第30話 五級昇級試験(一)
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030_五級昇級試験(一)
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東京にあるシーカー協会総本部は、東京のビル群の中にある立派なビルの中にある。
「摩天楼とはこのことか……」
田舎者の僕。東京は中学校の修学旅行で来たことがある。もう一〇年も前のこと。一〇年一昔とはよく言ったもので、あの頃の記憶なんてなんの役にも立たないくらいに街並みが変わっていた。
受付で五級の昇級試験を受けに来たと言うと、すぐに会議室に通された。五分くらい待つと、二人の人が入ってきた。
一人は四〇前後の女性。ちょっとふくよかで専業主婦をしていると言われたら、そうですかと受け入れそうな容姿。
もう一人は二〇代前半かな。僕よりやや下の年齢の女性で、水色の髪をサイドテールにしていてゴシックな服が特徴的な女性。それが妙に似合っていて、可愛らしい女性だと思った。
「お待たせしましたね。私はシーカー協会で昇級試験を管轄する綾瀬といいます」
ふくよかな女性は昇級試験の責任者の綾瀬さん。
「私はメリッサよ。三級シーカーをしているわ」
日本人のような顔をしていたのに名前が外国人ということにも驚いたけど、三級シーカーというとこにとても驚いた。
シーカーは五級になるのが難しい。たしか、シーカー協会が発表している情報では、五級以上のシーカーは全体の三割ほどだったはず。それが三級ともなると、かなり稀有な存在。
「彼女は飯島香さんよ。メリッサというのは彼女が勝手に名乗っているだけだから、気にしないで」
もしかして痛い人?
僕、こういう痛い人と話したことないから、ちょっと不安だな。
「私はメリッサ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
そういう設定なんですね。面倒臭い人っぽいので、メリッサさんでいいや。
「僕は六級シーカーのカカミリオンです。よろしくお願いします」
昇級試験はD級ダンジョンで行われるけど、その時の試験官がメリッサさんだと説明を受けた。
「明日は午前九時にダンジョンに入り、夕方の六時までに指定されたアイテムを回収してもらうことになります。質問はありますか?」
「そのダンジョンの情報は事前に調べました。でも、初めて入りますので、何か気をつけることはありますか?」
僕のその言葉に、綾瀬さんは頷いてほほ笑んだ。
「第一試験は合格ね」
「え?」
第一試験って、何?
「五級になるためには、用心深いことが大事なの。情報を大事にする姿勢は五級シーカーにとって必要不可欠なことよ」
「なるほど……」
すでに昇級試験は始まっているようだ。気を引き締めないと。
綾瀬さんはタブレットを僕に見せてくれた。
「出てくる魔物は虫系ばかりね。キラーホッパー、フライングビートル、シャドウスパイダーが出てくるわ」
魔物の特徴、さらにダンジョン内のフィールドについて確認する。
マップもあるので、その情報を僕のタブレットにダウンロードしてある。
洞窟内なんだけど、森のあるエリアだ。森なので視界が悪いと教えてくれた。熱帯雨林のような気候で気温と湿度が高め。日本の真夏程ではないが、不快感があるダンジョンらしい。
実際に話を聞くと、文字から得る情報よりも実感が持てる。
「隠されるアイテムは、当日ダンジョンの中に入ったら教えます」
時間経過に合わせて、アイテムを隠した場所のヒントがもらえるらしい。決められた時間内でアイテムを探し出さなければいけないので、そういった制度になっていると言う。
顔合わせと説明が終わり、僕は宿にチェックインした。
宿の予約はアオイさんがやってくれたんだけど、なんというか豪華な部屋だ。
ホテルには広大な庭があって、その庭を回るだけでも一時間以上かかるらしい。
僕は庭に出てベンチに座る。落ちつける場所で、明日入るダンジョンの情報を再確認するためだ。
たまに頬を刺すような冬の風がふくと、身震いする。それが頭を冴えさせる気がした。
「万年一〇級シーカーとバカにされていた僕が、五級の昇級試験を受けるまでになった……」
タブレットから視線を上げ、葉の落ちた寂しい木々を眺める。
全てはあの日から始まった。あの三人のことは今でも許せないけど、ある意味三人のおかげで僕は力を手に入れたんだよね。
「明日はがんばるぞ!」
両手で頬を叩く。冬の寒さに曝された頬が痛い。やるんじゃなかった。
翌朝、ダンジョンへ向かった。メリッサさんはまだ来てないみたい。
「おはよう」
「っ!?」
急に声をかけられて、驚いて飛び上がった。
「おおげさね」
「め、メリッサさん?」
ゴシックな服を着たメリッサさんが立っていた。
そのいで立ちとは逆に、彼女の気配を全く感じなかった。
「お、おはようございます」
「準備、できてる?」
「はい」
「行くよ」
言葉少な目のメリッサさんは、ダンジョンの入り口を入っていった。後を追った僕もダンジョンの中へ。
岩肌が無骨なトンネルを進むと、大きく開けた場所に出た。洞窟内に森があり、湿度が高いためにやや不快に思った。
「目標は私のフィギュア。大きさは三〇センチくらい。六時までに探し出せなければ不合格。始めて」
メリッサさんのフィギュアを探すのが、今回の目的らしい。彼女のフィギュアなら、人気が出そうな気もしないではない。
「はい」
メリッサさんは僕の行動を監視する。あとは時間になったらヒントをくれるだけ。どういった探索をするのかは僕の自由。出てくる魔物も僕が対応する。
まずは『魔眼』を発動する。カラフルなサーモグラフィのような世界が広がる。
力場に違和感やおかしなところはない。つまり、どっちへいくか勘に頼ることになる。
五級は僕のようにソロでなくても、パーティー単位で昇級試験が受けれる。だけど、パーティーで昇級試験を受けると、パーティーを五級に認定することになる。そのため、パーティーのメンバーが変わると、認定は取り消される。
そのため、パーティーで昇級試験を受けた後、力をつけてからソロで昇級試験を受ける場合がほとんどだ。
二回も昇級試験を受けるのは、面倒なことと思うかもしれないけど、五級パーティーになったらC級ダンジョンに入れるので、得られる『SFF』が多くなる。それに収入も増える。パーティーを解散する予定がないのであれば、悪くない話なんだ。
「こっちへ行きます」
「何も言わなくていい。ついていく」
「分かりました」
僕は『魔眼』を発動させながら、右へと進んだ。次第に木々の密度が高くなる。
今回は魔物を避けて戦闘はできるだけしない予定。目的はメリッサさんのフィギュアを発見すること。
太い木々ではなく、細い木々が密林のように生えている中を、魔物が居ないところを縫って探索する。
それでも魔物を避けきれない時は、『時空操作』の転移ゲートに剣を差し入れることで、魔物の首筋に剣を突き刺す。
僕が持つ『時空操作』については、シーカー協会に知られている。それは今回の試験に関係する人にも伝えられているので、メリッサさんも当然ながら知っている。
転移ゲートのことも知っているので、それを使って魔物を倒すのは問題ない。
僕が最初に得た『結晶』のことは悪い意味で有名だけど、三級シーカーであるメリッサさんが知っているかは不明。もし知っていても、以前のまま使えない特殊能力だと思われていることだろう。
『結晶』が有益な特殊能力なのは、ヨリミツ経由で自衛隊も知っているのでそのうちシーカー協会も知ると思う。
シーカーが特殊能力を使って他の仕事をするのは認められているし、自営業だから法に触れない範囲で仕事をするのは自由だ。
転移ゲートに剣を突き刺すだけで魔物が倒れるのだから、三級シーカーのメリッサさんでも最初は驚いていた。
さすがは三級シーカー、二回目は驚かなかった。カラクリも簡単だしね。
第一エリアと言っても、さすがに広大だ。昼になってもメリッサさんのフィギュアは発見できず、全体の二割くらいしか探索ができていない。このままではフィギュアを発見できないということもあり得る。
「ヒント。森の中」
ヒントがもらえたけど、このエリアの七割は森だ。三割は除外されたと前向きに思えばいいのかな。そう前向きに思うことにして、僕はうねった木の根に腰を下ろした。
「ちょっと休憩します」
メリッサさんに断ってバックパックを下す。携帯食を取り出して、腹ごしらえ。
普通ならマンションに帰ってゆっくりと休むんだけど、今は昇級試験中だから携帯食で済ませる。喉の渇きを缶コーヒーで潤す。
携帯食がメープル味の甘いものだったので、缶コーヒーはブラックにした。
メリッサさんはエネルギーゼリーを口にしていた。
しかし、今さらだけどダンジョンの中もゴシックな服なんだ。あれで防御力はあるのだろうか?
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