慣れないことをしてみた
子どもにヒントを出されている時点で問題があるな、と思いながら、将生は猫町3番地のカウンターであの資料を熟読していた。
昨日から見ているのだが、よくわからない。
ポンコツ――
そんな言葉が脳裏をよぎった。
いやいや。
俺は推理、本業じゃないし。
龍哉は、自分がたまたま知っていたことがあったからわかったと言っていたな。
龍哉が知っていて、俺が知らないこと。
なんだろう?
いや、俺が絶対知らないとも限らないか。
喜三郎さんのことだろうから。
何処かで見聞きしているかもしれない。
将生は、喜三郎やみんながここでしていた会話や言動を思い出してみた。
引っかかる単語が幾つかあった。
今、視界に入った言葉が、何度かこの店の中で出ている。
資料に丸をしてみた。
生け花
カラオケ
囲碁
将棋
コーラス
陶芸
……うむ。
気がついたら、上から誰かが覗き込んでいた。
さっきまで、窓際のおばちゃんたちと話していた琳だ。
「コミュニティセンターの資料ですね」
ふふふ、とすでになにかわかっているらしい琳は笑う。
そのまま、また行ってしまった。
待てっ、雨宮っ。
なにかヒントをっ。
いや……、いや、いかん。
自力でなんとか、と思ったとき、今度は、斜め後ろに人の気配を感じた。
龍哉だ。
自分とその資料を見て、にやりと笑う。
そのまま行ってしまった。
お前ら、同じ行動をとるなっ。
そして、龍哉っ。
お前、気づかない間に、デカくなってるなっ。
斜め後ろに立つ人影を一瞬、大人かと思ってしまった。
なんだかわからないが、おのれ……と思いながら、将生はまた資料に目を落とした。
おぼろげながら、頭に浮かんでいることはあるのだが。
資料が、自分が欲しい感じにまとめられていないので、何度もあちこち見るはめになり、頭に入ってこない。
すっと琳が背後に音もなく立っていたようだった。
「……くそっ。
もっとわかりやすいように書けないのかっ」
ともらした自分に、いきなり後ろから笑って言う。
「大抵のそういうモノは、事件の推理のために用意されてるわけではないですからね」
私もいつも苦労します、と言ったあとで、
「では、宝生さんに、ひとつヒントを」
と言う。
「いや、いらない」
そうですか、と行こうとする琳の腕を反射的につかみかけ、慌てて離した。
そういえば、あんまりこいつに触ったことないっ、と動揺する自分に琳は言う。
「喜三郎さんは、うちのおじいちゃんとこにもよく来ます」
だが、それだけ言って、行ってしまう。
待てっ、今のがヒントかっ?
と思ったが、
「宝生さんには、いいヒントになるはずですよ~。
いらっしゃいませ~」
と言いながら、琳は新しく来た客の方に行ってしまった。
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