そんな目で俺を見るな

 

「そうですか」

と呟きながら、犬の遺骨を見下ろす琳も、自分と同じように考えている気がした。


「でも、きっと、ちゃんと大事に飼われてた犬ですよ。

 それがなんでこんなところに埋められてるんですかね?」


「雑木林だからじゃないのか?」


「でも此処、この子たちの通学路なんです」

と琳は林の中、今自分たちが立っている落ち葉まみれの小道を指差す。


「この子たち、行き帰りに遊ぶので、この林の中、踏み荒らすんですよ。

 此処らの人間なら、こんなところに愛犬埋めないですね。


 此処に犬埋めた人は、土地勘のない人ですよ。


 でも、それも変でしょう?

 自分の大事な犬を縁もゆかりもない土地に埋めだなんて」


「じゃあ、迷子になって……」


 そう言いかけ、自ら否定する。


「いや、違うか」

と将生は穴を見下ろした。


 明らかに誰かが埋めた感じだった。


 しかも、首輪が外され、少し離した場所に何故か隠すように埋められている。

 鑑札も迷子札もないようだ。


 犬の身許を隠すために、首輪ごと鑑札や迷子札を外したのか?


「誰かがうっかり、この犬をはねて、飼い犬だと気づいて慌てて埋めたとか」


「そんな人なら、はねてそのまま行っちゃいますよ。

 相手は、人間じゃないんですから」


 その言い方に、ん? と思った。


「……お前、もしや、人間も一緒に埋められてるとか思ってないか?」


「思ってますよ。

 調べてみてくれませんか?」

と言う琳を胡散臭げに見ていると、琳は、


「お願いします、宝生さん」

とぐっと来るような瞳で、いつもより間近に自分を見上げてくる。


「宝生さん、私の推理が間違っていたら、なんでも――」


 な、なんでもいうこと聞くとか? と勝手に先のセリフを妄想し、どきりとしていたが。


「なんでも、うちの店で好きな飲み物頼んでいいですよ」


「……いや、いまいち、やる気にならないんだが」




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