犯人に疑われた原因は……


「娘がトラックをピンクでゾウにしたいと言っている、と社長に聞いたとき、止めるべきでした……」


 そう言い項垂れる水宗を見ながら、


 いや、問題なのはそこじゃない、と将生は思っていた。


「そうですね。

 ちょっと目につきすぎですよね」


 外に出た琳がピンクのトラックと白いゾウを見上げながら言う。


「もっと印象に残らないトラックだったら」


 そう残念そうに付け加えた。


 いや、だから、お前ら、そこじゃない、と将生は思う。


 なんでこいつら、現場から印象付けずに逃走することばかり考えてるんだ。


 大事なのは犯人か、犯人じゃないか、それだけだろうが。


 琳が水宗に向き直り訊く。


「水宗さんは犯人じゃないんですよね?」


「はい、たぶん。

 いや、なんの事件の犯人なんだかわからないんですが」


 水宗はどんな事件なのかも知らないようだった。


 そして、いや、お前も事件知らないだろ、と思うのに、琳は、

「わかりました。

 私が必ず、お助け致します」

と安請け合いをする。


 琳はその決意表明なのか、ぎゅっと水宗の手を握った。


 将生はその手をはたき落としながら言う。


「やめとけ。

 なんかお前、逆に水宗さんが犯人である証拠を次々と見つけてきそうだから」


 琳の手をはたき落としたのは、琳の誓いに危険な匂いを感じたからだ。


 琳に手を握られた水宗が真っ赤になったからでは決してない。


 将生はそう思っていた。




「それでその、あんたのせいだって言う男の人に会ったのはどの辺なんですか?」


 店の中に入った佐久間がカウンターに地図を広げ、水宗に訊いていた。


 琳が水宗が怪しい男と遭遇したことがなにか事件と関係あるかもしれないと言い出したからだ。


 佐久間は琳に弱い。


 まず、上司に判断を仰げ、と思っていたが、佐久間は琳の意見を優先する。


「この辺ですね」


 佐久間は水宗が指差した先を見て、えっ、という顔をする。


「傷害事件があった屋敷のすぐ側の道ですね」


「あの辺り、車をちょっととめるのにいいんですよ」


 道が広くて、と言う水宗に佐久間が訊いた。


「なんで、此処で車とめたんですか?」


「琳さんから電話がかかったので」


「それで傷害事件の現場近くで車をとめた、と」


 佐久間が確認するように言いながら手帳にメモしている。


 その様子を見ながら将生は呟いた。


「……待て。

 そのせいで、傷害事件の現場からピンクのゾウが逃げたって話になったのなら、お前のせいじゃないか」


 琳が、えっ? と言って苦笑いする。





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