今、この瞬間を待っていたっ!

 

 そんな話を将生たちがしたあとの日曜日。


 喜三郎はほんとうに殺されようとしていた。


 琳たちが気づいたことに、気づいた者が他にもいたからだ。


「……喜三郎をれ。

 これがわしがお前に頼む最後の仕事だ。


 老後、ゆっくりできるだけの金はやる」


 楽隠居しろ、とその人物は隣に立つ細身の男に言った。


 細身の男は黙っている。


「もうすぐあの人が現れる。


 あの人が、交差点前のコンビニのところで、コミュニティセンターでできたという友だちと待ち合わせし、話しているのをいつも喜三郎はあの陸橋から、ぼんやり見ているようだ。


 そこを狙って突き飛ばせ」


「……ご隠居」


「なんだ。

 嫌なのか。


 お前も喜三郎の珈琲、気に入っていたからな。

 だが、これは私たちの最後の仕事としてやらねばならん。


 喜三郎には、いろいろと知られすぎている。


 喜三郎の店にいると、つい、口が軽くなって、しゃべりすぎていたからな。


 次の世代に支障が出ないよう、知りすぎている喜三郎を始末するんだ。


 我々の憧れだったあの人を使って」


 ご隠居、能條末太郎のうじょうすえたろうは、コンビニ近くに現れた品の良いおはあさんを指さした。


「あんなに変わってしまっても、喜三郎にもわかった。


 わしらにもわかった。


 あの人は永遠のわしらのアイドルだ」


 そこだけは、あまり口数の多くないボディガード、白田も頷いてくれた。


 名前も違う、年もとっているが、すぐにわかった。


 彼女こそ、往年のアイドル、加瀬すずか。


 他にも気づいている者もいるのかもしれないが。


 みな、彼女の穏やかな老後のために黙っているようだった。


「喜三郎は必ず、彼女に気を取られる。

 ぼんやり立っているところを、どん、だ。


 わかったな」


「……ご隠居」


「これがお前の最後の汚れ仕事だ。

 行け。


 喜三郎が来た」


 陸橋の反対側から喜三郎が階段を上がろうとしている。


 二人は陸橋の陰からそれを見ていた。


 白田は頷くと、喜三郎に気づかれないよう、彼がいるのとは反対側の陸橋を、少し遅れて上がっていった。


 末太郎は思う。


 喜三郎は彼女に全集中しているはずっ。


 今こそっ。





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