ちょっとヤバイ状況です……



 せっせとブレンドを淹れたあと、カウンターの前に立つ琳は傘を手に言った。


「私が犯人で、この傘が凶器なら、先端で喉を突いたりしないと言ったのはですね」


 そう説明をしようとして、琳は、ハッとする。


 ヤバイ。

 そういえば、この人たち、警察の人たちだった、と今更ながらに気がついたからだ。


 マズイな、と思った琳は、なんとか話を誤魔化そうとする。


「えーと、……特に被害者の人を殺す理由がないからです」


 なんだその話の着地点、という顔を将生がしていた。


 そして、ふと気づいたように言う。


「待て。

 そういえば、なんか変だぞ、お前の傘の持ち方」


 ひっ、何故、あなたはそう無駄に鋭いのですかっ。


 立ち上がった将生は傘の持ち手をつかむ琳の手首を握ってきた。


 だが、すぐにその手を離す。


「いや、その……まあ。

 ……なんか変だろっ」


 しどろもどろになる将生を佐久間が、じっと見ているが。


 目線が何故か冷ややかだ。


 その視線に押されるように、将生は慌てて、

「ちょ、ちょっと貸してみろっ」

と今度は琳の手をつかまずに、傘をつかんできた。


 あっ、と思ったとき、将生は傘を琳が持っていたように握っていた。


 傘の柄を親指を下にして右手でつかみ、傘の開く部分を左手でぎゅっとつかむ。


 これからどうするつもりだったんだろうな、と将生の顔には書いてあった。


 将生は少し悩んだあとで、両方の手を回してみていた。


 やっぱ、その体勢だとそう動かしますよね~と琳は苦笑いし、覚悟を決めたが。


 なにも起こらない。


 おや? と思った琳は、

「貸してください」

と将生からそれを受け取った。


 今、将生がやったように捻ってみる。


 が、やはり、なにも起こらなかった。


「宝生さんっ。

 これ、私の傘じゃありませんっ」


 そう琳は叫んだ。


 なにっ? と将生たちが琳を見、


 隅の方で、なにっ? とすり替えた犯人も身を乗り出していた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る