外道? 悪党? だからなに?

nama

第一章 すべての始まり

第1話 プロローグ

主人公は犯罪者側の人間であり、性格は最悪です。

暴力表現があります。

主人公のキャラ付けとはいえ、犯罪被害者を嘲笑う表現があります。

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

以上の事を理解の上、全て自己責任での閲覧をお願い致します。





「まったく、昨日はどうかしてたな」


 そう呟く彼の手元には一本のVRバーチャルリアリティのソフトがある。


『Final Factor 2』


 ネットで調べてたところ、ナンバリングタイトルとしての知名度どころか公式ページすら無い。

 マイナーな同人ソフトのようなソフトだ。

 少なくとも国産のゲームでは無いという事は、パッケージに書かれているキャッチコピーで読み取れる。


『なんと、あの傑作が完全日本語化!』


『豪華声優陣による完全フルボイス!』


『自由な行動が可能! 君には無限の選択肢が!』


『種族や能力を自由自在にカスタマイズ可能!』


『前作よりも広大なマップ!』


『ヨーロッパ大陸をモチーフにした異世界で、君は旅をする!』


 どう考えても地雷である。

 ゲーム内容に深く言及しないキャッチコピーから漂う、あからさまなクソゲー臭。

 自分でも何故買ってしまったのか……。

 パッケージを見直しても納得いかなかった。


 当初は軍の仮想演習用に開発された、脳に電気信号を流して本物のように錯覚させるタイプのVRMバーチャルリアリティマシンが医療用などを経て、ついに家庭用が発売される際に問題点として話題になった事がある。

 従来の方式の|VR≪バーチャルリアリティ≫機器に比べ、新式のVRソフトは開発費が高騰し、ソフト開発を行うサードパーティーの参入が危ぶまれたのだ。

 その事態の対処として、ソフトウェア開発キットを開発会社が公式ホームページにて、地面パターンのような環境素材からゲームを作るのに便利な小物などを含め、それなりの知識がある者なら誰でも作れるように開発素材を無料で配布した。

 これにより大手企業だけではなく、個人や少人数での開発者も現れる。

 その内容は玉石混交であり、”クソゲー以下の何か”と見向きもされないような取るに足らない物もあれば、個人で開発された物であっても、開発資金を集められるような侮れないものがあった。


 しかし企業としてソフト開発を行っている場合は良いのだが、少人数での開発の場合は販売ルートが限定的な物となってしまう。

 安全性を確認する事も含めて、VRMの開発会社が生産、販売を代行するものの、その流通数は非常に限られたものとなる。

 そんなソフトには一期一会の気持ちでいなければいけない。

 次に店に行った時に陳列棚に残っているとは限らないし、再販されるとも限らないのだ。

 だからついついマイナーなソフトを手に取る人も少なからずいる。


「とはいえ、こんなソフトを買おうなんて思わなかったんだけどなぁ……」


 彼は別にクソゲーマニアという訳ではない。

 むしろネット上で評判の良い作品や、興味のあるジャンルで無難そうなゲームを買うという冒険をしない性質であった。

 そんな彼が、仕事帰りに寄ったゲームショップの入り口付近にあったワゴン。

 そこに無造作に積まれていたゲームの中から、このどうしようもなさそうなゲームを自然と取ってしまったのだ。


 ワゴンセールになっていたとしても、VRのソフトは決して安くない。

 開発費が嵩むからだが、それでも従来のTV画面に映すような物とは一線を画す存在だ。

 多少値が張ろうとも、VRのソフトにはそれだけの価値はある。

 ……普通のゲームならば。


「成人指定のレーティングマークがあるし……。エロ要素はあるのかな? 暴力要素だけの可能性もあるか……」


 成人指定とはいえ、エロに関する物とは限らない。

 暴力表現や反社会的な行為の表現なども年齢制限の対象である。


 だが彼がそう思ったのも仕方ない。

 従来の物よりも、ずっとリアルなアダルトゲームの存在が、VRMの一般人への普及に役立っていたのだ。

 実家住まいであるにも関わらず、彼がVRMを購入したのもそれが理由だった。

 そこそこ良いグレードの新車を買える価格帯にも関わらず、男女問わずそれなりに売れていた。


「もったいないから、とりあえずやってみるか」


 VRのソフトをスロットに挿入し、ベッドに横になってからヘッドマウントディスプレイを被る。

 ゲーム起動時の設定等は、ディスプレイに表示されるタイプの従来の画面で行い、ゲーム本編はヘッドマウントディスプレイから頭部に送られる電気信号によって行われ、電気信号を頭の中、直接脳に送り込み視覚や触覚などに現実であると錯覚させる。

 VRMの開発初期に”恩赦を餌に多くの死刑囚達を廃人にしてきた”と噂される仕様であった。


 そのため、ネットからは切り離されて、単体で動作するスタンドアローン方式になっている。

 ハッキングされた場合や、ウィルスに感染した場合に起きる被害が大きいからだ。

 ソフトのアップデートが必要な場合は、パソコン経由で専用のソフトによる多重のセキュリティチェックをされてから更新される。

 製品化された今でも、悪意のあるプログラムによる危険性があるとされている。

 にもかかわらず、VRで遊ぼうとする人間が多いのはそれだけの魅力があるからだ。


 それに今では技術が確立され、異常事態が発生しても脳を破壊して廃人になるような事にはならず、外部サポートによって安全に復帰させる事ができるようになっているらしい。


「まずは名前か」


 キャラ名:ゾルド。


 本名である佐藤俊夫さとうとしおから取った名だ。


 ――砂糖と塩。


 学生時代はそのようにからかわれる事もあり疎ましく思っていたが、社会人となってからは前に押し出していった。

 何と言っても取引相手の覚えが良い。

 飛び込み営業で嫌がられても、名刺を出してしまえば相手には微かな笑みが零れる。

 そこから話を広げていくきっかけとして使えるのだ。

 今となっては好ましく思えるくらいになっていた。

 それ以来、塩の英語読みである”ソルト”に濁点を付けて”ゾルド”としてハンドルネームとして扱うようになったのだ。


「次に種族か。弱いのでやる気分じゃないな」


 そう呟くと適当に種族リストを流し読みする。

 人間は武器や魔法もそれなりに使えるが、肉体能力、魔力ともにそこそこレベルで纏まっている。

 獣人は肉体能力は高いが魔力が無い。

 エルフは魔力が高いが肉体能力が低い。

 そんな感じにそれぞれの種族に特色を出そうとして能力値が設定されているようだ。


「魔神にでもしておこうか。天神とかだと、善人プレイを要求されたりしそうで面倒だし」


 そんな中、全ての能力が高い天神と魔神から、魔神を選ぶのは当然だったかもしれない。


 ”クソゲーっぽい、こんなゲームをチマチマやるのも馬鹿らしい”という気持ちがあったのも否めない。


「スキルを3種類選べか。気に入らなければまたやり直せばいいし、適当でいいや」


 そうして選んだのは、


・お得用体力スキルセット。

(体力増加。スタミナ消費量減少。自然治癒能力。※自然治癒能力は魔力を使ってHPの自動回復を行います)


・お得用魔法スキルセット。

(魔力増加。使用魔力減少。魔力回復速度増加)


・精神異常耐性。

(洗脳や恐慌状態等、精神異常を防ぐ効果)


「特に精神異常は怖いからなぁ……」


 過去に別のゲームで恐慌状態に陥った際に操作ができなくなり、ランダム移動の末に肥溜めで溺れ死んだ事を思い出す。

 ゲームとはいえ、いつ思い出しても身震いする恐怖体験であった。

 あんな思いをするくらいなら、スキル枠を1つ使ってでも防ぎたいと思うのも当然だろう。

 それに魔神なんていうラスボスっぽい種族なら、デフォルトで多くのスキルも付いているだろうからこのスキルを選んだ。


「装備も一番良さそうなのを選んでおこう」


 そんな彼が選んだのは魔神装備セット。

 種族と合う装備セットという事もあるが、魔力を使用して自動修復するというのも修理の面倒が無くて良いからだ。

 装備に耐久値が設定されているゲームの場合、性能だけが尖った物よりも、ほどほどの性能で耐久性やメンテナンス性が高い物の方が利便性が高い。

 だがその装備の見た目はシ○の暗黒卿とでも言うべき黒尽くめの姿であった。


・邪聖剣リ・アニメイター。

(命を失った者に再び命を吹き込む事ができる)


・魔神のローブ。

(全てのダメージを半減。装備修復機能、空調機能や収納機能もあり、快適な旅を楽しめます)


・魔神のグローブ。

(防刃製のフィンガーレスグローブです)


・魔神のブーツ。

(防水、防臭加工済み。さらに防カビ加工をお付けします。そして今だけ、今だけのご奉仕で消音、衝撃吸収加工も追加しております)


・洗浄のペンダント。

(初回限定サービス。いずれかの装備セットをお選びの方にのみオマケします。これで返り血や泥で汚れても簡単洗浄。発動させる事を意識して【クリーン】と唱えるだけで使えます。頑固汚れも完全洗浄、きれい好きな貴方もこれで安心。やったね、貴方の魔法デビューはこれに決まり!)


「なんだよ、これは……。防刃のフィンガーレスグローブってなんだよ。指先まで保護しろよ」


 原文か日本語の翻訳スタッフの悪ふざけか……、アイテムの解説欄には苦笑いしか浮かばない。

 この時点でゲームの程度が知れる。


「その分諦めもつくか……、やるだけやってさっさと売り飛ばそう」


 設定を終了すると、ディスプレイに”最終目標 ローマ、神教庁にいる天神を倒せ”と表示される。

 おそらく種族に魔神を選んだからだろう。


「最後までやるかはわからないけどな」


 俊夫はまったく期待しないまま、いつものようにゲームを起動した。

 それが異世界への片道キップだと知らずに。


 起動が終わった時、俊夫の体は消え、ヘッドマウントディスプレイがベッドに落ちた。

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