いよいよ、その日がっ!


 店の常連達で渓流釣りに行った次の週の木曜日。


 将生たちは、安達刹那のアパートの前に居た。


 神原七重が里中との不倫が原因で自殺した、その証拠を握っているので、大学にそれを提出すると脅し、刹那が里中を呼び出したのだ。


「来ました。

 里中ですよ」


 住宅街の先、遠い人影を見ながら、小柴が言う。


「僕は面が割れているので隠れます」

と言って彼は消えた。


 残ったのは、将生と琳と佐久間。


 ――だけのはずなのだが、不自然に犬の散歩をしている老人や、不自然に斜め前の書店の外をウロウロしている親子連れが居る。


 ……来るなと言ったはずだが、と思いながら、将生は彼らを見る。


 琳の店の常連たちだ。


 だが、まあ、刹那を心配してのことだろうと思い、邪魔になるから、撤収しろとは言わずに、ぐっと堪えた。


 佐久間も堪えた。


 そこで、琳が、

「私たちも此処に立ってるの、不自然ですよね」

と言ってきた。


「あ、じゃあ……」

と琳が言った瞬間、将生の頭の中を妄想が駆け巡った。


「じゃあ、恋人同士のフリでもしましょうか」

と照れながら、琳が自分に言ってきた。


 いや、もちろん、妄想だ――。


 カップルを装うのは尾行の定番だが、三人では不自然だ。


 佐久間が邪魔だ、と将生は目の前に居る、見るからに人の良さそうな刑事を見る。


 刹那が里中を葬るよりも先に、将生が佐久間を葬りそうになった。


 そのとき、

「じゃあ」

と言った琳が声を落として、ひそひそと言ってきた。


「ちょうどそこにゴミの集積場があるから、私がゴミ当番の人のフリをします。

 お二人、叱られてください」


「え」

と将生は、今殺そうとした佐久間と二人で固まる。


「だって、ゴミ出し間違うの、若い独身の男の方が多いんですよね~。

 あと、引っ越してきたばかりの人。


 うっかり、前住んでたところの出し方で出したりしちゃうので」


 結局、里中が刹那の部屋に入るまで、二人で、琳にゴミの出し方についての注意を受けていた。


 いや、何故、こうなる……と思いながらも、将生は、チラ、と刹那のアパートを窺った。


 ちょうど二階のドアが閉まるのが見えた。


 里中が刹那の部屋に入ったようだ。


 小柴が物陰から出てくる。


 こちらを見て頷き、反対側の階段をそっと音を立てないよう上がっていく。


 将生と佐久間も頷き返し、同じように階段を上がった。


 琳も後をついてくる。




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