琳の推理2


「そうです。

 安達さんは、ある程度、殺しかけて、もう気が済んだと、みんなに言うつもりだったんだと思います。


 ま、想定より早く、小柴さんが出ていってしまって、なにもしないうちに終わっちゃいましたからね。


 それで、気が済みましたと言えなかっただけなのかもしれないですね。


 ああいう人のいい人は連れていっては駄目ですね」

と琳が苦笑いして言う。


 待て、と思う。


 それだと当初から連れていく予定だった、俺も佐久間も悪い人になってしまうのだが……。


 と将生は思っていたが、今は、事件の全貌を語ってもらうのが先なので、黙っていることにした。


「そう。

 安達さんは、絶対、確実に、自らが疑われることなく、里中さんを殺したかったんです。


 神原七重さんが死んだ原因でありながら、ちっとも自分でピンと来ていない里中さんを。


 でも、里中さんが死ねば、自分が疑われる。


 それだけは避けたいことでした。


 小柴さんに聞いたんですけど。

 安達さんって、すごく優秀な学生さんだったらしいですね。


 そんな安達さんの将来を殺人犯になることで潰してしまうのは、神原七重さんの本意ではないでしょう。


 安達さんは復讐したい。


 でも、神原さんを悲しませたくはない。


 だから、どうしても犯人になりたくなかったんです。


 安達さんは今回の件が終わったら、気が済んだと言って、この街から出て行くつもりなんだと思います。


 そして、真面目に働き、幸せな家庭でも作るかもしれませんね。


 その数年後、里中さんは死ぬことになるでしょう。


 ある程度、復讐をして、すっきりして、今は幸せになっている安達さんの仕業だとは誰も思いません。


 いえ、多少は疑われるかもしれませんけど。


 きっと、安達さんは、完璧なアリバイを持って、やるつもりでしょう。


 行きつけの店の人たちに犯行計画がバレて止められるマヌケな男が思いつかないような完璧なアリバイを」


「雨宮。

 そこまでわかっていて、何故、止めなかった」


「この段階で、止める必要はないと思ったからです。

 実際、これですっきりするかもしれませんしね。


 それに、安達さんは悪い人ではありません。


 いや、殺人犯になろうとしている人を悪い人でないというのも問題があるかもしれませんが。


 安達さんは純粋な人です。


 自分の恋人だったわけでもない、憧れの人のために、人を殺そうとするほどに。


 なにかこう……見守りたくなるじゃないですか」


 いや、しかし……と言いかけた将生に、琳はカウンターから身を乗り出し、言ってくる。


「そんなことより、宝生さん。

 カップ麺食べませんか?」


「今か」


「この間、買ってきてくださったカップ麺、まだ取ってあるんですけど。

 ずっと食べたくて」


「じゃあ、食べればよかったじゃないか」


「でも、私、宝生さんと食べたかったんです」


 え、と将生は止まったが――。


「だって、食べ物たくさん買うときって、自分の好みのものも選ぶでしょう?

 絶対、宝生さんが食べたいのもあると思って」


「いや、それは別にいいんだが……」


「私は豚骨のどれかがいいです~」

と言いながら、琳は湯沸かしポットに水を入れると、カップ麺を取りに奥へと行ってしまう。


 いや、人の話を聞け、と思いながらも、琳が入れ忘れたポットのスイッチを入れ、彼女が戻ってくるまで、ぼんやり外を見て待っていた。




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