逆になんだか気がかりです

 

 そのあと、喜三郎が店にやってきた。


 ウキウキつやつやしていて、なんだか楽しそうだ。


 喜三郎は一緒に陶芸をやっていたらしい人たちと窓際の席で歓談し、美味しそうに珈琲を飲んでいる。


 カウンターからそちらを窺いながら、琳は声を落として言った。


「やはり、様子がおかしいですね、喜三郎さん」


「そうか?

 どの辺がだ?」

と将生が喜三郎の方をさりげなく振り返りながら訊いてくる。


「さっき、珈琲を運んだんですが。

 美味しそうに飲まれてるんですよ」


「……いけないのか」


「喜三郎さんは舌が鋭敏なので。

 いつも、私の珈琲を一口飲んだあと。


 うん? という顔をされます。


 で、私が不安げな顔をしているのに気づくと、

『美味しいよ、琳ちゃん』

と微笑んでくれるんですけどね」


「客に気を使わせるな……」


「いや~、いつもそんな調子なのに。

 今日、喜三郎さん、ほんとうに美味しそうに飲んでるんですよっ」


「……喉が乾いてたんじゃないのか。

 真剣に陶芸をやって。


 っていうか、喜三郎さん、なんで、この店に通ってるんだろうな?」


 そんな気に入らない珈琲の店に、と将生が、ズバッと言いながら、小首をかしげる。


「単にお友だちがみんな、ここに来られるからだと思います……」


 そう答えたあとで、琳は、なんだかんだ言いながら、真剣な顔で喜三郎の方を窺ってくれている将生に問うた。


「そういえば、宝生さん、今日は用事とかないんですか?

 ずっとここにいらっしゃいますけど、いいんですか?」


 すると、将生は、こちらを睨むように見、

「……いちゃいけないのか」

と言う。


「いえいえ。

 うちはお客さんがいてくれる方がいいので」

と言って、また睨まれた。


 なにがいけなかったのだろう、と琳は思っていたが。


 単に、将生は『お客さん』という他人行儀な言い方が気に入らなかっただけだった。


「俺は無趣味な人間なんだ。

 休日に他にすることがない」


 そんなことを将生は言い出した。


 そうでしたっけ?

 なんか船の模型の話とか、この間、水宗さんとしてませんでしたっけ?

と思っていると、


「さっき、帰ろうかと思ったんだが。

 小腹が空いたからな。


 なにか食べようと思っていた」

と言う。


「そうなんですか」


「チャーハンとか……


 あったかな、ここ」


「チャーハンですか。

 ……まあ、あるので作りましょう」


 琳はゴソゴソ冷凍庫から出してきた。


「おい、客の目の前で、冷凍チャーハンの袋をバリッと開けるな」

と言われながらも、レンジでチンする。


 いやいや。

 美味しいんですよ、私が作るより、と思いながら、琳はオレンジの光の中で温まっていくチャーハンを見ていた。


 卵と角切りチャーシューが多めで、見るからに美味しそうだった。





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