パーカーの男
「僕、あの屋敷に住んでるクソジジイの息子の嫁の息子なんです」
そうパーカーの男、
それ、孫って話ですよね? と琳は思ったが、黙っていた。
なにやら深い因縁や怨念がありそうだったからだ。
「あのジジイ、僕の母を財産目当てだと決めつけて、散々辛くあたった挙句に叩き出しました。
母は失意のまま、家を出て。
僕を祖母の家に預け、別の金持ちの男の人と結婚してしまったんです」
……それはおじいさんが正しかった気がしますね。
「父とも連絡とってなかったんですが。
あるとき、バイト先の喫茶店に現れた男の人が、僕の顔を見て、びっくりして」
父だったんです、その人、と真守は言った。
「僕が母そっくりだったので、驚いたと言っていました」
それは可愛いらしい顔のお母さんなんだな、と琳は思った。
「自分は普段は海外にいるけど、困ったことがあったら、実家を訪ねなさいと言ってくれて。
別になにか困ってたわけじゃないけど。
なんとなく懐かしくなって、昔暮らしていた家まで行ってみたら、あのジジイに出くわして。
母親そっくりになったな。
お前もロクなもんじゃないだろうって言い出して」
大喧嘩になりました、と真守は言う。
「ハイエナみたいに、この家の前をウロウロするなって言われたから、あんたの道じゃないだろって言い返して。
当てつけのように、あの家の前を通ってました」
なんか似たもの祖父と孫な気がしてきたな……。
「そんな風に懐かしい家を横目に見ながら歩いていたら、なんだか腹が立ってきて。
あの家出るまで、僕は父と母に囲まれて、幸せだったんですよ。
時折、ジイさんが小言を言ってくることを除けば。
八つ当たりだってわかってたけど、一発、殴ってやろうと思って。
でも、ジイさん用心深いし、ぱっと見、細身の枯れたジジイだけど。
実は今でもジムで鍛えてるらしくて。
油断したら
今、背後から、ただ殴りかかろうとした孫を手刀で
「ジイさん、いつも庭の端にあるお気に入りの花壇の前にこちらに背を向けて立ってるから、その辺のシャベルでもつかんで殴りかかってやろうと思ってたんだけど」
あの道との境にある木がっ、と真守はわめく。
「あの木、枝が伸びるの早いんですよ。
あいつが伸びたら、その陰で犯行をと思ってたのにっ。
いつも、そろそろ伸びたな、と思ったら、刈る奴がっ」
みんなが水宗を見た。
「そうこうしてるうちに、誰かがジイさんを襲ったらしくて、ジイさん倒れててっ」
先を越されちゃったんですよっ、と真守は言う。
「クソジジイだから、あのジイさんやりたがってる奴なんてたくさんいるからっ。
ピンクのゾウの人っ、あんたのせいですよっ。
僕がジイさんやりそびれたのはっ」
ええ~っ? と水宗がいつもの笑っているような困り顔で叫んでいた。
「それで、救急車呼んだあと、あんたに一言言ってやらなきゃ気がおさまらないと思ってたら、ちょうどあんたが来たんですよっ」
……呼んだんだ? 救急車、と琳は苦笑いして思う。
「ともかく、あんたのせいで僕はジイさんに復讐しそびれたんだっ」
真守は水宗にそう言ったが、水宗は、
「でもあの、おじいさん、大変なクソジジイだと警察からも、うかがったんですけど。
そんなおじいさんが近所の人に気を使って、道に木が出るのを気にするとかおかしい気がして。
もしかしてなんですけど。
当てつけのように屋敷の前を通るあなたの姿を見たかったから、木を切って視界をよくすると喜ばれてたんじゃないですかね?」
と真守に言う。
だが、真守はそれを聞いて、逆にキレていた。
「なにアットホームな感じに終わらせようとしてんだよっ。
あいつ、そんな感じのジジイじゃないからっ」
「あの~、小村さん。
それで、おじいさまをおやりになった犯人は?」
と琳は訊いてみたが、
「僕が行ったときには、もうやられてたんだから知るわけないですっ」
と真守は言う。
「そうですか。
でもまあ、ともかく、水宗さんがあの場所で車を止める前に、おじいさまは、もう襲撃されてたんですよね?」
琳は、警察で今の話をしてくれるよう真守に頼んだ。
その話は、新たに中本に疑われはじめたパーカーの男、真守の無実を証明するのにも役立つだろうから。
「水宗さんの無実がこの件に関しては証明できそうで安心しました」
琳が微笑むと、雨宮さん……と水宗が感謝の目を琳に向けてきた。
「いや~、もう水宗さん、次々疑われるから。
私の頭の中で、水宗さん、車を止めるたび、あっちこっちの被害者に笑いながら殴りかかってましたよ~」
雨宮さん……と水宗が今度は青ざめて琳の名を呼ぶ。
そのとき、将生がトラックを振り返りながら言ってきた。
「そもそも、あのトラックがあんな人目を引く配色でなかったら、水宗さん、この騒動に巻き込まれてないような……」
だが、巻き込まれた張本人の水宗が何故か猛反論してくる。
「なに言ってるんですかっ。
素晴らしいデザインですよっ」
水宗の目は完全に恋でくもっているようだった。
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