第29話 五級昇級試験申請

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 029_五級昇級試験申請

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 朝起きてテレビをつけると、外国で百鬼夜行が発生したというニュースが流れていた。

 日本では百鬼夜行と言うけど外国ではスタンピードが一般的な呼び名のそれは、魔物が大量に地上へ出てくる現象のこと。

 魔物が地上に出ると、人間を襲う。軍隊とシーカーが強力して、魔物を迎え撃つ。地上は戦場になり、下手をすると数千、数万の人に被害が出るような事態になってしまう。


 ニュースでは大陸の大国が、軍隊を動員して魔物を押さえ込もうとしていると報道している。

 ダンジョンと違って地上では爆発系の武器が、爆発力の低下なく通常通り使える。でも、Bランクダンジョンに出てくるような、強力な魔物へはあまり効果がない。一定の強さまでなら軍隊でも対処できるけど、強い魔物は特殊能力を持った人でなければ倒せないんだ。


 この大国にシーカー協会はない。この国は他の国とは違う路線で、魔物やダンジョンに対処している。ダンジョンに入るのは、全員軍人。軍人以外に力を持たせることを許容していない。

 そういった国は他にもあるけど、多くの国ではシーカー協会が置かれている。


 テレビの向こう側では、凄惨な戦いが繰り広げられている。

 軍隊は市街戦でも一切容赦することなく、重火器を使用している。弱い魔物を一掃するには、効率の良い攻撃だと思う。

 重火器でも倒せない魔物が最後に残ると思うけど、その時は特殊能力を持ったレヴォリューターが登場してその魔物を倒せばいい。


 だけど、市街地には大きな傷跡が残ることになる。

 国民をしっかり避難させて、市街戦を許容できる国民性ならこういう戦い方もありだと僕は思う。こういう戦いなら、レボリューターの消耗を防げるから。

 ただ、百鬼夜行が起きないのが一番いいと思ってしまうんだけどね。


 テレビを消して、腕立て伏せと腹筋を一〇〇回ずつ三セット。その後は塚原流剣術の構えを二時間。最近は構えを二時間することにしている。

 これをすると、心の中が空になるような気がする。まだ半人前にもなっていないけど、少しずつ前に進んでいる気がするんだ。


 朝の稽古を終えると、昼食を摂って道場へ向かう。道場に到着すると、フウコさんが稽古していた。


「フウコさん、早いですね」

「普通」


 フウコさんもカギを持っていて、一人で稽古する時間が多いらしい。

 僕も稽古着に着替えて抜刀の稽古を始める。何度も何度も繰り返し、抜刀。心を無にしてひたすら稽古に没頭する。


「リオン。稽古をつけてやる。構えろ」


 いつの間にか師範が立っていた。気づかなかった。


「本気でかかってこい」

「いいのですか、これでも六級のシーカーですよ」


 自衛隊のエリート隊員のレンジャーでも、七級シーカーには敵わない。

 今の僕は六級なので、レヴォリューターじゃない師範では到底及ばない身体能力を持っている。

 いくら鍛えていても、普通の人間には限界がある。でも、レヴォリューターは人間を超越した力を身につけることだってできるんだ。


「構わん」


 僕は抜刀の構えをする。

 え……。何これ? 師範がとても大きく見える。どういうこと?

 師範はただ立っているだけ。なのに、とても大きく、そして隙がない。


「はぁはぁ……」

「どうした、かかって来い」

「は、はい!」


 かかって来いと言われても、どこをどうやって打ち込めばいいのか……。

 くっ、こうなったら!


「はっ!」

「甘いわっ!」


 抜刀しかかった僕の木刀は、途中で止まった。

 師範は声を発するだけで、僕の動きを止めてしまった。

 これが僕と師範の実力差なのか……。


「師範。今のは……?」

「精神力を鍛えろ。武術は心技体だ。心が強くなければ、身体能力がいくら上ったとしても、本当の強さには至れるものではない」


 師範は日々の鍛錬によって、精神、技、そして身体能力を鍛えろと言う。

 どれ一つ欠けてもダメだけど、何よりも大事なのが精神だと師範は教えてくれた。


「精神を鍛えるには、どうすればいいのでしょうか?」

「心を無にしろ。心が無であれば、何事にも動じないものだ」

「心を無に……」


 抜刀の構えを続けるのは、型を体に覚え込ませるだけではなく、精神を鍛えるためだと師範は言う。

 抜刀の構えをしている時の僕は、心を空にしている気になっていたけど無にはしていない。空と無は似ているが、まったく違うものだと教えてくれた。

 だけど、無がなんなのかは、自分で見つけろと言われてしまった。無とはなんなのか……。


 毎日道場に通って、無の境地というものを模索した。

 時々師範と手合わせをしてもらうが、相変わらず体が動かない。

 フウコさんとも手合わせをさせてもらうけど、まったく相手にはならない。六級シーカーの自信が崩れていく。


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 冬も本番。もうすぐ年の瀬になる頃、僕は『SFF』を測定した。

 二〇〇〇を越えて、二一〇五だった。これで五級に推薦してもらえる。

 僕はさっそく大水支部長にアポを取った。今日は出張で不在だけど、明日の正午には帰ってくるということなので、その後に連絡をもらうことになった。


 花ノ木ダンジョンは第六エリアまで踏破した。花ノ木ダンジョンは第一〇エリアまであるけど、ずっと海や大河、湖だった。おかげでサハギンメイルは大活躍だ。

 大金を出して買ったファイアボアの革鎧の出番がない。まあ、このことは元々分かっていたけどね。


 翌日、午後二時過ぎに大水支部長から電話があった。

 明日の午前九時なら会えるというので、その時間で約束を取った。


「君も五級に挑戦か。ソロで五級に挑戦するシーカーは少ないが、居ないわけではない。がんばってくれ」

「そのつもりです。推薦、ありがとうございます」


 大水支部長の推薦を受けたので、僕は五級の昇級試験を受けられることになった。


「ダンジョン内にシーカー協会が隠した何かを見つけることが課題だ」

「何を隠すのかは、不明なのですか?」

「本部の昇級試験官だけが知っている。つまり、俺も知らないってことだ」


 試験は三日後に行われる。こんなに早く昇級試験を受けることができるとは思っていなかった。

 五級の昇級試験は本部が所管していて、全国のシーカーが申請するからもっと待ち時間がかかる思っていた。

 試験場所は東京のD級ダンジョン。二日後には東京に入って、試験官との顔合わせがある。


「シーカーとして、色々な心構えが試される。準備を怠らないようにな」

「はい」


 支部長室を出てすぐにアオイさんにメールした。

 急ですねと、すぐに返信が来た。

 本部の都合だから、僕に決定権はない。


 そんなわけで、すぐに準備を始める。と言っても、そこまで大げさではなく、消費したものを補充するだけなんだけどね。

 僕は『時空操作』によって異空間に大量の物資を収納できる。それに、いざとなったら転移ゲートで地上に戻ってくることもできる。

 だからと言って、特殊能力が使えなくなるエリアがあるかもしれないので、最低限の物資はバックパックに入れて持っていく。

 最近は『SFF』が増えたおかげで、身体能力が非常に高くなっている。力も強くなっているのでバックパックに色々入れて持ち歩いても、苦にならなくなってきた。


 赤銀製の剣を出してヒビや欠けがないかチェック。これまで使い込んできた愛剣の状態は良い。

 しっかり汚れをふき取って、刀剣用の油をさす。

 こうやって剣のメンテナンスをしていると、自然と心が落ちつく。


 新幹線に乗って東京へ。

 なぜかアオイさんがついてくる。さらにーーー。


「それ美味しそうだね。お姉ちゃん、交換してよ」

「良いわよ」


 ミドリさんもついてきた。

 明日、僕が昇級試験をしている間、二人は東京都じゃないのに東京と冠がつくテーマパークに遊びに行くらしい。そして明後日の昼に横浜で合流になっている。


 僕は仕事。二人はレジャー。

 テンションが上がるのは分かるけど、今の僕は結構ナーバスなので察してほしい。


「リオンさん、あーん」

「え、いや、僕は……」

「せっかくの旅なんだから、楽しもうよ。はい、あーん」


 パクリ。アスパラの肉巻き美味しい。


「ちょっと、アオイ!」

「何? お姉ちゃんもリオンさんに、あーんしたいの?」

「そ、そんなことは!?」

「いいじゃない。あーんしなよ」


 なぜかミドリさんも肉団子を半分に割って、差し出してくる。これは食べてもいいのだろうか? でも、拒否することもできそうにない。

 ミドリさん、そんな不安そうな目で僕を見ないで!


 パクリ。この肉団子も美味しい。

 ただ、周囲の視線が痛い。

 サラリーマン風のスーツの人なんて、ビールの缶を握り潰して中身が出ちゃってるんだけど。



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