をつけてもらって、申しわけないですね。

 案内されたのは、個室だった。しかも、かなり広い。


「こんなに良い部屋を使っていいのですか?」

「構わないよ。広さは私のほうがあるからね」


 僕用のデスクの他に応接セットもあって、それでもスペースが余っている。


「ところで、この工場、かなり大きいですね」

「オカザキ自動車の関連会社の工場を払い下げてもらったんだよ。世界のオカザキ自動車だからね、関連会社でも立派な工場を持っていたんだよ」


 立派な工場があっても、こんなにタイミング良く工場が空いているのだろうか。まあ、そこら辺は僕が考えることではないか。


「これだけでも、かなりの資金が必要だったのでしょ?」

「スマートメタルの試作三号機を、自衛隊に五〇億円で買い上げてもらい、新型四号機の開発に二〇〇億円の予算がついたからね。その資金で購入したよ」


 武装マシマシの試作三号機は、僕もちょっとだけ見たことがある。武装がごてごてついていて、ボディも太くなっていた。その試作三号機が五〇億円とは、凄い金額だ。しかも開発費に二〇〇億円? どうやら自衛隊は良い金づるらしい。

 そんな予算がホイホイ出るのか不思議だと思った。いくら国でも二五〇億円もの大金を右から左ってわけにはいかないと思うんだ。


「ダンジョンのことだよ。自衛隊の中にもレヴォリューターは居るけど、多くは普通の人間だからね」


 安住社長が教えてくれたけど、自衛隊はかなり厳しい状況に置かれているらしい。何が大変って、国民を守るべき自衛隊が、ダンジョンの中ではその戦闘力を生かせないからだ。

 何度も言うけど、ダンジョンの中では爆発の威力が減衰する。そのため、近代兵器のほとんどが役に立たないのだ。

 自衛隊員の中にもレヴォリューターは居るんだけど、絶対数は少ない。割合で行ったらレヴォリューターじゃない人のほうがはるかに多い。


 レヴォリューターが魔物を倒すと、『SFF』が増えていく。

 普通の人は『SFF』がゼロで、魔物を倒しても増えない。だから、レヴォリューターでない自衛隊員が、どれだけ魔物を倒しても強くならないのだ。


 レンジャーと言われる特殊部隊のような自衛隊員がいる。そのレンジャーは人間とは思えない圧倒的な戦闘能力を持っているらしい。それはもう、化け物レベルらしい。

 でも、レンジャーは八級シーカーが相手だと勝てることもあるらしいが、七級のシーカーには全く敵わないと聞いたことがある。つまり、レンジャーという化け物でも、戦闘力では九級から八級相当でしかない。


 そのレンジャーは陸上自衛隊のエリート。エリートってことは、数は少ないってこと。国民を守るべき自衛隊員のほとんどは普通の人間に毛が生えた感じなので、ダンジョン内においては民間人のシーカーを頼らないといけない。自衛隊はそれでいいのかと言う人が居るらしい。


 僕個人としては、ダンジョンのことはシーカー協会に任せて、自衛隊は外敵から国を守ってくれればいいと思っている。

 だけどそれではダメだと言う人が多いらしい。しかも、そう主張する人ほど、なんらかの権力を持っているものだ。


 そんなわけで、自衛隊員でも魔物を倒せる力が要る。それが、スマートメタルというわけなんだ。

 そういった需要があると、科学というのは進歩するらしい。そして、そこには利権が生まれ、金儲けの種になる。安住社長はその波に乗ろうと思っているらしい。それが上手くいけばいいね。


「トキ君から聞いていると思うけど、カカミ君の周りもうるさくなるかもしれない」

「以前、そんな話を聞きました」

「トキ君はカカミ君の身の安全や行動の自由を担保するように、自衛隊に働きかけているんだ」


 ヨリミツがそんな働きかけをしているの? 知らなかったな。


「彼もカカミ君を巻き込んでしまったことに責任を感じているんだと思うよ。開発費よりもそっちを優先するように、自衛隊に働きかけていたからね」


 あいつは昔からそういうことは言わない。

 あれは僕が高校でイジメのようなことをされていた時のことだ、ヨリミツは何も言わずに裏で僕をイジメていた生徒を追い込んだ。半分は退学し、半分は僕に土下座して謝ってきた。

 そのことを僕が知るのは、イジメがなくなってからかなり後のことだった。何をどうやったかヨリミツは教えてくれなかったけど、そのおかげで僕はイジメられなくなった。


 あいつはずっと普通に僕に接してくれた。僕が知らないところで僕を護ってくれていた。卒業の前にそのことを聞いたことがあるけど、あいつは「友達なら当然だろ」と恥ずかしげもなく言ったんだ。

 だから僕もヨリミツのために何かができて嬉しい。ヨリミツのために、何かをしたいと思えるんだ。それは友達だから。親友だからだ。


「もし、カカミ君の周辺に気になる人が現れたら、すぐに言ってほしい。今は君の行動の自由を優先しているため護衛などはつけてないけど、いつでも護衛をつけれるように手配できるから」

「そうならないことを祈ります」

「そうだね」


 自衛隊員は地上ならかなり戦闘力が上ると聞いている。地上なら近代兵器が使えるからね。七級シーカーでも拳銃の弾をかわすことはできないし、弾くことも難しい。拳銃で撃たれたら怪我して、下手をすれば死ぬ。


「あー、もしもし。うん、説明は終わった。よろしくね」


 安住社長はスマホで誰かに電話した。


「私はここまでだ。すぐに楠君という女性が来るから、あとは楠君に案内してもらうね」

「お忙しいところ、ありがとうございました」


 会社を立ち上げたばかりで、かなり忙しいんだろうね。安住社長は部屋を出ていった。

 安住社長と入れ違いで、女性がノックしてから入ってきた。ビジネススーツのその女性は、三〇前後のメガネをかけた真面目そうな人。


「私は経理を担当します、楠と申します。これから工場内を案内させてもらいます」

「カカミといいます。よろしくお願いします」

「私はネギシと申します。よろしくお願いいたします」


 挨拶が終わり、楠さんの案内で工場内を見学する。

 工場は五階建てで一階は倉庫、二階は食堂や会議室、三階は全部研究用で四階は試験室と資料室。五階が各部署のオフィスと重役のオフィスがある。

 僕のオフィスも五階にあって、見晴らしが良かった。


 三階に入ると、ヨリミツが居た。

 新しいスマートメタルを開発しているようで、僕たちが入って来たことに気づいていない。かなり近づいて、やっと僕たちに気づいたヨリミツが手を上げた。


「よう、カカミ執行役」


 僕の役職は執行役。最初は常務になる予定だったんだ。僕だって常務のことくらい知っている。いくらなんでも常務はない。役員になることは了承したけど、常務は丁重に辞退した。それで執行役になったんだ。


「なんですか、トキ教授様」

「誰が様だよ」

「国立大の教授様だろ」

「ふん。俺は教授なんてものに興味はないんだ。だけど、研究させてくれるって言うから、仕方なく教授になったんだよ」

「お偉い先生様は言うことが違うね。僕なんか、執行役なんて言われると、舞い上がっちゃうのにさ」


 軽口を叩き合って、ヨリミツが開発しているスマートメタルについて聞いた。

 現在開発しているのは、中距離支援用の機体らしい。


「想定よりも重量が重い。それは稼働時間に関わってくるからな」

「ふーん」

「ふーんって、お前は気楽だな」

「よく分からないからね」


 よく分からない僕が、何かを言っても見当違いだろう。


「でもさ、指向性重力制御システムで重量をもっと軽減できるようにはならないの?」

「「「っ!?」」」


 え、何? やっぱり見当違いだった? 言うんじゃなかったかな。


「リオンのくせに、たまには良いこと言うじゃないか」

「失礼な奴だな。ぶっ飛ばすぞ」


 ヨリミツがバンバンッと僕の背中を叩いてくる。これでも六級シーカーだから、ヨリミツ程度の力では痛くも痒くもないよ。


「指向性重力制御システムの重力制御によって、重量の軽減を行うぞ!」

「「「はい!」」」


 ヨリミツはハハハと笑い、研究者の輪の中に入った。


「すぐに三橋さんに連絡してくれ」

「はい」


 なんだか活気づいてしまい、僕たちは蚊帳の外。


 工場見学が終わり、僕とアオイさんは帰宅する。

 これから一週間に一回程度、工場に顔を出して生命結晶と重力結晶を納品するのが、僕のお仕事。

 生命結晶は月に三〇〇個、重力結晶は一〇〇個欲しいと言われている。


 これまでも生命結晶と重力結晶を供給してきた。オークの生命結晶が二〇万円、重力結晶が一五万円だった。オークの魔石はシーカー協会で五万円で買い取ってもらえるので、生命結晶は四倍の金額だった。


 今後は安住製作所の執行役として、毎月役員報酬をもらうため生命結晶が一〇万円、重力結晶が五万円ということになっている。以前に較べたら安くなった。でも、役員報酬がその減額分を担保してくれるらしい。

 多分だけど、僕の役員報酬は安住社長より高いんじゃないかな。

 結晶の売却だけで毎月三五〇〇万円の収入になる。年間四億二〇〇〇万円だ。これだけで僕は億万長者だけど、役員報酬を含めると一〇億円に届かないくらいの金額になるはずだ。もっとも、半分は税金で取られてしまうんだけどね。


 これだけの収入があるのでシーカーを辞めてもいいかと思うかもしれないけど、それはちょっと違う。

 最初は就職浪人になりたくなくて、シーカーになった。でも、今はやり甲斐のある仕事だと思っている。

 できれば最低限五級になりたい。少なくとも六級の僕はまだ限界を感じていないから、上に行けると思っている。

 僕自身が限界を感じるか、納得できたらシーカーを辞めるつもりだ。それがいつになるか分からないけど、今はまだその時ではない。


「アオイさん。今日はありがとうね」

「いえ、私まで社員にしてもらえましたので、こちらこそありがとうございます」


 夕食を一緒に食べることになり、ミドリさんたちも誘った。

 ミドリさんはアサミさんとアズサさんたちと一緒にダンジョンに入っていたけど、丁度地上に戻って来たところらしい。

 三人とも一緒に夕食を食べることになったので、僕たちは待ち合わせの店に向かった。


 四人の美人に囲まれて、僕は幸せな時間を過ごした。僕がこんなに幸せでいいのだろうかと、思ってしまった。


 しかし、僕が重役か。しかも、安住製作所の株式を三〇パーセントも保有している。この工場に見合う大きな会社になってほしいと思う。

 安住製作所の経営が軌道に乗ったら、家族に自慢しようかな。僕がシーカーになるのを反対していたこともあるけど、安心させてやりたいという気持ちもある。



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