それは推理というより決めつけではっ!?
「埋められていたのは、認知症のご老人です」
琳はいきなり、そう決めつけて語り出す。
「待て、こら。
まだ、五十代以上の男性としかわかってないぞ」
そう言ったが、琳はそんな将生の言葉を無視して続けた。
「ある日、ご老人は犬を連れて、散歩していました。
ところが、認知症を発症していたご老人は、その日、延々と歩き続けてしまいました。
認知症の方は、疲労を感じにくくなっているので、驚くほど遠くまで歩いてしまったりするらしいですね。
眠りもせず、延々と歩き続け。
家族がそんなところまで行ってないだろうと思うところまで行って、なかなか発見できなかったりすると聞きました。
だから、亡くなられたご老人は遠方から歩いて来られていた、一人暮らしでお金持ちのご老人です!」
いや、何処が『だから』だっ。
何故そうなるっ!?
まあ確かに、側で見つかった犬は立派な犬だし、首輪も立派だったが。
金持ちでなくとも充分買える
「で、そのご老人は金銭感覚も狂っておられたので、かなりの大金を持ち歩いていたんですよ」
「……何故、そんなことがわかる」
胡散臭げに将生は訊いたが、
「埋められてたからです」
と琳は言った。
「金が?」
「ご老人が」
「……ちょっと俺にもわかるように説明してくれないか?」
「そのご老人は大金を持ったまま、歩き続け。
この雑木林まで来たときに、心臓発作か脳溢血で亡くなってしまわれたんです。
そこにお金に困った苦学生か。
大手術をしなければならない妹かなにかがいる人が通りかかったんです。
大丈夫ですか? と彼は老人に駆け寄り、介抱しようとしましたが。
老人は既に事切れていました」
いや、お前、ふわっと誤魔化しながらしゃべってるつもりだろうが。
『彼』って言ってるぞ。
男であることは確定じゃないか。
「身許のわかるものを、と彼が老人の持ち物を見たとき、なんとそこには、大金がっ」
しかも、語り口調が芝居がかってきて、声も大きくなってきてるんだがっ、
と将生はハラハラしながら、後ろを窺ってしまった。
「非常にお金に困っていたその人は、いけないことだと知りつつも、その金に手をつけてしまいます。
そして、老人が見つからないよう、雑木林に埋めました」
「待て。
持ち歩いてる程度の金で、大手術が出来るのか?
それと、犬はどうした?
死んだ飼い主に
そう問うと、琳は困った顔をする。
「逃げようとした男は追いかけてきた犬を殺して、慌てて埋めた。
犬の鑑札に気づき、首輪を外して持ち帰ろうとしたが。
赤い首輪だけを持って歩いていたら目立つとでも思ったのか。
首輪だけ、あとで他の場所に埋めたんじゃないか?」
仕方ないので、琳の怪しい推理に付き合ってやったのだが。
琳は、お前が犯人か、と問いたくなるような思い詰めた顔で言ってくる。
「……あの、なんとか犬を殺したくないんですけど」
「何故だ」
「うちのお客様なので――」
そう琳が言ったとき、あの青年が雑誌を見たまま、笑い出した。
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