誰に気を使ってるんだ、俺は……

 

「サイコトリア・エラータ。

 ご存知ないですか?


 サイコトリア・ ペッピギアーナとも言う、南米の赤い花なんですが。


 ぽってりとした赤い唇にしか見えない花で、なかなかセクシーな花なんですよ。


 それがずらっと並んでたんです、窓の外に。


 珍しい光景だから、お店のお客さん、みんなが見てたんですけどね。


 ……ていうか、みんな、二度見してましたけどね」


 まあ、想像しただけで、異様な光景っぽいからな。


 窓の外に大量の唇。


 風に揺れたりしたら、なお、怖い。


「ところが、ひとりだけ、そちらを見ない人が居たんです。


 花の色も派手だし、見たくなくても、つい、見てしまうはずなのに、頑なに見ない人が――」


「……それは単に、不気味なんで、見なかったんじゃないのか?」


「そうかもしれませんね。

 でも、次の日にはもう運び出すって言うから、今しか見られませんよって言ったんですけどね~」


「嫌だと思うが。

 窓の外で大量の唇が揺れてたら……」


「そうですよね。

 だから、きっと、私の気のせいなんですよ。


 でも、そのお客さん、いつも窓際に座られるから、庭が好きなんだと思ってたんですけど。


 そういえば、庭の方見たことないんですよね」


 いや……その一言で、誰の話なんだかわかってしまったんだが……。


 今、この店内に居る人の中に、琳が犯人と疑っている人物が居る。


 その人は、いつも窓際に座っていて、窓の外を見ていない。


 ひとりしか居ないじゃないかっ。


 っていうか、聞こえてないかっ? 今っ、と将生は振り返ったが、その男は相変わらず、雑誌を読みながらカレーを食べていた。


 一応、小声なのだが、琳の声はよく通るので、あの辺りまでは聞こえていそうなのだが。


「それでですね。

 私なりに、今回の事件を推理してみたんですけど」

と琳は言い出す。


 ……大丈夫か?


 犯人がそこに居る……


 かもしれないのに、怪しい推理などご披露して、と将生は、何故か犯人(?)を気遣いながら、琳の推理を聞く。




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