あの人、なにをしようとしてるんでしょうね?

 行方不明の犬の死体とかであって欲しいんだが、と将生は思っていた。


 だが、それなら、前回、同じ状況だったから、

「私も犬の死体探してるんですよー」

とか言いそうな気もするし。


 うーん、と考えながら、うどんを啜っていると、カップ麺を食べるのを途中でやめた琳が、窓の外を見て言う。


「……気になってるんですよね、このところ」


 なにが? と琳を見ると、

「安達刹那さんが」

と庭を見たまま小首を傾げ、琳は言った。


 箸を取り落としそうになる。


 気になる?

 どういう意味でっ?

と固まる将生の前で、琳はいつも刹那が座る席を見て呟く。


「……あの人、なにをしようとしてるんでしょうね」


 ああ、そういう意味でか、と将生はホッとした。


「そうだ。

 お昼、間違えて作りすぎちゃったフレンチトーストがあったんですよ。


 今から温めるので、ご一緒にどうですか?」


「あ……ありがとう。

 金は払うよ」

と将生は言ったが、いいですよ、と琳は立ち上がる。


「私が食べたくなっただけなんで。

 辛いもの食べたら、甘いもの食べたくなりますよね~」


 そのまま、レンジの方に行く琳を見ながら、将生は思っていた。


 どうしたんだ、今日の俺。

 つきすぎてて、怖いな……。


 カウンターの内側に入れてもらっただけではなく。


 雨宮にカップ麺を作ってもらって、フレンチトーストまでご馳走になるとか。


 そんなことを思いながら、フレンチトーストが温まるまで、琳と二人で、最近読んだミステリーの話などする。


 やがて、チン、と可愛らしい音がして、レンジは止まったようだが、琳はまだ笑って話していた。


 話に夢中になってるのかな、と思いながら、将生も話していたが。


 また、チン、と鳴っても、琳はチラとレンジの方を見るだけで、立ち上がらない。


 三度目に鳴っても、琳がスルーしたとき。


 これはまさか……。


 俺と話すのをやめたくないから、取りに行かないとかっ?

と一瞬、期待してしまったのだが。


 よく考えたら、別に取りに行きながらでも話はできる。


 レンジはすぐそこなのだから。


 もう一度、レンジが鳴ったとき、ついに将生は琳に言った。


「……雨宮。

 できてるんじゃないのか? フレンチトースト」


 ああ、と琳は笑って言う。


「すみません。

 また冷めちゃいますね。


 ふと、レンジって、入れっぱなしにしてたら、どのくらいで鳴るの諦めるんだろうなあとか思っちゃって」


 ……レンジの根性を試すような真似をするな。


「さっさと取りに行け」

と将生は言った。


 やはり、こいつに色っぽい展開とか期待する方が無理だったようだ、と思いながら。





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