ちょっとハラハラしてました

 

 喜三郎は、案の定、陸橋から、すずかを熱く見つめている。


 ――今だっ、白田っ!

と末太郎が思ったとき、陸橋を挟んで、すずかがいるのとは反対側からよく通る声がした。


「あっ、喜三郎さーんっ」


 喜三郎がそちらを振り向いたので、さっと白田は階段に戻る。


「おお、琳ちゃん」


 喜三郎は下の道にいる琳と話し出した。

 すずかの方を見もせずに。


 すぐにすずかに向き直るなら、まだチャンスはあると思ったのだが。


 喜三郎は振り返ることなく、楽しげに琳と話している。


 白田に次の指示を出そうかと思ったが。


 琳がこちらに気づき、


「あっ、よかった。

 ご隠居さんっ。


 ここで出会えるとはっ。

 いつかのお釣り、お返しします~」

と素敵な笑顔で手を振ってくる。


「いやいや、嬢ちゃん、いいんだよ」

とつい、末太郎は笑顔で返事をしてしまった。




 結局、陸橋の上で四人で話した。


 すずかは友だちと話しながら、コミュニティセンターに向かい、歩いて行ってしまった。


 それを見送りながら、彼女が昔、自分達が夢中になったアイドルだという話を琳にする。


「……あんたら若い人にどう見えてるか知らないが。

 わしらには、今も彼女は光り輝いて見えるんだよ」


 すると、琳は笑って言った。


「私にもそう見えますよ。

 素敵な方ですよね」


 あのように年をとりたいと思います、と言う琳に、

「あんたならなれるよ」

と末太郎は断言する。


「さっき、あんたに声をかけられて、喜三郎はすぐに振り向き、すずかさんの方を見なかった。


 わしらも同じだ。


 あんたの前では――」


 悪事を働きたくはないと思ってしまった、という言葉を末太郎は飲み込んだ。


「……わしらのアイドルはもう、すずかさんじゃなくて、あんたになっていたのかもしれんな」


 いや、なんですか、それ、と琳は苦笑いしたあとで言う。


「でも、みなさん、仲がよろしくてよかったです。

 憧れの方をみなさんでご覧になってたんですね。


 ご隠居さんたち、喜三郎さんの古いお知り合いだというわりに、顔を合わせないよう、身を隠されたり。


 なにかちょっと妙な感じがしたので、実は、喜三郎さんを狙ってるんじゃ?

とか思っちゃって。


 いつか、喜三郎さん、やられるんじゃないかと思って、ハラハラしてました」


 そんな琳の言葉に、一拍置いて、三人は、……ははは、と笑う。





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