この店の看板メニュー
上品な装いのご老人が二人。
なんか店の格が上がった気がする……と琳は思っていた。
いや、普段いる騒々しい面々のおかげで下がっているとかはないのだが……。
でも、ちょっと眼光鋭い感じの二人だな、と思いながら、いらっしゃいませ~とメニューと水を持っていく。
「ありがとう」
とちょっと体格がいい方のご老人に微笑みかけられた。
痩せぎすな方の方がこくりと頷く。
「この店はなにがオススメかな?」
ああ、と琳は微笑み、
「き……」
と言いかけ、やめた。
『喜三郎さんの珈琲』と言いそうになったのだが。
そういえば、今日も喜三郎は来ていなかった。
また、コミュニティセンターにでも行っているのだろう。
「ここのオススメはカレーですよ」
窓際の席からひっつめ髪の彼女が言ってくれる。
「ほう。
カレーですか」
昨日はチャーハンだったですけどね。
冷凍の。
今日はカレーがあるので、カレーですね、と思いながら、はは……と琳は笑う。
「じゃあ、それをふたつ……
お前もそれでいいか?」
と体格のいい老人は痩せた老人に訊いた。
はい、と頷く。
痩せていると言っても、筋肉質だし、隙がないように見えるな。
なんか偉い人とボディガードみたいだな、と琳は思った。
いや、どちらもご老人なのだが……。
「こちらにいらしたらどうですか?
そこ暗いし、庭がよく見えますよ」
ひっつめ髪の常連さんが、彼らに声をかけてくれた。
老人たちが壁を背にした日の当たらない場所にいたからだろう。
「いえいえ。
ここで充分ですよ」
と体格の良い老人は微笑んだあとで、
「いや、この店はまるで、天国ですな。
美しい方ばかりいらっしゃって」
と彼女と琳を見て言う。
「いやだわ。
そんなこと、久しぶりに言われたわ」
「いえいえ。
あなたのような知的で華やかな雰囲気のお嬢さんは久しぶりに見ました」
と老人は彼女に言っていた。
「まあ、お嬢さんだって、琳ちゃん。
お口の上手い方ね。
さぞ、今までおモテになったんでしょうね」
と彼女は嬉しそうに笑うが。
このご老人は気を使っていってるわけではないようだ、と琳は思っていた。
確かに、ご老人たちからしたら、ずいぶん年下だし。
琳から見ても、ちょっと無邪気な雰囲気も残している彼女は充分若々しく見えた。
「この方は、いいおじいさんね。
大きなつづらを用意しなくちゃ」
いや、何故、突然の舌切り雀。
って、そこは小さなつづらでは?
まあ、ここには、そのどちらもないのだが……。
「でもまあ、確かに素敵な庭ですな」
と言いながら、目を細めて眩しげに老人は見る。
カレーの匂い漂う店内で、三人は楽しく歓談していたようだった。
「あれ?
喜三郎さん?」
琳は入り口のガラス扉の向こうに、見慣れた小柄な人影を見た。
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