残念なお知らせです


 はい、と先生に質問する小学生のように、地図を見ながら、琳が手を上げる。


 小学生と違うのは当ててもないのに発言しはじめるところだが、と思いながら、将生は琳を眺めていた。


「あの、水宗さんはよくこの辺りで車をとめられるんですか?

 さっき、車をとめるのにいい場所だとおっしゃってましたけど」


「そんなにしょっちゅうではないんですけどね。

 路駐禁止な場所ではないし、高級住宅地なせいか、道も広いし。


 とめても側の家の人も怒らないし」


「……側の家の方と面識があるんですか?」

と琳が訊く。


「ええ。

 こっち側の」

と水宗は笑顔で広い敷地を指差した。


 地図によると、水宗が車をとめたところは、二軒の家の境辺りだった。


「以前、あそこにとめて電話で話してたときに、お屋敷のおじいさんが出てこられて。


 すみませんって謝るついでに立ち話してたら、庭の話になって。


 庭の木の枝が伸びすぎて、すぐ道に出るのを気にしてらっしゃるようなので、切ってあげたらすごく喜ばれたんですよ。


 いつでも此処、とめなさいって言ってくださって」


 水宗は笑顔だったが、誰も笑っていなかった。


「あの~」

と言いにくそうに佐久間が言う。


 琳につられてか、小さく手を上げていた。


「さっきまで僕思ってたんですよね。

 なんだかんだで、この方関係ないんじゃないかなって。


 ただそこにとめただけの車って可能性、高いですし。


 雨宮さんとの通話履歴も残ってるだろうから、お二人の話が嘘ではないと証明できそうだし。


 単に車がピンクでゾウだから周りの人の印象に残ってただけだろうって。


 でもあの……」


 佐久間は地図を指差し言った。


「おじいさんが意識不明になってるの、こっちの屋敷なんですよね」


 佐久間が指差していたのは、今、水宗が言った老人の住んでいる屋敷だった。


「……面識、あったんですね。

 被害者のおじいさんと」


「雨宮~っ」


「ええっ?

 今の私のせいですかっ?」


 お前が余計な話を振るからっ、という将生の叫びに琳は言い返してくる。


「いやいやいや、大丈夫ですよっ。

 本当に水宗さんが犯人でないのなら、多少雲行きが怪しくなってきてもなんとかなりますよっ」


「そ、そうですよねっ。

 僕、あそこでちょろっと雨宮さんと電話で話して、怪しい人に絡まれただけですし」


 あっ、そうだっ、と琳が手を打った。


「じゃあ、その水宗さんに絡んできたパーカーの人がやっぱり犯人なんじゃないですか?」


「そうかもしれませんねっ。

 フードで顔隠してましたしねっ」


 そんな琳と水宗の話を聞いていたらしい窓際の席のおばさんたちが、

「あら、じゃあ、私も犯人だわ~。

 ウォーキングのとき、日焼けしないよう、フード深めに被ってるのよ~」


 いやだ、もう~と笑い合っている。


 その間、佐久間は水宗と琳のスマホの通話記録を確認していた。


「確かに、お二人が話されてるの、犯行時刻の頃ではありますね。

 まあ、犯行時刻、ザックリとしか出てはないんですが」


 そう言う佐久間に、水宗は、ホッとした顔をした。


「そうですよ。

 水宗さん、私と笑って話してましたし、犯人とかありえないですよ~」

と援護射撃しかけた琳だったが、ちょっと考え、


「まあ……笑いながらでも人殺せますけどね」

となにかを思い出しながら呟く。

 

 雨宮さん、被害者死んでません……と佐久間が青ざめ、


 僕、殺してません……と水宗が怯える。


「ほら、やっぱりお前がどんどん水宗さんをピンチにしてるじゃないか」


 そんな二人を見ながら、将生はそう呟いた。







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