なによりドキドキするな……
「でもさあ、妻に聞いたのと、パッと見、違うんだよね。
ちょっとヤンキーっぽい子だったって言うんだけど」
そんな小柴の言葉にサイフォンを手にしたまま、琳は振り返る。
なんか真逆な感じなんだが……。
刹那は黒髪で、
いや、黒髪のヤンキーも居るかもしれないが。
落ち着いた語り口調の、
いや、落ち着いた語り口調のヤンキーも居るだろうが。
見るからに頭が良さそうな、
いや、頭のいいヤンキーも確かに居るんだが……。
「……全然、ヤンキーに見えないんですけど」
「まあ、就職を機に足を洗ったとかかもしれないけどね」
でも、安達さんが就職したのって、たぶん、最近だよね?
それにしては、少しもヤンキーの面影がないんだけど、と思いながら、琳は刹那を窺う。
「忙しそうだったから、詳しくは訊けなかったんだけど。
また訊いといてあげるよ」
と言ってくれた。
い、忙しいのか、小柴さんの奥さん。
なにかどの話を聞くよりも、小柴さんの語る奥さんの話にドキドキしてしまうんだが。
どんな話が飛び出すかと思って――。
そんなことを思いながら、琳は、
「ありがとうございます」
と小柴に礼を言い、カウンターへと戻った。
なんとなく刹那と目が合う。
「……あのー、安達さん、昔、ヤンキーでした?」
お前、突然、本人になに訊いてんだ!?
という顔で、将生に見られてしまったのだが。
いや……、だから、いろいろ考えすぎて、ふいにすべてが、めんどくさくなるんですってば、と琳は思っていた。
小柴さん絡みで、どっと疲れて、安達さんに、うっかり全部しゃべっちゃうパターンが多い気がするのだが。
実は、私、安達さんに気を許しているのでしょうかね?
と琳は思っていた。
「ヤンキーですか」
珈琲を飲みながら、刹那が語ってくる。
「まあ、そんな感じに気取ってたときはありましたね。
ちょっとした反抗心の表れだったんですが。
なにも馴染んでなかったらしく。
ヤンキー風のファッションをしたおとなしい人、と思われていたようです」
なにかこう……
目に浮かぶようなんだが、と苦笑いしながら、佐久間たちと今、目の前に居る刹那を見る。
馴染まなさそうだ、ヤンキーファッション。
「まあ、大学生でしたしね。
もはや、ヤンキーとかいう年でもなかったですよね、よく考えたら」
と刹那は淡々と語る。
そこで、こちらで話が進んでいるのに気づいたらしい小柴が自分の珈琲を持って移動してきた。
「安達くん、僕の妻は、小柴みのりって言うんだけど」
と刹那に話しかけ始めた。
えっ? と将生が小柴を見た。
「小柴先生のご主人だったんですか?
僕、小柴先生の授業はとってなかったんですけど。
小柴先生、有名人だったから」
「えっ?
小柴さん、奥さんも大学の先生なんですか?」
驚く琳に小柴が笑って言う。
「そう。
よその大学なんだけどね。
この間、たまたま、安達くんの話したら、
『あら、私、そんな名前の子、知ってるわ』
って。
君、名前変わってるから。
もしかして、本人かなって」
「じゃあ、安達さんは、小柴さんの奥さん、よくご存知なんですね?」
琳は思わず、そこを確認してしまう。
「いや、そんなによくは知らないんですけど。
先生ですし。
とても美しい方なので、学内で知らない人間は居なかったんじゃないのかと」
「……やはり面食いなんですか」
と何故か、そこで、将生が小柴を見ながら呟いていた。
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