意外にも事件、進展しました

 

「ところであの~、水宗さんの件は無実が証明できたとして、僕はどうなるんでしょうね」


 心細そうに真守が言ってきた。


「僕が爺さんをボコろうとしたのは本当なんですけど。

 結局、やってないのに、疑われているうえに。


 あの刑事さんの頭の中では、全然関係ないとなり町の殺人事件の犯人まで僕みたいなんですけど」


「いやいや、大丈夫ですよ。

 あれ、中本さんが言ってるだけなんで。


 小村さんはおじいさんを殴ろうとしたところは伏せて、ただ、自分が見たものだけを証言してくだされば」


 琳がそう言いかけたとき、何故か中本の姿がガラス扉の向こうに見えた。


 うっ。

 今度はなにしに来ましたっ?


 佐久間さんは来てませんよっ、と琳たちは焦る。


 こちらで今後の話がまとまる前に中本に襲撃して欲しくない。


 将生が中本を見ながら、

「誰か、ドアに木をバッテンに打ち付けてこい。

 あいつは絶対、更なる厄介ごとを持ち込んでくる」

と断言する。


 もちろん、その予感は外れることはなかった。




「佐久間さんは居ますかっ」


 すごい勢いで扉を開け、入ってきた中本に、全員が、


 佐久間さんっ、何故、こんなときに限っていないんですかっ、

とふっくら和み系の佐久間の顔を恋しがる。


 中本はカウンターに居る水宗に気づいて言った。


「水宗さん、まだ此処に居たんですかっ。


 実はあの総合体育館横が映っていた防犯カメラのおかげで、トラックの位置が特定できたので。

 別の角度からその現場が映っているカメラも探せたんですよっ。


 水宗さんが車を止めて電話で話してるとき、誰かが水宗さんのトラックになにかを放り込んでいたことがわかったんです」


 ええっ? と水宗が叫ぶ。


「小太りの中年の男でした。

 作業着のようなジャンパーを着た。


 時間的にいっても、きっとこの男が犯人です。

 そうでない限り、他人のトラックに物を放り込むやからが居るとは思えません」

と中本は画像の粗い写真を見せてくる。


 防犯カメラの映像を拡大したもののようだ。


「……じゃあ、犯人は」


 急展開に水宗が呆然として呟くと、中本は、こくりと頷いて言った。


「そうです。

 犯人は、水宗さんの造園会社の社長さんです」


 何故、そうなりましたっ!? と全員が中本を見た。


 中本は名探偵よろしく、コツコツと靴音をさせて店内を歩き回りはじめる。


 額に人差し指を当てて言った。


「犯人。

 その言い方は正しくないかもしれませんね」


 すべて正しくない気がしますよ……。


「社長はこの犯人の男の協力者なんですよ。

 社長は水宗さんに電話をかけ、此処で車を止めさせた。


 犯人は打ち合わせた通り、事件の凶器をこの中に放り込むと、素知らぬ顔で立ち去ったのです」


「なんかそれっぽく聞こえるな」

と将生が呟く。


「洗脳されそうですね。

 でもまあ、半分くらいは当たってる気がしますよ。


 犯人はきっとこの男です。

 たまたま近くに止まった水宗さんのトラックに凶器を放り込んだんですよ」


 中本は、こくりと頷いた。


「今回は意見が合いましたね、雨宮さん」


 いや、ところどころしか合ってませんけど……。


「では、水宗さんの造園会社の社長をしょっぴきましょう」

と言いながら、中本は署に電話をかけはじめる。


 琳はそちらを窺いながら、水宗に、

「今のうちにトラックの後ろを開けてくださいっ」

と小声で言う。


 中本が話しているうちに、ピンクのトラックの中を見せてもらうことにした。


 先に中本に見せると、なにかとんでもないことを言い出しそうな気がしたからだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る