では、問題です
喜三郎さんがなんでコミュニティセンターに入り浸ってたのかはわかってるんだけど。
今の小柴さんがおっしゃったことの意味はわからないな、
と思いながら、琳は珍しく自分で推理している将生を眺めていた。
なんで、『喜三郎さんは、宝生さん』なんだろ?
将生にも、そこのところは、よくわからなかったようだが。
喜三郎さんのことは、なんとなく、わかりはじめているらしく。
バサバサと資料をめくってみているので、琳は上から覗き込みながら言ってみた。
「照らし合わせるのって、面倒臭いですよね。
それ用にそろえられているわけではないので。
生け花
カラオケ
囲碁
将棋
コーラス
陶芸、に丸されてますね」
「……見ているうちに頭に引っかかった言葉だ。
龍哉が言っていた。
自分は知っていることがあったんで、すぐに喜三郎さんが入り浸っている理由がわかったと。
でもそれ、俺も知ってるかもしれないよな。
不本意ながら、俺もあいつみたいに、ここ、入り浸ってるから」
なんで、不本意ながらと言いながら、ほぼ毎日来てるんだろうな?
と思いながらも、琳は訊いてみた。
「龍哉くんがそう言った意味って、わかってるんですか?」
「……お前言ったな。
『喜三郎さんはよくお前のおじいさんのところに行っている』と。
だが、ほんとうのヒントは、お前のその一言が、『俺にとって、いいヒントになる』というところじゃないか?
俺はお前について、お前のおじいさんのところまで行ったことがある。
あのとき、知った。
お前のおじいさんの趣味はカラオケだ」
カラオケ、と将生は曜日別の習い事が書いてあるところに丸をする。
さっきも丸をしていたのだが。
今度は、上から更にグルグル、丸をしている。
他の丸と区別がつくように。
琳は笑った。
その顔を見て、将生がホッとしたような顔をする。
自分の考えが当たっていると確信したようだった。
将生は更に、他の単語にも丸をしはじめた。
囲碁と将棋だ。
「囲碁、将棋、カラオケ。
この三つは喜三郎さんが好きなものだな。
龍哉もだろうが。
俺もここに通ううち、そのことを見聞きしていた。
コミュニティセンターには、囲碁、将棋、カラオケの教室があるのに、喜三郎さんは、何故かその教室には通っていない。
余生を楽しむためにコミュニティセンターに通いはじめたのなら。
まず、入りそうなものなのに」
「そうですね。
では、宝生さん。
いちいち資料を照らし合わせてみるのはめんどくさいでしょうから。
ここで、逆推理してみてください」
ノートパソコンを立ち上げ、地道に表とか作って、検証しはじめそうな将生に琳はそう言った。
「逆推理?」
「照らし合わせていったら、正解にたどり着くでしょうが。
時間がかかります。
勘をいかしましょう。
推理はスピード勝負ですよ。
全員殺されたあとに、実は真相はこうでしたとか言う探偵は駄目です」
「宝生さん、探偵だっけ?」
と小柴が笑い、
「なにが全員殺される、だ。
お前の頭の中では、殺人事件でも起こる予定なのか?
喜三郎さんがコミュニティセンターに入り浸ってて、この店に来ないってだけだぞ?」
と将生が言ったが、琳は笑わずにこう言った。
「なにが起こるかわからないじゃないですか。
はじまりはしょうもないことでも。
実際、不穏な人物が喜三郎さんの関係でこの店に来ています」
「不穏な人物?」
「では、問題です。
宝生さん、この見取り図を見てください。
コーラスの教室は何処で開催されているでしょう?」
はっ? と将生はちょっとマヌケな声を上げた。
何曜日になにがある、というのは、曜日別の表を見たらわかる。
だが、どの教室が何処の部屋でやっているのかは、教室ごとのチラシを確認しないとわからない。
将生は後ろの方にまとめてあるそのチラシを見ようとした。
だが、琳は今のページを手で押さえ、それを止める。
「喜三郎さんは、コーラスにも入ってるけど、気もそぞろ……という話は聞きましたよね?
では、その気もそぞろなコーラスは、何処でやってると思いますか?」
そう言いながら、琳は館内見取り図を指差した。
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