あの人が師匠です


 琳があまり店をあけていられないというので、みんなで戻ることになった。


 子どもたちは、ご褒美にジュースをご馳走になるそうだ。


 ……俺にご褒美はないのか、雨宮、と思いながら、将生は琳の後ろをついて歩く。


 先程の龍哉が子どもらの一団から少し距離を置いて歩いていると気づき、

「おい、小坊主」

と呼びかけてみた。


 誰が小坊主だ、という顔で振り返る龍哉の目は、子どものくせに、妙にわっている。


「お前、なんで、犬の骨から少し離れた位置を何ヶ所も掘ってみた?」


「師匠なら、そうするかなと思ったからだよ、おじさん」


 喧嘩腰だな、と思ったが、最初に喧嘩を売ったのは、こちらのような気もしていた。


 可愛い顔なのに落ち着き払っている龍哉を見て、いい男は子どもの頃から、いい男なんだなと思ってしまったからだ。


 そして、一応、子どもなので、雨宮にベタベタできるポジションなのも気に入らない。


 ……と佐久間なら思うだろうな、と思い直しながら、将生が、


「師匠って誰だ?」

と訊くと、


「琳さんに決まってるだろ」

と龍哉は言う。


「……雨宮が?

 なんの師匠だ」


「謎解きのだよ。

 琳さん、昼間、再放送してる二時間ドラマの犯人もトリックもすぐに当てられるんだよ」


 ……待て。

 それくらいなら、俺にでも当てられる。


「夜もたまに、琳さんとみんなでLINEしながら見てるんだ」


 おい、小学生。

 もうスマホ持ってんのか、と思いながらも、ちょっと混ざりたいな、と思ってしまった。


 しかし、二時間ドラマの謎解きなんぞ、誰にでも出来そうだが。


 こいつらも男だ。

 あんな美人と一緒に謎解きをする、というのがいいんだろうな、と将生は思った。


 自分も雨宮みたいな女が子どもの頃身近に居たら、こいつらみたいに崇拝してたかも……。


 いや、もう大人だから、絶対にしないんだが……っ、と思いながら、将生は子どもたちと店に入って行く琳のすらりとした後ろ姿を眺めていた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る