僕には女神のような人なんですけどね……
「野郎三人でトラックに乗って走っても、なんにもスッキリしないんだが」
そんな松本の言葉を聞きながら、一緒にトラックに乗っている佐久間は、はは……と笑った。
「あの美人のねーさんは、なに考えてんのかな?」
「雨宮さんですか?
あの人がなにか考えてるのかなんて。
常人にはわからないと思いますね」
松本はちょっと上を向いて考え、
「……神秘的、と言えば聞こえがいいが。
得体が知れない感じだな」
と言う。
「でも……可愛い人ですよ」
照れながら佐久間は言った。
「まあ、顔は可愛いが……」
「事件の推理してるときとか、生き生きしてて。
僕らの仕事は推理するって言うより、足で証拠を集める方がメインなんですけどね。
子どものころ、ミステリー読んでたときは、あんな風にワクワクした顔して読んでたな~とか、雨宮さん見てると思い出したりして」
初心にかえります、と佐久間は言ったが、松本は、より眉をひそめる。
「殺人事件で生き生きする女、不気味なんだが」
「なにを言うんですか。
雨宮さんは現実の殺人事件は嫌いなんですよ。
彼女が望むのは誰も死なず、誰も傷付かず、ちょっとミステリアスな事件が降ってくることです」
ねえよっ、そんなものっ、と犯人に怒られる。
「どんだけ犯人に負担かけりゃ気が済むんだ、あのねえさんはっ」
確かにそれだけ縛りがあったら、事件起こす方は大変ですよね。
でも、別に松本さんが起こしてくださらなくていいんですよ、と思いながら、はは……とまた佐久間は笑った。
松本は窓の外を見、ふう、と大きな溜息をつく。
「あいつに金貸したのが運の尽きか……」
えっ? と水宗とふたり振り向いた。
「金銭問題って、お金貸した方だったんですかっ」
「お前らの頭ん中の俺はどんだけ極悪人だ。
返したくなくて殺したんじゃねえ。
困ってるっていうから、俺も社会人なりたてでたいして貯まってもない、なけなしの金を貸してやったのに。
「そういえば、なんで水宗さんのトラックに麻縄の残りも投げ捨てなかったんですか?」
「人殺したの初めてだからよくわかんなかったんだよ。
どの程度で死ぬのか。
また起き上がってくるかもしれねえだろ」
初心者だからな、と言う松本に、はあ……と言ったとき、松本が言った。
「ところで、なんで俺が小太りの中年オヤジになってたんだよ、ケーサツではっ」
「あ、それ確認したんですけど。
あの作業着着た感じが、近所のオジサンの浜中さんによく似てたから。
そのくらいの歳だろうと思ったって、鑑識の奴が」
「じゃあもう、その浜中さん逮捕しろよ~っ」
と松本が叫んだとき、目的地に着いたのか、水宗がトラックを止めた。
あれ? という顔を松本がする。
「此処、あいつのばあちゃんちだ……」
三人は、日本家屋の庭に昼の光に照らされ、そびえる二宮金次郎さんを見た。
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