では、推理してみよう


 今、この店内に犯人が……?

と思いながら、将生は店内を見回した。


 入り口付近に陣取っているOLの集団。


 雑木林とは反対側の窓際の席で、イヤホンで曲を聴きながら、ノートパソコンでなにかを打っている男。


 ウォーキングの格好の年配の夫婦。


 そして、雑木林側の窓際で、カレーを食べながら、雑誌を見ている若い男。


 ……どうでもいいけど、美味そうだな。


 先程から、珈琲の匂いをかき消すほどのカレーのいい香りがしている。


 その視線に気づいたのか、琳が、

「カレー、ご馳走しましょうか?」

と言ったあとで、すぐに、佐久間さんも、と言う。


「えっ? いいんですかっ」

と佐久間が身を乗り出す。


 脱線するな、と思いながら、

「……お前の思う疑わしい人物が、今、この店内に居るんだな?」

と琳に言った。


 うっかりその人物と目を合わせてしまわないために、あまり顔を上げないでいるのだろう。


 はあ、と琳は曖昧に返事をしてくる。


「でも、困りましたね。

 先程も申しましたように、私、お客様の秘密は暴かない主義なので」


「待て。

 じゃあ、この店の客になったら、犯人だとわかっても、告発しないということか」


「……そういうことになりますよね」

と困ったように琳は言い出した。


「……仕方がないな。

 お前が疑うに至った状況を説明してみろ。


 俺が推理してやろう」


 確かな主義主張を持って仕事をするのは悪いことではない。


 琳にそれを曲げさせるのも悪いような気がして……


 というのも、よく考えたら、おかしな話なんだが。


 とりあえず、琳が気がついたこと、というのを聞いてみることにした。

  



「実は以前ですね……」

と琳は何故か前のめりになり、コソコソと言ってくる。


「すごい花が庭にあったことがあるんですよ」


「すごい花ってどんな花だ」

と将生もつられ、身を乗り出して、小声で聞いた。


 琳の前髪が自分の前髪に触れそうになり、どきりとする。


 それを見ていた佐久間が、

「あ、なんなんですか。

 僕も入れてください」

とよくわからないまま、頭を突っ込んできた。


 今、入ってきた客が居たら、なんなんだ、この店は……と思われることだろう。


「庭にあったって。

 そういえば、お前が植えてるわけじゃないんだろ? 此処の庭」


「そうなんです。

 業者の人が管理してるんですけど。


 他所よそに納入する予定が、いらなくなったから、次が見つかるまで、ちょっと置かせておいてくれって言われたんですよね~」


 たまに不思議な植物を置いていくんですよね、と眉をひそめる琳に、


「怪しい植物を密輸してるんじゃないだろうな、お前んちの庭師」

と言うと、


「いえいえ。

 そういうわけではないんですが」

と笑う。


「で、業者の方が、そこの雑木林側の窓の外に、簡易の温室みたいなのを作って、サイコトリア・エラータを並べてたんですよ。


 きっとお客さんも面白がるよって言って」


「サイコトリア……?」




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