デジャヴだろうか……?

 

 それから、二、三日して、ようやく現像してくれるという次郎吉の許に琳は行った。


 次郎吉のログハウスのウッドデッキでグレープフルーツジュースを飲みながら、すぐ側の森を眺めていると、暗室から、おーおーおー、と声がする。


「おっ、新田さんじゃないか。


 待てよ、小柴……


 いや、まさかな」

という次郎吉の呟きが聞こえてきた。


 ……なんなんだ、と思いながら、琳が暗室の扉に張り付いていると、いきなりログハウスの扉が開いた。


 近所のおじいさんらしき人が顔を覗ける。


「次郎吉さーん。

 行こう、時間だよー」

と言いかけたおじいさんは琳に気づき、笑いかけてくる。


「おっ、噂のお孫さんだね、こんにちは」


 いや、それ、どんな噂なんでしょう……と琳が苦笑いしたとき、暗室から次郎吉が叫び返してきた。


「おーっ。

 そうじゃったっ、そうじゃったっ。


 すぐ行くから、先行っといてくれー」


 おじいさんが去ったあと、ようやく次郎吉が暗室から出てきた。


「写真はまだ乾かん。


 琳、カラオケの時間だ。

 お前も行くか」


 もちろん琳は行かなかったが、次郎吉を送るはめになった。


 山道を少し車で走ると、夜には電飾でピカピカ光り出しそうなカラオケスナックが現れる。


 ……おじいちゃん。

 都会の喧騒から離れて暮らしたいって此処に来たんじゃなかったの。


「すまんな、ありがとよ、琳」


 いそいそ降りてカラオケに行こうとする次郎吉を琳は呼び止める。


「待って、おじいちゃんっ、写真どうだったのっ?」


 次郎吉は振り返り言った。


「あれは新田さんじゃ、琳。

 もうひとりは、そのまんま、合っとる」


 ……新田さん?


 どっちが? 誰が?

と琳が考えている間に、次郎吉は店に入ってしまい。


 日が落ちてきたせいか、メンバーが揃ったせいか、すごい配色のスナックの電飾が派手に光り始め、なんだか怖い……と思って、そのまま帰ってしまった。


 宝生さん辺りに、ツメが甘い、と罵倒されそうだな、と思いながらも。

 




「ツメが甘いな」


 案の定、そう言った将生を前に、既に一度言われた気になっていた琳は、


 これはデジャヴか……?

と思っていた。


「ちゃんと確かめてこい」

と腕を組み、カウンターで言い放つ将生に、でもですね、と琳は反論を試みる。


「あのギラギラのスナックに入っていくのも怖かったですし。

 お店を見ていただいていた喜三郎さんにも、そう長くやっていただくわけにも行きませんでしたしね」


「……また喜三郎さんに店任せてたのか」


 渋い顔をする将生に琳は言った。


「あ、ちゃんと、喜三郎さんにはお礼してますよ~。

 珈琲チケットの綴りをあげたり」


「珈琲チケット?

 この店にそんなものあったのか?」


「たまーに個人的に発行する私の手作りのやつですけどね」

と言って、琳は笑う。






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