将生の推理

 

 気もそぞろなコーラスとはなんだ、と将生は思っていた。


 ……だが、実は俺はちょっと答えに近づきつつある。


 しかし、このことを認めるわけにはいかない。


 なぜならば、

『喜三郎さんは宝生さんだよね』

という不本意な言葉を認めることになってしまうからだ。


 だが、雨宮は珍しく、推理をしている自分を楽しそうに眺めている。


 この雰囲気を壊すわけにはいかない。


 ……いや、決して俺は喜三郎さんと同じではないのだがっ。


 将生は覚悟を決め、見取り図を指さした。


「気もそぞろなコーラスはここか、ここだっ!」


「いや別に、気もそぞろなコーラスって団体名じゃないんですけどね」

と琳が苦笑いする。


 ……力が入りすぎてしまったようだ。


 将生は第一ホールと第二ホールを指さした手を下げ、話をつづけた。


「各教室が窓やドアを開けている場合は、その限りではないかもしれないが。

 まだ暑くはないから、開けてないだろうし。


 おそらく、この向かい合っているホールのどちらかだ」


 見えやすいからと将生は言った。


「喜三郎さんは誰かを見にコミュニティセンターに通っているんだ。


 コーラスは気もそぞろということは、コーラスの向かいの教室に喜三郎さんが見たい人がいるんじゃないか?


 逆に、生け花には力を入れている、と言っていた。


 ということは、生け花教室に、喜三郎さんが見たい人がいるに違いない。


 恐らく、相手の人も、喜三郎さんのように、コミュニティセンターに通いつめているんだろう」


 だが、ひとつ謎がある、と将生は言った。


「生け花は、その人と同じ教室に入っているのに。

 コーラスは何故、同じ教室に入らずに、外から窺ってるんだ?」


「それはですね」

と小柴が口を挟んでくる。


「喜三郎さんは、宝生さんより、控え目だと言うことです」


 ……どういう意味だろうな、と思う将生に小柴は言う。


「宝生さんは、カウンターのど真ん中に陣取って、まっすぐ雨宮さんを見てますよね。

 喜三郎さんには、そこまでは度胸はないということです。


 生け花だったら、ほぼ花を見ているから、恥ずかしくないのでは?」


 ……今、言われているのが、どういう意味なのか。


 どんな事件より理解したくない。


 だが、とりあえず、俺の推理は当たったようだ、と将生は思った。


「いや~、すごかったです、今の迫力」

と琳が手を叩いて喜ぶ。


「まるで、犯人を追い詰める刑事のようでしたっ」


 小柴が、

「監察医が追い詰めちゃダメなんじゃないですかね?」

と言ったが、琳は、


「そうですか?

 サスペンスではよく見るんですけどね、そういう場面」

と言いながら、小首をかしげていた。




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