貴女のために頑張りますっ
将生がカウンターで、琳の淹れてくれたアイス珈琲を飲んでいると、誰かが庭を走るのが見えた。
佐久間だ。
そのあとに子どもたちも続いている。
脱兎のごとくやってきた佐久間は派手に正面のガラス扉を開けると、
「雨宮さーんっ。
死体見つけましたーっ」
と叫ぶ。
貴女のために、森でお花を見つけてきましたっ!
みたいな感じでやってきたが、見つけたのは、林で死体だ。
ずいぶんと早いな、と思いながら、
「どうやってわかった?
霊か?」
と将生が訊くと、
「なんでですか……」
と佐久間は言う。
いや、あまりの早さに林の中にぼんやり霊でも立ってて、下を指差していたのかと思ったのだ。
「違いますよ」
と佐久間は顔をしかめる。
「まあ、ちょっと来てください」
と言う佐久間について、琳とともに店を出る。
またあのじいさんが、
「行ってきなさい。
わしが店は見といてあげるから」
と言ってくれたからだ。
もうあのじーさんに店、任せろよ、と思いながら、琳と子どもたちともに、雑木林に行く。
犬の骨があったのより随分奥側に、深く穴が掘ってあるのが見えた。
覗き込むと、なるほど、人骨らしきものがある。
他に穴はなく、ピンポイントで此処を掘ったようだった。
穴の
「佐久間、お前が犯人だったのか……」
「なんでですかっ」
「いや、ピンポイントで此処だけ掘ってるから」
と言うと、佐久間は、
「違いますよっ。
目星つけて掘ったら、たまたま当たったんですよっ」
と叫んだあとで、
「……この人、なんの考えもなしに、つるっとそのまま上に報告しそうだから怖いよな~」
とブツブツ言っていた。
「周りを見てください」
と佐久間は周囲を手で示す。
この辺りには百合の花がみっしり生えていた。
雑木林の入り口ら辺にも、そういえば、何本かあったような、と思いながら、
「最近、よく見るな、この百合」
と将生は呟いたあとで、琳を振り返り、
「毒性があるのなら、こいつが知ってるだろうが」
と言うと、琳は苦い顔をし、
「なくても知ってるのもありますよ」
と言ったあとで、
「ま、実は、この百合、猫には猛毒なんですけどね」
と言いたくなさそうに付け加えて来た。
「これはタカサゴユリです。
外来種なんですが、種が空を飛ぶので、今、あちこちに増えて困ってるんですよね。
綺麗なんですけど、爆発的に増えるので、仕方なく、うちの庭では抜いています」
「業者の人がか」
琳は無言だった。
……業者の人って、若い男だろうか。
あまり立ち入らないように今度、佐久間にでも抜かせよう、と人でなしなことを思っていると、琳は辺りを見回し、佐久間の掘り返した土を見たあとで、
「なるほど」
と頷く。
「此処だけドクダミばかりが繁茂していたんですね」
スコップで今、掘り返されたばかりの土にたくさんドクダミが混ざっている。
ドクダミは健康にいいので有名だが、その繁殖力は半端ない。
ドクダミVSタカサゴユリ
繁殖力の強い野生植物の争いが此処で繰り広げられたようだ。
おそらく、タカサゴユリの土壌だったところを誰かが百合の咲いていない時期に掘り返して、埋め戻し。
タカサゴユリの球根だか種子だかが、地下深く潜っている間に、ドクダミが繁殖してしまったのだろう。
佐久間が掘り返す前は、タカサゴユリが新たに芽を出せないくらに、ドクダミがみっしりと地面を覆っていたのに違いない。
そして、それを見た佐久間が、以前、誰かが此処を掘り返したと当たりをつけたのだろう。
「すごいじゃないか、佐久間。
刑事みたいだぞ」
と言うと、佐久間は、
「刑事なんですけど……」
と言ったあとで、チラ、と龍哉の方を見た。
おいおい。
まさか小学生に教えてもらったんじゃあるまいな、と思ったが、子どもの方が学習雑誌などで妙に知識が豊富だったり、発想が良かったりする。
っていうか、自分で自慢げに推理を披露するのではなく、佐久間の顔を潰さないよう譲るとか。
末恐ろしいガキだな、と端正な顔をしている龍哉を見る。
……子どもはすぐに大人になるしな、と思わず、琳と話す龍哉を睨んでしまい、佐久間に、
「宝生さん、僕より見境ないですよね……」
と言われてしまった。
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