何故、これが事件だとわかる

 

 将生が子どもたちに連れて行かれたのは、琳のカフェの後ろにある小さな雑木林だった。


 もうかなり紅葉していて、地面に少し葉も落ちている。


 将生は琳の店があるのとは反対側の雑木林の出口を振り返ってみた。


 住宅街の道が見える。


 あちら側にも住宅街や商店街があるようだ。


 子どもたちは、向こう側に住んでいるらしく、平日は、この雑木林の中を通って、学校に通っているようだった。


 こんな小道が通学路なのか、と思ったが、そういえば、自分も家と家との間の狭い砂利道が通学路だったりしたっけな、と思い出す。


 子どもたちが毎日通る、その小道の辺りは、木々が少なく、日の光が結構差し込んできて、明るい。


 雑木林も小さいし、まあ、これなら、そう危なくもないかな、と思っていると、


「おにーさん、おにーさん」

といまどきの子どもらしく、要領よく、おにーさんと呼び変えながら、子どもの一人が手招きしてきた。


「こっちだよ」


 子どもたちが骨の一部を見つけて掘ったとおぼしきその穴には、犬の骨の他の部分が覗いていた。


 その周りも何ヶ所か軽く掘ってある。


 そのせいで、近くに埋めてあった首輪も見つけたのだろう。


 ……しかし、なんで、周囲を掘ってみた?


 腰を屈めて、それらの穴を見ていた将生は、首輪を見つけた、と言ってきた利発そうな少年を見上げ、


「なんで、周囲を掘ってみたんだ?」

と訊いてみた。


「いや、それが……」

と彼が言いかけたとき、


「お待たせしてすみませんーっ」

と琳が大きなスコップを手にやってきた。


「はい、宝生さん」

と笑顔で渡される。


 ……何故、俺が、と思いながらも、掘った。


 派手に掘って割れでもしたら、犬が可哀想だなと思い、そっと掘っていると、

「周囲ぐるっと掘ってみてください」

と琳が指示してくる。


 何故、お前が命令する……と思いながらも掘ってやった。


 店の黒いエプロンを外した琳が新鮮だったから


 ――では、決してない。


 琳に言われるがまま、掘ってみたが、周囲にはなにもなかった。


 琳が首輪を持ってきた少年、大橋龍哉おおはし たつやを振り返り、訊いていた。


「この首輪、そこの穴にあったんだよね?」


 先程、龍哉に聞いた場所を琳は指差す。


 犬が埋まっていたのより、少し奥の小さな穴を見ながら、うん、と龍哉は頷いた。


「この首輪、見つけたとき、このくらいのキーホルダーみたいなのとかついてなかった?」

と指で、小さな楕円形を作り、琳はその少年に訊いていた。


「ああ、鑑札とか?」

とすぐに理解した龍哉が訊き返す。


「なかったよ。

 迷子札も」


 そう、と頷いた琳は、こちらを見上げ、

「宝生さん、事件かもしれませんよ」

と言う。


「事件?

 この犬殺されたっていうのか?」


 それには答えず、琳は言ってきた。


「この首輪、高いんでしょう?

 犬の種類、私にはわかりませんが、宝生さんはわかりますか?」


「……犬は専門じゃないから、ぱっと見ただけじゃ、断定することはできないが」


 そう言いはしたが、頭蓋骨の感じや骨格から、ドーベルマンとかの顔も身体もスリムな犬かな、とは思っていた。


 琳のように確証もないのに、ポンポン口に出すことは、立場上出来ないが。




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