……俺の休日はどうなった
「……俺の休日はどうなった」
お前、そこに居るんなら、ちょうどいい、と上司に言われた将生は、警察が来たあと、結局、見つかった人骨とともに、監察医務院に戻ることになってしまったのだ。
「まあ、また、おやすみ取ってください。
月曜日にでも」
と笑って、佐久間が肩を叩いてくる。
月曜日、琳の店はおやすみだ。
自分と琳が親しければ、じゃあ、一緒に何処かへ行こうかということもあるのだろうが。
店の外では特に親しくないから、休みの日に会うこともない。
「……覚えてろよ、佐久間」
「いや、僕も休日潰れたんですからね……」
と二人で見つめ合う。
そこで、ひとり
「お前も家帰れよ、龍哉」
ええっ? そう来る?
という顔で、カウンターに座り、琳と話していた龍哉がこちらを見る。
琳は、ただ休みが潰れた腹いせに、呑気に遊んでいる子どもに文句を言っているだけだと思っているのか、笑っていた。
……まあ、その通りなんだが。
いや、ほんとに……。
そのあとも、結局、まだ、琳と話している龍哉を振り返りながら、将生は店を出る。
それにしても、とんだ日曜日だった――。
そう溜息をつきながら。
まったく、こいつと関わるとロクなことがない、と思いながらも、仕事帰り、将生は、また猫町3番地に寄っていた。
夜のこの店は庭の木々や石畳をカンテラがほんのり照らしていて、昼間とはまた違う、幻想的な美しさだ。
店内の灯りも少し落とし気味で、調度品が落とす影も柔らかく、此処に来ると、家に帰ってきたように、ほっとする。
こいつが口をきかなければの話なんだが……、とカウンターに座り、荷物を置きながら、将生は思った。
「ご遺体、見つかってよかったですね」
と琳が笑顔で言ってくる。
死んだまま見過ごされるところだった人間が発見されたことが嬉しいようだ。
「なに飲まれますか?
今日はタダですよ」
「……俺から情報を訊き出すためか」
と警戒したように言うと、なに言ってるんです、と琳は笑う。
「昼間、おやすみなのに、駆け回ってくださったからですよ。
それにもうテレビで結構やってます」
と琳はあまりついていることのない窓の近くに設置してあるテレビを見た。
「ご遺体は五十代以上の男性なんですね」
と琳が呟く。
「たぶんな。
成人した男性の遺体なのは確かだ。
骨を見た限りでは、外傷はない」
だが、埋められていたので、事件性があるかもしれないと判断された。
「詳しい死後経過年数は、科捜研が調べるだろうが。
まあ、白骨化していたから、大人なら――」
「大人で土の中なら、五年から十年くらいですかね?
最初から土の中に埋まっていたのならですけど」
と琳が言おうとした先を引き取って言ってしまう。
「……最初、地上にあったのなら、だいたい、一年くらいか。
だが、地上で夏場なら、下手したら――」
言いかけた言葉にかぶせるように、そう琳が言ってくる。
「地上で夏場なら、一週間で白骨化した例もあるそうですね」
「俺の言おうとしていることを先へ先へと言うな~っ!」
思わず、立ち上がって叫んでしまい、琳に、は? と言われてしまった。
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